第8話 ナギ姉

驚愕で一言も言い出せない


「冗談…」


「今更誰かが冗談する気があるかよ!」


いきなり声を上げて泣きそうな返事は、まったく立花っぽくない。


やっぱり、友達が死んじゃって悲しくてたまらないんだろう。


「考えろ、この写真とお前の記憶から、どんな結論を導き出せる」と石井すら僕を急かし始まった。


聞かれなくてもやることだろうと心で文句を付けて、ひたむき新聞紙に載せた写真をじっと見ていて、何か役立つものを見いだそうとした。


結局、失敗だった。記憶と全然違った現場、そして思いがけない被害者、どうしても頭の中その死体の模様と合わせない。


でも、そうであれば、共通点も異常ほど多いんだ。


期待している石井と立花さんは、そこに立っているだけで十分圧迫感が感じられた。


頭には確かな推測が浮かび上がった。


「また、被害者が出る」


と勘によって結論を下した。


頼れないって知っている僕は、なんとなく自分が超能力者ということを納得したようだ。


「あんたの見た被害者は、まぁつまりわたしだね、佐倉さんと違った様子で死んだと?」


「そう、よく見ないと気づけないけど、違ってる」


「次の被害者、予想できる?」


「上辻さん、かも」


実は、嘘をついた。


とうてい、姉はこれから死んじゃうこの予言は、言いづらすぎるんだ。



看病時間を過ぎて、石井と立花も帰ってきた。残った僕は一人っきり。


言い出せなかった言葉は、今の状況よりなんと細かい、と実感した。


と言っても、実は言いたくなかった。まるで恋人への告白みたい、両方も明確にわかっている感情もが、言うチャンスが必要なんだ。


僕は姉の遺体を見たことはなかったのも、ナギ姉は元々生きているだけなんだ。


そして今から見れば一切の不調がなくて、病院では治療を受けたためだろう、というのは不可能だ。


記憶の中の意外は、ナギ姉が頭が床にぶつかって意識を失うから始まった。聞くだに凄まじいことで、簡単で病院に済ませる怪我であるわけがない。それに、あれからナギ姉を見るどころか、聞いたことすらなかったのも怪しい。


推理によって導き出された真相は、ナギ姉が運ばれたところは病院でなくて、石井の母さんがいた三石大学の研究室である!


どこからの情報でナギ姉のことを知った石井は、彼女が転校してからずっと注目していて、何らかの手段で彼女に罪を償わせる。たぶん、僕のことを接近するのもそのためかもしれない。


辻褄が合った!自分を保護するため、精霊の力で一時に僕にそんな景色を見せて、そして石井のプランを乱す。さすがナギ姉、いつものように頭キレてる!


なら、最後の問題も来るーー僕、誰の味方になれば良いのか。


強くて目標達成までたゆまぬ石井か、神秘的で底しれぬ力を持っている立花か。


これは運命まで関わる二択一、人生の三叉路。


佐倉さんが死んでから二日目、警察だけではなく、各地のメディアの記者たちもこの大きいとは言えない村に集って、大変に賑わいになってきた。


その中には、悲しみや同情など皆無で、人の注意を引っ張る問題ばかりがきかれてしまった、


「死者の佐倉さんは、以前いじめなどと関わりがありますか?」


「学生としての佐倉さんは、どんな人と思いますか?」


案件自身に満足せぬ記者たちは、個人的で僕も知らないプライバシーまで及ぶ件について山ほど聞かれて、クラスメイトどうしはおろか、先生すら答えられなくて弱っちゃって、旅館に引きこもりになった。


学生が学生だけに、学校の風評被害もありがちになるんだろうと無駄なことを考えて、澄み渡る空を見上げた。


静かなる景色にひきかえ、心は不安に満ちている。


「次の被害者…」


頭の中には、その日の景色がまた思い浮かんだ。


「最悪の準備をしなきゃ、言いづらくても教えに行く!」と携帯をいじって、メールを送信した:


TO 立花小夜

 今日、夕べ、砂浜。

 話がある。いい?

羽原埃



いつものような海岸線、いつものような暮れている空。


僕はひたすら佇んでいて、静まる海を見渡す。


「何の要件だ?」と明らかに不機嫌な声が聞こえてきた。


そこにいる立花さんはシワを寄せて、以前の優しさは皆無だ。


記憶の中のナギ姉は優しかった。でも、目の前の人は、どう見ても不良少女みたいなやつだ。


僕が知っているナギ姉は優れていた優等生なんだ。でも、目の前の人は、クラスにはただの一般人だ。


でも、僕のことをあれだけ知っている人は、たぶん、ナギ姉以外いないんだろう。


記憶喪失を経験したのに、僕のことを忘れないことは、ナギ姉以外はできないんだ。

アクにろうとも、僕、姉さんを守るべきだ。


姉さんだから。


石井がどんな罰を与えようにも僕も納得できるけど、姉さんを殺すだけは、納得できない。


石井は犯人かどうかは知らないけど、僕はその死から、自分ができる限り姉さんを守る。


僕、勇者だから。


「ナギ姉」僕は背を反らして、その名前で呼びかけた。


立花さんの顔を見る勇気はないけど、長い沈黙は僕の推測の正しさを示した。


「はい、なに」と、喜悦のあまりに聞こえたのは、この答えだ。


「次殺されちゃう人は立花さんかも。気をつけて。」


「はい、わかった、ありがとう」


頗る冷静な返事で、何を言おうにも言えないんだ。


「涼司くんも、気をつけて」


「え、どうして?」


「あなたは超能力者だから」


振り向くと、立花さんはもいないんだ。


初めて、立花さんは「涼司くん」その呼び方を使ったみたい。

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勇者と精霊の三年五組 秋津 涼 @zanshu

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