第6話 恐怖
「…!」
「勇者って、どうしてそんなこと知っているの?」立花さんの後ろ影を追いかけていた。
「それは、伝説の中に出たものから。」
「その…いやごめん、いきなりあれだけのことを教えて混乱しちゃった。」
おかしい。
伝説といえども「精霊の力」の件と共通点多すぎる。それに、どう言っても僕は稲垣生まれの人だけど、以前こういう伝説って聞いたことない。
絶対立花さんの作り話だ。
でもこの方がよりわけわからん。立花さんは部外者じゃないのも事実だろう、つまりこういう物語は彼女が支配者であることの可能性を上げる行為だ。
でもなんでよりに僕?ということはともかく、なんでこんなことをするんだろう?
支配者なら、自分を隠すのは上策だ。まさか、僕を殺すため必要の行動?
僕はいちいち彼女に迷惑をかけて我慢できなくて僕を殺したがってくる、これぐらいなら納得できる。
でもこうなれば今は逃げるしかないだろう?
しまった、油断しちゃった。石井さんも絶対自分の勝手な計画が僕の死まで招いたとは思っていないだろう。
どう見ても今はもう遅すぎた。会話は必要なら、僕と立花さんの会話時間はもう十分長いんだ。
体が恐怖に震えてきた。
いやそんな怖いことを考えないでよ、しっかりしろ、と自分を励める。
僕と立花さんの間に吹き込んできた涼しい風の音は黙り込んだ二人の耳にはっきり届いた。
「ねぇ、涼司さん」先に口を開いたのは立花さん。
「うん?」
「わたし、涼司さん、石井さんと高野さんがやっていることを知りたい。」
「…」
やっぱり察した。
「やはり言えないよね。わたし、占いができる。ゲームをしよう。わたし、涼司さんの誰にも教えたことを占ってみる。当たったら、教えてよ、知りたいことを」
いきなりの提案。
「いいけど…」
この子との共通点は同じ村に育たれただけ、僕の記憶には立花さんはいない。家族のことなら、僕はそもそも悲しいことを他人に教える悪習慣はないし、彼女は絶対当たらない。占いなんてたわいもないこと信じない、そんなことで僕の不幸が分かれば、世の中は狂っているに違いない。
「なら、僕の妹のこと、当ててみよう」
もちろん僕には妹はいない。下劣なやり方とわかっているけど、お互いのためだから。いずれにせよ、「あなたは殺されるよ」なんて、どんな人にも言いにくいだろう。
「うん…」目の前の立花さんは思考しているらしい。
もう、やめよう、お互いのためだから。
「あんたはね、嘘をついたんでしょう」
「え?」
まさか…
「あんたには、妹がいない。あんたみたいな人には、妹がいればそっちは大変だろう。」
最後は挑発しているように僕をけなす。
「なんだ…と…」驚きのあまりに体が凝りついた。
ばかな、どうやって…
「下劣だねお前は」、急にこっちへかかってきた立花さんはどこからナイフを取ってこっちへ突き刺さってきた、「殺さなきゃ」
「ああああああああ!」腹を覆って叫び出した。
「どうしたの?さっきから突っ立っていてどう呼んでも返事なくて今は大声で」
立花さんはまた僕から三歩離れたところで僕を見つめている。
「あ、あ、ごめん、ごめん」
一体なんだ、さっきのは。
確かに見た、ナイフを持っている立花さんを。
「立花さん、突然だが、ナイフ持っているだろう。」
「ナイフ?なんでそんなもの持っているんだよ。」
やっぱり恐怖で生じた幻覚か。
「まあいい、しらけた、涼司さんのこんな状況で何もろくなもの教えてくれないだろう?明日ここに会おう、バイバイ」手を振って立花さんは立ち去って僕を取り残した。
潮の音が耳側で湧き上がった。
僕は勇者って、一体どういうことだろう。
合宿の二日目。長閑な時間は早く去りゆき、二人っきりの審問はこれで始まった。
「昨日は刺激してすみません、でも当たったらわたしの勝ちだね。ではさっさと」あっさりとした立花さんは長髪を束ねている。
本心からいえば言いたくないといえども、そっちの方が死まで脅かすほど大きな秘密が隠れているという直感があるので誠実に教えるのはましだと本気に思っていた。
「いいか、一回しか言わないよ」
会話は思うほど長く続いていなかったけど、半世紀まで続いたと感じた。
「つまり、わたしは、石井さんに狙われて、いつ殺されちゃうということ?」口元に意味深な笑みを含んで僕を見つめている。
「そうだ。だから言いたくない、おかしいよ…」
「ふふふっ」
「ってなんで笑ってるよ!バカにすんな!詳しいことも分からないから石井に聞け!」
「ほんとに面白いからついね、よく冗談とか言えるよね、っぷははははは…じゃね、涼司さん、これからまた用事あるから」笑顔が滅多にない立花さんの爆笑はもう怪しく思うくらいだった。
その場から離れたがっている立花さんの袖を捕まえて、地面に向いて命じた、「待て」
恐怖か、怒りか、または何だろうかは知らないけど、僕は全身激しく震えていること
気づいた。
「昨日、言ったよね、僕は勇者って。説明しろ。どういうことだ」
考えずに口から言葉を漏らした。
嫌われる危惧もあるけど、僕はもうそんなことを気にしないんだ。はじめから彼女との会話は違う感覚をくれていた。最初は錯覚と思ったが、やっぱいそうではない。そして、合宿以来この感覚は強まる一方だった。
やめとけ、僕そんなこと嫌いなのだ。今ここで解決しよう、この女とさっぱり関係を断つ!石井と高野のその計画も辞める!決してそいつらのことを従わない!
手がかりはそのでたらめの伝説、僕は勇者という馬鹿げたおとぎ話。
どう?自意識過剰の僕はキモイだろう?これからも一切の頼みも断って、僕は何の役にも立たないゴミだ!放っとけ!
「ええ、そんなに気になってるのか?内緒、教えないわ」
その言葉にはちっとも嫌いの気持ちはなくて、子供騙すような口ぶりだった。
「でもさ、涼司さんって、昔からずっと勇者になりたがったじゃない?勇者と呼んでもいいじゃないか?」
「昔から?そりゃどこから聞いた噂話?」
「小学生のときの傑作を読まないと済まないか涼司さん?」と言いながら、立花さんはスマホで何を探しているみたい。
「お前はそんなもの持っているわけあるかよ!僕そんなことお前みたいな人に渡すわけあるか!」
「ええ、つまりほんとにあるよね、『勇者になりたい宣言』のようなこと」
しまった、つい口が滑っちゃった。
恥ずかしさに黙り込んだ僕は唇をかみしめて、帰ろうと背を向けて、後ろからあるはずなかった声が聞こえた。
「僕は勇者になりたい!なんでもできる勇者になりたい!」
「読むな!」喉を絞って出した声が絶える前に、僕は走って逃げた。
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