#45「パッチワークソルジャー・・・!!」
見渡す限りの高い熱帯雨林。探検装束に着替えたぐらたんたちは、生い茂る草木を掻き分け、王都スパークリングスから南東に位置する密林の中、レインボーコーラル湿地帯を進んでいる。
沼が多くなってきたため、倒れた巨木を足場に湿原を進んでいく。
岸辺や足元には光る珊瑚のようなシダ系植物レインボーコーラルが生えているため、日光が届きにくいこの中でも明るい。
茂みを抜けると河が見え、向こう岸には目的地の遺跡。レインボーコーラル遺跡の入り口が見えた。
なぜ遺跡を探検することなったかというと、時間を戻そう。
★★★
レインボーバブル宮殿の王室。
国王はピカピカとうるさく輝くが、暗く怯えた表情で答えた。
「・・・。あの時の恐怖は忘れない。勇者から妙な小箱を受け取った3年後に事件は起こった。それは地下の宝物庫・・・」
下から照らすスーツの光で、陰ができた国王の顔の方が怖い・・・。ぐらたんたちは息を呑んで話しを聞く。
——12年前
27歳の頃、即位して間もない若き国王コーラス・スパークリングス・レインボーバブルはソーダ酒を片手に、真夜中の地下冷暗所を出た。
「パーフェイ(ドルチェル国王)のあんぽんたんめ・・・。俺の娘をチャラ男息子シュクルの嫁によこせと言ってきた・・・。くそ・・・やってらんねー」
猫背でふらふらと地下を歩く。
娘のカルーアはまだ4つ。好きな子供向けアニメのゴッコ遊びに付きあわせられるが、メチャクチャかわいいすぎて仕方がないと言うのに・・・・・・あのクソガキに娘を渡してたまるか!!
クソ親父が退位し、引き継いだ戦後処理も忙しい。魔王が討伐された今、神々を不審に思った輩も際立ってきた。しかもバニラホワイトの独立の動きが強くなり、雲行きが怪しくなってきた。こんな大変な時期に・・・!
あの女狐め!!
だから、魔王国を攻めるは反対したんだ!
大変なのにも関わらず、全国で収穫祭を始めおって、この事態をひた隠しに隠そうとしている。民衆を煽るだけだ。マスゴミのブタどもめ!
くそっ!!!
コーラスはボトルキャップを取り、ぐいっとソーダ酒を豪快に飲む。
「ぷはーー!! みなぎってきた!!! やはり名産のレインボーサンダーは最高だ! ん? 宝物庫が空いている!?」
扉の空いた宝物庫から明かりが漏れる。そこからガソゴソと音が聞こえる。
「あ~!!? 野盗だと? 警備の者はどうしたんだ? くっ・・・長きに伝わる剣技スパークリングス流で知れ渡る俺の家と知ってて盗みを働くとは!! 許せん!」
最後の一口を口にふくみ、空になったボトルを投げ捨てると壁にかかった剣を手に取った。そのまま、宝物庫に踊り出る。
宝物庫にいたのは野盗ではなかった。初見は逆光でよく分からなかったがシルエットは翼を持った熊のように大きな体で、バサバサにはねた長い髪が印象的だった。
宝物庫を漁っていたのは、魔物だった。
黄金の目がコーラスとあった。
「ぶふう~! うわああああああああ!!?」
口に含んだ酒を思わず吹き出すと、絶叫してコーラスは剣を振い立ち向かっていたのだった——
「——。アバラを折っただけで奇跡的に吾輩は助かった・・・荒らされた宝物庫から、なくなったのは勇者からもらった箱だった」
ネビロスは聞いた。
「その怪物が・・・献上物を!? 今はどこにいるんです?」
国王は話を続ける。
「ああ・・・王国のものだから軍やギルドに奪還を依頼したが、ことごとく返り討ちにされてしまった。分かったのは奴のアジト。レインボーコーラル湿地帯の奥深くにある遺跡・・・」
「じゃあ、その遺跡に潜入してお宝を取り返そう! ダンジョン探索か~!!」
カオリはテンションが上がり立ち上がった。
「・・・。止めはせんが、出来るなら、やめておいた方がいい・・・。ヤツは・・・天魔戦争の亡霊! 忘れはしない・・・立髪のような銀色の長い髪。あの大きな翼、どっしりとした巨体にトラのような屈強な腕、ドラゴンのような尻尾。ヤツは戦争が生み出した魔導生物兵器キマイラ・・・! ヤツはキャラメール砂漠のパッチワークソルジャー・・・!!」
ぐらたんはその部隊名を聞いて驚愕した。
ツギハギ部隊、通称パッチワークソルジャー。候補生時代、魔界戦史で学んだ。
人間界の最前線キャラメール砂漠に上陸した旧魔界連合軍一個師団だったが、補給と戦力補充がままならない環境で戦力を確保するために現地の色んな魔物を使って作られたのが魔導生物兵器キマイラだ。そのツギハギの魔物たちキマイラで編成された陸軍キャラメール侵攻軍最強の部隊、それがパッチワークソルジャーだ。
生き延びるために略奪、更には友軍への攻撃など。
彼らによる蛮行は天界、人間界だけでなく魔界にまで恐れられている。
しかし、魔王国ができる前に、天界軍の掃討作戦でパッチワークソルジャーは壊滅したはず。
それも100年以上前のことだ。
「ホントに~!? そのパッチワークソルジャーなら王様は生きているはずがないよ・・・」
国王は手で顔を覆い、トラウマが蘇った。スーツの発光パターンがまた変化した。
「・・・間違いない! 吾輩の剣は一瞬で4つに切れた。逃げようとしたが回り込まれ、その屈強な腕で吾輩をベアハッグした。そして・・・長い舌でベロベロとなめずりして大きな口を開けた・・・吾輩はあの怪物に食べられるのだと・・・・・・その後吾輩の記憶はない・・・。あれは間違いなくパッチワークソルジャー!! あれ以来、吾輩はレインボーサンダーが飲めなくなった」
アギャンは小声で答えた。
「お、お酒で酔ってただけじゃないギャン?」
「しー、ダメだよアギャン」
カオリはアギャンに小声で返した。
「ボッチなんとかソルジャーかどうかはともかくとして、レインボーコーラルにある遺跡にその献上物があるんだろ? 取りに行かないと始まらない・・・そうだろ」
頬杖をつくやどりんはネビロスに目をやる。
「そうだ・・・何があろうとも、僕たちは勇者の献上物を手に入れなければ・・・・・・みんな行こう!」
机の上でネビロスは呼びかけ、みんなをまとめる。
「そうか。そこまで言うのなら、もはや何も言うまい・・・ネネ君、キマイラ討伐の再開を頼む」
「はっ!」
★★★
筏で河を越えて遺跡の入口前まで到着した。
やどりんは地面に根を張り、端末を広げる。端末からは簡易ながらも、ホログラムで3Dマップが形成されていく。
感心しながらカオリはかがみこんで、マップを見つめる。
「ヤドリギの実って便利だね~」
「そーだろ。ドローンとしても利用できる。しかし、結構広いな。完成には程遠い・・・」
やどりんは歯がゆい気分で即席で解析したマップを眺める。立ち往生しているドローンからくる神通力の信号で、その先に侵入できない不明な箇所がいくつかある。
戦闘服姿のネネは大剣を背負い、アサルトライフルのチャージングハンドルを引きながら声をかける。
「ないよりはマシさ、助かる。ぐらたん、カオリ、アギャン、ネビロス」
「「承知」」「おーけー、ネネさん」「分かった」
返事する4人はネネの後に続くが、
「そ、某は?」
取り残されたウンギャンはキョロキョロ見回す。その様子にチラっと目を向けるやどりん。
「アンタは、アタシの護衛だ。こんなところアタシ一人、残しておくのか?」
「それもそうだギャン。では、やどりんは某が守るギャン。各々方お気を付けて」
リュックから
遺跡の中へ入っていくぐらたん達を見送るのであった。
魔法少女ぐらたん Yorimi2 @Yorimi2
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