第36話 看病ハーレムもいいかもしれない②


 サラにお風呂まで運んでもらった。


 お風呂場は、花のような香りが充満している。行事がある時のお風呂の匂いとは違う。でも、嗅いだことあるような……。そう、夜に母上と入った――。


「――ねえ、この匂いって……」


「夜のお勤めがあっても良いようにと思いまして……」


「無いから。八歳相手の夜の勤めって何?絵本の読み聞かせ?子守唄?花の匂いを付ける必要ある?」


 僕の質問を聞いているのか、聞いていないのか、質問中に備え付けの椅子に座らせられる。


「恥ずかしがらなくていいんですよ。私は坊ちゃまの全てを愛し、受け入れます」


 そう言いながら、僕の服のボタンを外し始める。


「待って!そのセリフを言いながらボタンを外されるのは怖いんだけど!?」


 この変態にナニかされるんじゃないかと勘繰かんぐって、ドキドキす………ゴホンっ!身の危険を感じるんだよ!


 サラはボタンを外す手を止めた。ちゃんと伝わったらしい。


「失礼しました」


 サラがそう言うと、おもむろにメイド服のエプロンを外した。続いて、自身の服のボタンに手をかける。


「私は、坊ちゃまの全てを愛し、受け入れます」


 そう言いながら、自身の服のボタンを外していく。


「いや、なんでそうなるの!?」


「女の方から服を脱ぎべきだと思ったのですが、違いましたか?」


「違うよ!」


 どういう思考回路してるの!?


「もういいから、出ていって!僕はお風呂に入るから!」


「それはなりません。坊ちゃまは体に力が入らない状態ですから、足を滑らせて溺れてしまう可能性があります。お一人での入浴は許可できません」


 サラが、キリッと真顔になって言う。シャツの第四ボタンまで外していなければ様になっていただろう。残念だ。


「そうだとしても、サラまで脱ぐ必要は無いでしょ?」


「浴槽の外に居ては、初動が遅れます。そもそも、浴槽の中で足を滑らせない対策が必要なのです。事故が起きてから対処する、というのは現場意識に問題があります」


 その通りでぐうの音も出ない。


「わかった。じゃあ、せめて、男の人に交代して」


「坊ちゃま」


 サラは、姿勢を正したまましばらく僕を見つめ――破顔した。


「私でいいじゃないですか なんでもいたしますよ スタイルには自信があるんです ほら、胸だって大きいでしょ?それに、柔らかいんです 触ってみてください」


 媚びた声で距離を詰めてくるサラ。シャツをはだけ、ブラジャーに包まれた大きな胸を見せるだけでなく、僕の手を取って誘導までしようとする。


「ストップ!ストップ!ストップ!」


 咄嗟に静止の声を上げて、僕の手は胸を触る直前に止まり、事なきを得た。手のひらに熱を感じるほどの近さで。もう少しで触れそうだったのにとか思ってない。


「ちゃんとした理由がないなら、交代しよう」

 

「ちゃんとした理由ですか……。この部屋に男は護衛くらいですが、鎧を脱いで剣を手放した護衛はただの肉壁です。それなら、メイドの方が断然いいです。警備上の理由で、護衛を使用人代わりにするのは問題がありますし……」


「じゃあ、男の使用人を呼ぶのは?」


「わざわざ違う部署から人を呼ぶのは感心しません。彼等にも仕事はありますし、こちらで完結できるのなら、呼ぶべきではありません」


「それもそうか……」


 じゃあ、仕方ないね。下心とかじゃなくて、業務上の理由だから、混浴をしても許されるよね。


「じゃあ、よろしく」


「かしこまりました」


 ということで、サラと混浴することになった。


 僕はサラに脱がされ、サラは僕の前で服を脱ぎ――――とても眼福でした。


 その後、僕はサラに抱き抱えられ、風呂に入れられる。


 久々のお風呂は、肌を刺激するような感覚があった。お湯の温もりが肌に染み込んでくるというか、冷めた体が温められるというか、すごく気持ちい。


 力を抜いて、背中の方に居るサラに体をあずけて、天井を仰ぐ。完全にリラックス状態。サラのツルツルの肌も、頭と首に感じる柔らかい物も気にならない。お湯に心が溶けていく。煩悩が浄化されるようだ。


「気持ちいい……」


「良かったです。胸には自信がありましたが、坊ちゃまにそう言って貰えて嬉しいです」


「胸の話じゃないよー。お湯の話だよー」


 どうやら、サラの煩脳は浄化されなかったらしい。


「良い湯加減だよ。ありがとう」


「お役に立てたのなら嬉しいです」


 子供は、お風呂でジッとしていられない。その上、カラスの行水だ。

 僕も例に漏れず、ジッとしていられない上にカラスの行水。行事の前の湯浴みの時なんか、精神修行みたいな心意気だ。

 でも、今は違う。貧魔の影響で体が怠くて動かないのもあるけど、湯加減がちょうどいいのが一番の理由だと思う。


 子供は体温が上がりやすい。お風呂に入ったら、秒で汗をかくぐらい熱に敏感だ。喉が乾いて、10数えるのも辛い。だから、ぬるいお湯じゃないと浸かってられないのだ。


「よく調整できたね。この世界で温度を計る道具とか見たことないのに」


「温度を計るものですか?そんなもの無くても、手を入れればわかりますよ」


「でも、細かな調節はできないんじゃない?いつもは、こんなに丁度いい温度じゃないよ」


「いつもは、坊ちゃまの体が冷えないよう、ちゃんと暖かくしてありますから。今回は人肌で温めるつもりだったので、ぬるめにしました」


「この湯加減は偶然だったんだね……」


 僕の中でサラの評価が上がってたのに……なんか残念だ。


「私の人肌加減はいかがですか?」


「初めて聞いたよ、その単語。人肌って加減できるの?」


「体の表面なら、熱魔法を使っても死にませんから、いくらでも調節いたしますよ」


「やめなさい」


 熱魔法。熱を上げたり下げたりする魔法だ。猛者はこれで体温調節するらしいが、僕はやらない。絶対に。これにはトラウマがある。

 

 真夏に鍛錬をしていた日。あまりに暑くて、思いっきり冷やしたのだ。そしたら、死にかけた。

 体温を1℃下げるだけで十分なのに、たぶん10℃か20℃ぐらい下げた。言い換えるなら、一瞬で体温が27℃か17℃ぐらいにまで下がった。低体温どころの話じゃない。


 真夏に凍え死にかけたあの日から、熱魔法は恐怖の対象だ。思い出しただけで冷や汗がでてきた。いや、お風呂で温まっただけかな?わからない。わからないけど、とにかく手で汗を拭う。手が濡れてるから意味は無いけど……。


「あら。汗をかきましたか。………………奴隷、そこのタンスの一番上にタオルがあるから、それで汗を拭いて差し上げなさい」


「かしこまりました」


 サラがカジュに指示を出し、カジュがタオルを取りに行く。


「……………………カジュ、いつから居たの?」


「部屋に戻った時から、ずっとお傍におりました」


 つまり、運ばれてる時も脱がされている時も居たのか。気づかなかった。


「失礼します」


 そう言って、僕の顔をタオルでゴシゴシ拭く。犬になった気分だ。いや、窓ガラスになった感じかな?掃除するような力強さ。


「奴隷、もっと優しく拭きなさい!」


「も、申し訳ありません!ご主人様、痛かったですか?」


「いや、痛くなかったよ。一応、物理的には頑丈だから気にしないで」


 物理的には頑丈だけど、健康的には虚弱。納得いかないなー。


「タオルを軽く押し当てるだけでいいのです」


「こうですか?」


 カジュが軽くタオルを押し当てる。いや、押し当てるというか、当ててるだけかな?押されてる感じがしない。


「そうです。その調子でお願いします」


「かしこまりました」


 その後、サラがお湯の温度を変えたり、カジュに汗を拭いてもらいながら、お風呂でのんびりし続ける。


 特に体が辛い訳じゃなく、体が動かしにくいだけ。それだけで、美女と美少女が甲斐甲斐しくお世話してくれる。


 治さなければいけないけど、貧魔もいいかもしれない。そう思った。


 明日からは、将来のために頑張る。人を新しく雇って、その人を鍛えながら僕も体を鍛えて…………でも、病弱だから何度も体調を崩すんだろうな…………。


 …………体調を崩したら、また二人がお世話してくれるかな?それはそれで、やる気が出てくる。


 熱を出したら額を冷ましてもらって、貧魔になったら今みたいにお世話してもらって…………。


 看病ハーレムもいいかもしれない。

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病弱な僕の人生計画!〜看病ハーレムってどうかな?〜 ばけねこさん @657756

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