第9話 「王子」

夜明け前の薄暗い空の下、アルト王子が馬を駆ける。彼の鎧は暁の光に照らされて煌めき、剣の刃は血に濡れても未だ鈍ることはない。彼は戦場を横切りながら、神への祈りを心の中で唱え続ける。その祈りは、彼の残忍な行為を正当化し、彼の心の平安を保つためのものだ。



白雪姫の隣国、アルト王子の国は外部からよく「翠の盾の国」と呼ばれる。その名は、豊かな自然環境と防御的な軍事戦略に由来している。豊富な森林資源を背景に持ち、これを利用した木材貿易で繁栄しているため、外からは自然の恵みを活かした「翠の盾」として見られている。さらに、国は自然の地形を利用した防御施設が整っており、侵略者に対して強固な防衛態勢を保っていることで知られていた。



王子が率いる軍は、その訓練と精鋭性で「緑の軍団」とも称され、国境を越えた戦闘でその名を轟かせている。この緑豊かな国が敵にとっては難攻不落の「盾」となっているため、外部からは一目置かれる存在だ。


その一方で、彼の国は長年にわたる戦争と軍事的な緊張により、その名は軍事的な強硬さと内政の厳しさを暗示している。外部から見た彼の国は、その自然の美しさと軍事的な強さが混在する複雑なイメージを持たれている。




「主よ、この剣が正義のために振るわれますように。」


馬蹄が土を蹴り上げる音が夜の静寂を打ち砕き、戦場は次第に悲鳴と剣のぶつかる音で満たされていく。彼の顔には戦士の冷徹さが浮かび上がり、その目には戦いの激しさが映し出されていた。彼の剣は正確無比に敵の弱点を突き、一撃ごとに命を断つ。



夜が明けるにつれ、アルトの前に広がるのは勝利の景色だ。彼の胸中には、戦いの甘美な高揚感と、深い罪悪感が同居する。彼はそのすべてを神に委ね、馬を駆って戦場を後にする。その姿は、神に導かれる勇士のようでもあり、運命に翻弄される悲劇の英雄のようでもある。




制圧が完了した土地で、アルト王子は兵士たちと共に広場に集まっていた。戦闘の疲れと緊張がほぐれ、兵士たちは堅苦しい隊列を解いて、息をついている。アルトは彼らの前に立ち、そのすべてを見回す。彼の視線は一人ひとりの顔を捉え、彼らの目に映る尊敬と恐怖の入り混じった表情を確認する。


「兄弟たちよ、今日の勝利は君たちの勇気の賜物だ。しかし、私たちの戦いはここで終わりではない。この勝利をもって、さらなる平和への道を切り開くのだ。」


アルトの声は堂々としており、彼の言葉は兵士たちに力を与える。彼は一歩前に進み、兵士たちの中に深く入っていく。彼の手は泥まみれの肩を叩き、労をねぎらう。彼の接触はぞくぞくとするようなもので、兵士たちにはその瞬間が永遠のように感じられるかもしれない。


彼らが見るアルトは、ただの王子ではなく、神が与えた指導者のように映る。その姿は戦場で彼が見せた残酷さとは対照的で、ここでは彼が持つ包容力とリーダーシップが際立っている。アルトの姿勢はまるで彼が直面するすべての困難から彼らを守る盾であるかのようだ。


兵士たちはアルトの周りに集まり、彼らの顔には疲れながらも満足感が浮かぶ。彼らの中にはアルトに感謝の言葉を述べる者もいれば、ただ黙って彼の存在を崇拝するように見つめる者もいる。


アルトはそのすべてを受け入れながら、心の中で再び祈りを捧げる。「主よ、私を導き、これらの魂を守る力をください。」祈りを捧げるが、心は晴れない。勝利は収めたが今日もまた兵士が死んだ。いつになればこの戦いは終わるのだろう。勝利に高揚する兵士を他所に、ひとりその場に静かに座る。いつかが来るように。そう願って目を閉じる。


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