第10話 「手紙」

植物園の中で薬草の配置を調整していたとき、強い足音が聞こえた。顔を上げると、怒りに満ちた表情で白雪姫が駆けて来る。緑豊かな植物園の静けさが、彼女の怒りで一瞬にして破られた。


「お母様、これを見てください!」白雪姫は一通の手紙を振りながら言った。手紙は翠の盾の国の紋章が押された重厚な封筒で、開封されたばかりのようだった。


手紙を受け取り、封を切ると、中から翠の盾の国の王子アルトからの婚姻の提案が書かれていた。彼は白雪姫の美しさと賢さに惹かれ、両国間の同盟を強化するために結婚を望んでいると書かれていた。


白雪姫は手紙を投げ捨て、「どうしてこんなことになるのですか?」と怒り心頭で問い詰める。私は深呼吸をして、彼女を落ち着かせようとした。「これはただの提案でしょう。あなたが望まなければ、何も進まないわ。」


植物園の中、花々が朝露に濡れてキラキラと輝き、遠くで小鳥が囀る。しかし、その平和な光景とは裏腹に、私たちの間の空気は緊張で張り詰めていた。


「でも、彼はただの提案ではないでしょう? 私たちの国にとって重要な同盟関係がかかっている。悪い人ではないとは思います。ですが…」白雪姫の声が震えた。


「まだ決まったわけではないもの、もう少し考えてみましょう」静かに彼女の肩を抱き寄せ、彼女が感じている重圧を和らげようとした。


この提案がどう展開するかは未知数だが、私は白雪姫が自分の道を選べるように支えたい。彼女の幸せが、何よりも重要だ。周りの自然の美しさが、少しだけ心を和らげてくれることを願いながら、白雪姫と一緒に未来について考えた。



植物園の一角にある小さなテーブルで、白雪姫と一緒にハーブティーを飲みながら、提案された結婚と同盟のことについて考えた。テーブルの上にはラベンダーとカモミールの花から作られたティーが香り高く、穏やかな午後の空気に溶け込んでいる。


「この同盟がもたらすメリットは確かに大きい。我が国と翠の盾の国との間には長い平和と繁栄が約束されるかもしれないわ。互いの経済が発展し、軍事的な安全も保障される。」ティーカップを手にしながら、静かに言葉を紡いだ。


白雪姫は静かに聞いているが、彼女の目には疑問が浮かんでいる。私は深呼吸して続ける。


「もう一つ考慮すべきデメリットがあるわ。翠の盾の国はその富と戦略的な位置から、常に侵攻のリスクに晒されている。我々が結びつくことで、その危険が我が国にも及ぶ可能性があるの。」


テーブルの上には依然として香り高いハーブティーが並び、その穏やかな香りが重苦しい会話を和らげてくれる。白雪姫の顔には理解の色が浮かび、彼女は深く頷いた。「そのリスクも理解しています。でも、同盟によって得られる安全と繁栄も大きい。私たちがどうバランスを取るかが問題ですね。」


彼女の成熟した反応に安堵し、私もまたティーカップを手に取る。「その通りよ。全ての選択にはリスクとリターンが伴う。大切なのは、それが長期的に我々と我々の国にとって最良の選択であるかどうかを見極めること。とはいえ私達が話していても仕方のないことかもしれないわ」


庭からはさわやかな風が吹き抜け、新緑の葉が軽やかに揺れる。自然の美しさが、この緊張した議論に一時的な安らぎを与えた。

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