第7話 悪夢
その日から、立花さんをできる限り避けて自分への影響を最低限に必死に抑えていた。友達の高野さんも僕の異様を気づいたようだった。
石井さんと彼女の花宮は山へ冒険に行ったときは即ち高野さんとの時間だ。夏の日差しを浴びて普段見えない海の風景を満喫するのは人生に欠けないことだとその時わかった。
「まるで、世界は僕たち二人だけが残されたみたいね、涼司ちゃん」
「そうだね、それも悪くない」
浜は波に何回も打たれる音が心に安らぎをもたらし、この間あった忌々しいこと全部放っておくようになった。
「ところで、最近、立花さんとどうした?いつも避けているそうだね、涼司ちゃん」
殺風景な話だね。
「なんでもないよ、つまらないことばかりだった」
「まさか、ほんとに付き合ってる?その子と」
「なにそれ?こんな噂まで流れている?」急に高野さんに向いて、声を上げた。
「そうだよ、って知らないの?相変わらず鈍いね、涼司ちゃん。そういえば、最近男子たちではかなりの人気あるよ、その子」
「僕ってそんなこと興味ない」
「興味ないって、嘘」
「なんで?」
「勘」
「って根拠もないじゃん」
「あんたはどう思ってもいい」高野は突然両手を上げて、「もう一つの噂、涼司ちゃんと関わってるらしい」
「ゴシップなんて聞きたくないよ」
「いや結構面白いよ」、高野はこっちに向いて微笑んできた、「涼司さん知っている?あんたと立花さんは、ちょっと似てるよ」
「…どういう意味?」
「字面通り、顔は似てる。まぁ、涼司ちゃんは女子っぽい顔してるから、こう言われてもおかしくないよね、あはは」
「バカにすんなよ」
「さぁ、どうかな~」海水を掬って顔を洗う、「スッキリした!」
立花さんは、僕のことを、どれだけ知っているだろう。
スマホで時間をチャックして、七月十四日午後2時34分。
昼休みの時、全く眠気もなくて、街で歩き回っていた。
村からといって、アイスクリーム屋ぐらいもあるんだ。記憶には、子どもの頃からよく行く店だった。
「おじいちゃん!アイス一つ頂戴―」
アイスクリーム屋さんはそのおじいちゃん変わらなかった。昔よく僕と遊んでくれた。
「え?どちらの方でしょう」新聞を読んでいるおじいちゃんは眼鏡を正して、歓びの声を出した、「おや!涼司じゃない!帰ってきたか!これから村に住むのか?」
「いやいや、ただ合宿なんだ、一週間ぐらい村に泊まるよ」
「そりゃどうでもいいや!またじいちゃんのこと覚えてくれるくらいは大変うれしいや!ほら、今日アイス奢るのさ、遠慮なく!」
「おじいちゃんは前のように元気だね、もう何年ぶりだろう」
「十年だろう、時は早いね、涼司ちゃんも、こんな立派な男になったよね」
「そういえば、お姉さんは?来たのか?」
そうだった、おじいちゃんはナギ姉のこと、知らなかった。そんな悲しいことは避けたほうがいいだろう。
「ナギ姉は、えっと、風邪を引いたから、来られなかった」
「そうっすか、残念だったよ。この間来ると言ったのに」
「この間?」
「一ヶ月ぐらいだったね、そう言ったよね」
「人、間違ってないか?」
「そんなことないよ、電話してくれたから、その声は絶対凪だ。わしは凪ちゃんの声を忘れるぐらい老いていないぞ」
何だと。
まさか、ナギ姉は、生きている?
そんなこと、ありえないはずだったけど、おじいちゃんも嘘をつくようじゃない。
「ご,,,ごめん、ちょっと用事があって、アイスは結構だ、好意だけ受け入れる、バイバイおじいちゃん!」
「あ、気をつけてね!」
頭には、大胆な推測が浮かんできた。
僕は全力で走ってホテルに戻る。
「立花さん?昼休みの始まってからホテルにいなさそうだ。」女子寮の笹倉さんはそう教えてくれた。
なら、そいつが行ける場所は、あそこしかないんだ。
砂浜へ踏み込んで、立花さんの姿が見えなかった。
「一体どこへ!」
海岸に沿って、彼女の歩いた道を取って、記憶の中の足跡を合わせて、走り抜く。
「立花さん!立花さん!」
答えはなかった。
いやな予感は生じた。眩しすぎた日差しはいま、皮膚を焼いているようだった。
そして見たのは、これから一生忘れられない風景だった。
血にまみれた手、鋭いナイフ、バラバラになった死体。
蝉の鳴き声は喧しい、あたかも悲鳴だった。
その後のこと、僕は何も覚えていなかった。
目覚めると、僕はベッドに寝かされたことを気づいた。
周りには誰もいない、静まり返った部屋だった。
僕は叫びたかった、泣きたかった、自分の不幸を神様に吐きたかった。
紐に縛られていないけど、体は鉛のように重くて動けなかった。酷く衰弱だった僕は、この暗闇に絶望を初めて味わえた。でも、なんとなく懐かしさもその中にあるみたい、まるでどこかで同じ状況になって、同じ苦痛も経験したらしい。
混沌した僕は、過度の思考に耐えきれなくて、意識を失ったように眠り込んだ。
「おい、おい、起きろ、起きろ、死んだフリしてるよねお前!」
まどろみの中では声が聞こえた。それは人の声、それに石井の声だとすぐにわかった。かろうじて瞼を開いて、眩しい光が目に直射して何も見えなかった。
次の瞬間、誰かにすごい力でベッドから引っ張られ、さっきから何も知らないままの僕は自分がほぼクラス全員の生徒たちに取り囲まれたことを気づいた。
そして、まるで一秒前に起こったことのように、恐ろしさで歪んだ顔色はたちまち現れて鋭い石井さんに気づかれた。
「ねぇ、何が起こったの?」
「何って、知らないの?立花さんは、立花さんは…」
「わたしに、何が?」
垂れている黒髪、自慢げな口ぶり、その声は、立花さんのものに違いない。
平気で、バカを見ているような目つきで見つめている立花さんは、今や僕の目の前にいる。
神様のいたずらは、悪趣味で極まりない。
「なんだよそんな突拍子もない話、わたしに対しての不満はこれだけ強いの?どうせいいことじゃないだろう?あんた、まじで根性は下劣だね」
「いや…」
言葉を失って、沈黙に落ちた。
頭の中はクラクラして、今の状態も理解できなかった。
「みんな、帰れ。」
不調を気づいた石井さんは看病に来た立花さんを含む全員を外にして、僕のベッド脇に座って問いかけた、
「立花さんは、どうした?」
「もういいよ、ろくでもない話だし」
「ただ興味があるから、教えてくれよ」柔らかな口調はこの人と気持ち悪いほど相応しくないと言っても、僕の慰めとしては十分だ。
布団に見つめているばかり、何も言わない僕に想像以上の強い辛抱で、彼も黙っていながら、僕のことを待っているだけだった。
「わかったよ、いうよ」
意識が失った前に見たことを全部彼に教えた。ただ、なぜあんなときにあそこにいる理由は誤魔化して嘘をついた。
「そうなんだ、とても面白い話」
「信じてるの?こんな馬鹿げなことなのに」
「もちろん信じるよ、涼司の言う事を」
人生では一番喜ぶべきことといえば、こんないい友達が出来るのをおいて他にないんだろうと、正直そう思った。
「伝えておくよ、お前のいうことを」
「え?誰に?」
「立花さん、当然だろう?」
「ええええ、なんで?彼女、こんな話絶対信じられないよ」
「さぁ」
呼び声をよそに、手を取っ手に置いて、突然大声出して、ドア越しに誰かを呼んでいるらしい。
「盗み聞きはだめだよ、入れ」
初めてはジョークと思ったが、取っ手が動いて、後ろからほんとに人が出てきたのを見ると、僕は石井のことを感心してならない。
「ほんとに見たとは、あんたはどうやってこんなこと知っているの?石井さん」
立花さんだ。でも顔から見れば機嫌が悪そうで僕ではなく石井を見ているようだった。
「ええ?どういうこと?」
「羽原さん、すごいよ、あんたは、超能力者だぞ」と喧嘩を売っているような目つきは僕の顔に移って僕のことを皮肉る、「殺人事件の現場に行ったこともなくて現場の状況が予知できる能力、これから大変になるぞ、勇者さん」
丸になった新聞紙はこっちに飛んできて、そこには、僕は見た死体と似ているものがある、モザイクでぼやけた写真が載せた。
「これは今朝の新聞。佐倉さんは殺された」
「なんと?!」
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