第11話 「舞踏会」

翠の盾の国との関係についてどうするのか。


女王である私が政治に口出しするのは差し出がましいとは思うが、白雪姫の悩みについて、王と相談したかった。彼もその件については悩んでいたようだった。


「経済的な魅力はある。そこはそうなのだが、その結果として疲弊して、国を危機にするのでは意味がない。とりあえずは彼の者が如何なる人物か、見極めてみようと思っていたところだ」そうして交流を深めるための舞踏会が開かれることとなった。


王宮の広い寝室で、私は舞踏会のために特別に用意されたドレスを前に立っていた。ドレスは深いベルベットの青で、夜空のように深く、輝く星を思わせる細かな銀の刺繍が施されていた。その豪華な布地は光に触れるたびに異なる色合いを見せ、まるで生きているかのように輝きを放っていた。


このドレスは、私の国の熟練した職人によって手作りされたもので、彼らの技術と芸術性が見事に融合していた。裾は床に優雅に広がり、動くたびにしなやかな波のように揺れ動いた。胸元と背中には繊細なレースの装飾が施され、それがさらにその高貴さと美しさを引き立てていた。


私はゆっくりとドレスを身にまとい、その感触と重みを感じながら、鏡の前に立った。ドレスは私の体に完璧にフィットし、王族としての威厳と女性としての優雅さを同時に表現していた。首元には母国から持ち込んだ貴重な宝石のネックレスを添え、その輝きが美しさを一層際立たせた。


窓からは夕暮れの柔らかな光が差し込み、ドレスの青と銀の煌めきが部屋いっぱいに広がった。私はしばし自分の映像を鏡に映し出し、このドレスがいかに私自身と国の歴史と誇りを体現しているかを感じ取った。それはただの衣服ではなく、私の身分、文化、そして美学を表現する手段であり、今宵の舞踏会で私を適切に代表するものだった。



部屋の扉がノックされる。私かドアを開けるとそこには白雪姫が立っていた。透き通るような肌。黒壇の髪。薔薇のような赤い唇。百合の花のような甘い匂いに私は目を離せなかった。彼女もまた私を見ていた。


しばらくお互い何も言葉をかわせずに、ただ見ているだけだった。気まずい沈黙が続く。

「とても綺麗ね」思わず零れるような私の感想に、ホッとしたようだった。


「お母様こそ、本当に美しいです。まるで夜空に輝く星のようですわ」彼女の声は畏敬の念を含みつつ、純粋な賞賛に満ちていた。


少し大袈裟ではないかと思うが、私に自信をつけて欲しいという彼女の気持ちは嬉しかった。


「ありがとう、お世辞でも嬉しいわ」お礼を言うが、彼女は何故か不服そうだった。

いずれにせよ他人から見て問題なさそうだ。少し安堵する。


彼女を部屋に招くとそれからいつもの薬湯を白雪姫に渡す。手渡されたそれを飲むと、目を閉じて呼吸を整える。国賓を招いた舞踏会の最中に倒れるわけにはいかないから、という白雪姫からの相談からだった。


お礼に何かをしたいという彼女ではあったが、私からは特に望むことはない。出来ることをしたまでだと言うと、これまた不服そうな顔をしていた。「お母様はすごいのに、謙遜しすぎです」もっと誇ってもいいのにと文句を言っていた。


「お母様のドレスも素敵なのですが、少し待っていてくださいね」と白雪姫は手に持っていた白い百合の花をあしらった飾りを私に差し出す。その飾りは繊細で、花びら一枚一枚が精巧に作られており、自然の美しさを捉えていた。


「私をイメージした花飾りです。私だと思ってつけていてくださいね」彼女は言い、私の髪にそっと飾りを添えた。


白雪姫の手が髪に触れると、彼女の優しさと愛情が伝わってきた。鏡に映った私の姿は、青いドレスと白い百合の飾りが見事に調和し、王室の風格と自然の優美さが融合したかのようだった。白雪姫は一歩下がって私を眺め、満足そうに微笑んだ。


それから白雪姫は部屋にあった青い薔薇を胸に刺す。純白のドレスに薔薇の青が映える。これでどうかしら、と私の顔を覗き込む。「大丈夫よ、可愛いわ」その一言が聞きたかったのか、満足そうに部屋を出る。「さぁ、行きましょう。お母様。私達が主役ですわ」


自信に満ちたその声に思わず笑う。私は髪飾りがあることを確認し、頷く。私達は会場へと向かった。

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白雪姫 @amy2222

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