第5話 合宿
月日が経ち、立花さんと接触する計画は失敗とけりをつけた。
理由は簡単――異性との交際能力はあんまりにも下手くそで、石井も高野も、僕の素晴らしきパフォーマンスに驚かされた。
「お前には彼女がいない理由はやっと見つけたのよ感謝せよ。」
「からかうな石井!僕にも迷惑だよ。」
「まぁまぁ、涼司ちゃんにはこんなに難しいなら僕に任せて。」
「高野…」
全然ダメだこれじゃ。
めちゃくちゃな日々は巡り、期末テストが終わると、すぐに夏休みだ。
「今年の夏、合宿の地点は稲垣海岸となりますので、皆さん早めに準備をしてください」、HRでは、上辻さんが黒板に、大きな「稲垣海岸」を書いている。
誰かの決定なんか知らないけど、僕には結構驚いた。
普通には、僕はあの場所を実家と呼んでいる。
「いいじゃんこれ!ずっと前から海辺に行きたいのよ!」
「女子は水着忘れないでな!」
「エッチ春日井黙って。」
「つまんないよ。」
「はいはい、皆さん静かにーー」と、手を二回叩いて、梨木先生が言った、「今回の目的地は立花さんに勧められているんですよ。立花さんは稲垣出身で、あの時いろいろ助けになれるとも言いましたよ。そうですよね、立花さん?」
後ろに向いて、軽く頷いている立花さんの姿も見た。
助けになれる?どんな助けだろう。
記憶には、そのあたりは海と砂浜しかないところで、旅行業と漁業しか頼れない郊外だった。とっくにばじいちゃんとばあちゃんは市内に引っ越したから、あそこにも親戚いなくて、普段なら絶対行く気がない。嫌いというわけではないけど、未練なしに久しぶりの故郷に帰るのは微妙な感じがする。
とはいえ、立花さんは稲垣出身だと前に全然知らなくて驚いた。でも幼い頃には立花さんと会う記憶はなくてその話自体は本当かどうかのも疑えるんだ。
でも、いい話題になれる。その力を借りて、その人との間に立っている壁を壊してみせる!
という志はやっぱ辞めよう。
チャイム音を聞き逃して自分の考えに浸っている僕は肩が誰かにぶつかったみたい。振り向くと上辻さんはそこにいると分かった。
「また帰らない?」とそっちのほうがまず口を開いた。
急に「なんでこいつは僕のことを心配してるような口ぶりをしてる?」のような妙な感じがして、「そりゃ僕の問題だろう?」と不意に本音を漏らした。
「私ならいつ帰ってもいいよ、あんたと関係ない。」
「なら同じ言葉を返す。」
雰囲気は一言半句で緊張しちゃった。
どうしただろう僕は。
「ただの挨拶がなんでこうなる?他の意味ないよ、早く帰れ、もう遅いから。」上辻さんは口調が普段の柔らかさに戻った。
「うん、いま帰る。」頭を制服に埋めこんで、教室から駆け出した。
教室からの足音は耳に届いた。
合宿の日。
いつもうるさいほど賑わっているバスの中に吐き気が出てくる僕は窓ガラスに張り付いている水蒸気で絵を描いて時間を潰す。隣の席の高野さんはとっくに熟睡しつつ軽くいびきをしている。
早くついてこいよ。
向こう側の席には、立花さんだ。スマホを手に握りしめ、イヤホンを付けている彼女は、相変わらず冷たい顔をしている。
そっちも邪魔しちゃだめだね。
でも先生も言ってたし、問題があれば立花さんに聞いてもよいって、ちょっとだけ質問をしても構わないよね。
メモ帳から新たな一ページを取って書いてきた:
「立花さんへ:
いつ到着? 日程はどう? 注意すべき点ある?
羽原」
紙飛行機の形に投げ出して、立花さんのスマホスクリーンの正中に当たった。
眉をしかめてこっちに嫌がりの目つきをしてきた立花さんは、イヤホンを外して口を開いた。
「残りは二時間でおります。日程は到着後でお知らせします。最後の問題は意味分かりませんのでお答えはできません。」
えっと、急に敬語?
立花さんはそっぽを向いて僕を無視した。
だろうね、この前結構しつこいことやっちゃったから嫌われるのも当然だろう。
もううんざりだ、やめよう、と考えながら目を瞑って仮眠する。
「うるさい」
カタンコタンと揺れているバス、山を越えて、海を控えている村にたどり着いた。
バスを降りると深呼吸して、やっと生き返したような感覚がして頭もすっかりだった。海は記憶の中のように広くて青くて、まるで仙境のようなところだねと本気に思っていた。
さっきからバスでずっとウニャウニャしている高野くんは大きくあくびして僕に呟いて、「もうついた?」のような言葉を曖昧に口から漏らした。
「また起きてないかあんただって、四時間ほどの車埕を寝過ごしたとは、お前らしいね。」どこかから出てきた石井さんは元気な笑顔で声をかけてきた。こいつはマジ疲れなどしないのか。
というかこの石井こそバスでは最もうざいやつだったっけ。海なんとかとっくに見飽きたわ、ここに来るのは全く別件のためだって、はっきり聞こえた。そう思うと、「ふん…」とわざと不快な声を出した。
でもいつも能天気の高野くんは僕のような悪意なんて抱えていなくて、かわりに「おっはよ~」とごく可愛らしい声で石井のことを挨拶する。
「あそうだ石井くん、バスでずっと話したここに来た理由、海のためではなければなんだろう、その正体今教えてよろしいか?」もうイライラしている僕は言いたいことと、バスでのノイズの元凶への怒りを全部一言で吐き出した。
「もちろん、例の計画だ!場所が変わるはすなわち新たなシーン、新たな希望だぞ!どんな波も立たない主人公は第二章でクライマックスへ!どう?すげぇじゃん!」
「は?」
段々、こいつの動機はほんとに事件の解決か否かが疑わしくなってきた。
合宿と言っても、明確な活動内容今回はなかった。大体学校方面から見れば、十五人しかいない、進学も就職も部活も抜群した生徒がいるどころか、いかなる方面から見ても下の下のこのクラスのために大事な資金を費やすのはおかしいことだろう。
五組はおかしい、みたいな話は校内では新鮮な話題でもない。退学方針は全校に適用するといって、実にの連続退学はこのクラスでしか起こっていなかった。学校まで五組の存在を消そうとしているみたい、公式サイトにも、「三年級は総計学生163名」と書かれており、実は一組から四組までの生徒数なんだ。孤立されつつ五組は、今こういう存在なんだ。
だからといって、「忘れられた」のは悪いことばかりわけでもない。逆に、おかげで、今回の合宿は本当の、「五組の合宿」としてなれるんだ。
「みんなは砂浜で青春を謳歌する」と如実に撮った写真の裏に書いた。記念品として、郵便局に行って家族へ送ってから砂浜に戻った時、もう夕暮れの時だった。
砂と水の境界線上、遠くから見える一人ぼっちの女の子は黙り込んだ世界に佇んでいる。残された無数の足跡が先ほどの賑わいを示している静まり返ったここは、より一層パラダイスの形が見えるんだ。
「涼司さん、待っていたよ」
そこに立っている女の子が囁いた。
やはり、立花さん。これは彼女しか選ばないやり方。
「はい」と返事した。
「あなたに、この村に伝われた古き伝説を、教えてあげよう」
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