野焼き

@ku-ro-usagi

読み切り


高校時代からの仲良し4人組。

今度の三連休久しぶりに会おうってなった時に、

「両親が旅行でいないから泊まり来てよ、リビングで雑魚寝だけど」

って、それはそれで修学旅行みたいで楽しそうってみんなでお邪魔させてもらった。

最後まで部には昇格できなかったオカルト同好会の仲間。

誰か結婚するまでは、細々と集まりを続けようって言ってるんだけど、寿命の方で離脱者が出る方が早いかも、と軽口が出るくらい、それくらい誰も浮いた話がでない。

まだ笑えてるんだけどね。

いつまで笑えるかな。


ただの飲み会だとだらだらしちゃうから、お題を決めて、それに沿ったネタを1つ披露することに決めてる。

今回のテーマは、

「火」

結構難しいかなと思ったけど、身内の内輪ネタだし、4人しかいないから、ハズしても問題なしってことで、友人の家のリビングで、鍋を囲みながら始まった。


1人目

「夜中に、住んでたアパートの真下の部屋が火事になったんだよ。

何か騒がしくて変に暑くて空気もなんかおかしくて。

それで目が覚めたら、

『火事だ!』

って外からの声がしてさ。

慌てて外に逃げて大事には至らなかったけど。

怖いのが、火事の原因になったアロマキャンドル焚いてた下の部屋の女、そいつ、自分だけさっさと外に逃げて消防署にもどこにも通報もせずにいたんだよ。

『怒られるのが怖くて~』

だって。

赤の他人が死ぬより自分が怒られる方が嫌らしい。

あぁ、でもね、見事にそいつの部屋だけ綺麗に燃えて、私の部屋含め、他の部屋は煙臭いくらいで物とかは大丈夫だった。

火ってより人怖かな」


2人目

「初めての彼氏でさ、彼氏の部屋でね、いい雰囲気になって、いざ事に及ばんって時よ。

ベッド脇のサイドテーブルに鎮座してた間接照明の白熱灯の熱で、真下に置いてあったティッシュが燃え出したのさ。

ボーボー燃えるからわーわー慌てて火を消して、消した後は勿論もうそんなムードじゃなくなっちゃって」

「それでね、じゃあ次はラブホテルだって行ったら、ホテルの火災報知器誤作動で消防車が来て、当然それどころじゃなくなって」

「ならば旅行でって、張り切って旅館へ泊まったら、他の客の煙草の不始末で本当の火事起きちゃって避難させられてさ」

「あーもうこいつといたら、私、一生処女のままだわってそれが嫌で別れた。

え?一応『火』の話よ、火。

処女はどうなかったか?

デリカシーないこと聞くなバカ」


「パンが焼けるとポンッと食パンが飛び出すポップアップトースターあるでしょ。

動画サイトで焼いてる人を見掛けて、私もパン好きだから、近所のホームセンターで売ってた、人気メーカーのデザインに似せたそれっぽい安物を買ってみたんだ。

でもね、さすがそれっぽく見せ掛けただけの偽物。

バネがものが強すぎるのか、黒ひげ危機一髪みたいにパンが、

ボーンッ!!

って飛び出して低い天井までヒットするんだ。

焼けたパン屑もはた迷惑なほど一緒に撒き散らされるし、火力もおかしいのか、パンが、

「ボンッ!」

と跳ねる頃にはまだらに酷い黒焦げ。

それでさ、私も大概アホだから、

(水分を含めば焦げもましになるのでは?)

とバター塗って焼いてみたら煙出て来て、マジで火を噴く5秒前。

バターは水分じゃなくて油なのね、失念してた。

これはダメだと、不用品回収の日にゴミステーションに出したら、まだまだきれいなせいか、回収前に誰かに持って行かれた。

火事にならなきゃいいけどなーって思ってたら、ほんの数日もしないうちに、朝から、近所の古い平屋の木造賃貸が燃えてるーとかで、消防車がサイレン鳴らして消火活動してた。

夕方に少し遠回りして見に行ったら、その一角だけ見事に焼け野原になってた。

あぁこの家の人が盗ってったのねーって。

安物、拾い物にはそれなりの理由があるんだよ。

それからは、ちっちゃな家電でもなるべくMADE IN JAPANに拘って買ってる」


4人目

「以前からね、何度も何度もやめて欲しいって、うちだけでなく周りからも言われて、通報だって何度もされてるのに、空き地で焚き火してた近所のおばさんがいるんだ。

そんなド田舎でもない住宅街だから、周りは洗濯物は干せないし臭いも家の中に入ってくるし、風の強い日なんかもやるから、延焼が怖くてすごく迷惑してたの。

おばさんはその日も野焼きしてて、近所の人もみんな眉を寄せてた。

そしたらね、その日、その時だけ、奇跡的におばさんの元にだけ突風でも吹いたのか、もしくは目眩でも起こしたのか、おばさんが不意によろけてね、焚き火に倒れ込んだんだ。

当然、おばさんはあっという間に火達磨になった。

転げ回って自分でもどうしようもないのか、転げ回る中で自ら焚き火に転がり込んでる有り様。

おばさんのあんな萎れかけた肉でもね、焚き火はいつもよりボーボー燃えてた。

気持ちいいくらいに。

うん。

家の二階からね、干したばかりの洗濯物をしぶしぶしまおうとしていた母親と、それを手伝おうとしていた私だけじゃない。

犬の散歩してた近所のおじさんも、買い物から帰った自転車で通り過ぎようとしてたおばさんもね、見てるだけで誰も助けなかった。

誰も、水を消火を、何て思わなかった。

先に一瞬だけ聞こえた凄い絶叫で、気付いているはずの他の家の人もね。

誰一人。

きっと、みんな同じ目を向けてた。

『あぁ、やっと死んでくれたか』

って視線。

その場に居なくても、みんな気持ちが1つなのが手に取るように解った。

それで、元はおばさんだったものが動かなくなってしっかり燃えて真っ黒になるのを確認してから、みんな初めて警察に通報した」


そんな風に話す友人の家のリビングの前は空き地。

オープン外壁なため、空き地もよく見えるけど、もう日も暮れたこの時間。

開きっぱなしのカーテンのかかる大きな吐き出し窓には、今は部屋の明るさで自分たちが映っているだけ。

「え、待って、作り話だよね?」

「そこ、空き地だったよね?」

引いている友人たちの問いに、

「ふふん、怖かったでしょ?」

ギャーギャー騒ぐ2人に友人は笑う。

「そろそろカーテン閉めようか」

友人が立ち上がり窓の前に立つと、つられて視線を向けた先に、

(あ……)

外の空き地に真っ黒な影が見えた。

室内の明かりの反射で何も見えないはずなのに。

何かまだ燻っている様な、人のような黒い影。

友人にも見えているのか、ただ眉を寄せて不快そうにカーテンを閉じた。


夜は、どこからか絶えず、パチパチ、バチバチと何かが爆ぜるような音がして、あまりよく眠れなかったし、鼻にも何か焼けるような臭いがずっと漂っていた。


皆も何かしら感じていたらしく、翌日は満場一致で昼から焼き肉ランチへ行った。

とてもおいしかった。













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