第35話 看病ハーレムもいいかもしれない①
人生設計を考え、母上の協力も取り付けた。
とりあえず、一安心ということでまったりしている。体が思うように動かないから、やることがないのだ。
何をすることも無く、惰眠を貪り、晩御飯を食べ終わった頃、サラとカジュが戻ってきた。今日の教育は終わりらしい。
でも、サラはなんで僕の部屋に来たんだろう?カジュは僕の部屋で寝るから当然として、サラは僕の部屋に来る理由がない。しばらく再教育だから、メイドの仕事は任されないはずだ。あと、「しばらく会えない」みたいなことを、父上が言ってた気がする。
「サラは、ここに居てもいいの?僕との接触禁止じゃなかった?」
「接触禁止ではありませんよ。仕事を外されただけなので、時間外なら会いに来ても問題ありません」
「身分的には問題じゃないかな?」
貴族は気軽に会いに行ける存在じゃないのだ。
「愛があれば身分など関係ありません!」
「それは…………ハッピーエンドになりそうだね」
身分差による恋愛悲劇がないのなら嬉しいね。うん。
他に言うことあると思うけど、堂々と言い切ったサラにかける言葉が思いつかない。何も言えない。むしろ、放置でいいかもしれない。
「ご主人様。サラがご主人様にお会いになるのは、お母君がご許可されました」
「そうなんだね。じゃあ、放置でいいか」
僕が構わなければ、かっこいいサラで居てくれるだろう。きっと、たぶん……。
「放置しますと、朝まで居座るかと思います」
「朝まで居座っちゃうのか……」
「もちろんです、坊ちゃま。それで、夜のお勤めを務め出せていただきたく思います」
「いや、今日はもう時間外でしょ?夜勤しないでちゃんと休みなよ」
夜のお勤めが何かわかないけど、たぶんカジュの教育に悪いから、ちゃんと帰ってもらおう。
「あの、ご主人様。私は夜も一緒ですし、私に夜のお勤めを務めさせてください」
「なあっ!?奴隷!私の坊ちゃまを横取りする気ですか!?」
「はあ?メイドの分際でご主人様を自分のモノ呼ばわりするとは何事ですか?」
「愛し合っているから良いんですぅ!」
「そなわけないでしょう!恥を知りなさい!」
サラが駄々をこねて、カジュがそれを窘める。
サラは大人気ないというか、大人じゃないというか……残念だ。
カジュは大人っぽいというか、精神だけ大人になったというか……子供に戻って欲しい。
「身分を活用して坊ちゃまに取り入ってる奴隷に言われたくないですぅ!」
最低身分を活用して取り入るって、どんな状況だろう?
「私は、敬えと言っているのです!取り入る話などしていません!話をそらさないでください!」
カジュは先生みたい。
小学生のような屁理屈をこねるサラと、聞き分けの悪い子供を叱るようなカジュ。
賑やかなのはいいけど、少し賑やかすぎる。
「二人とも落ち着いて。とりあえず、サラは黙ろうか」
「そんなぁ!?」
「カジュは楽にして。もう今日の仕事は終わりでしょ?」
「いえ、夜のお勤めを……」
「坊ちゃま!夜のお勤めなら、是非とも私に……!」
「夜はちゃんと寝なさい」
夜勤のメイドが個室で控えることになっているから、サラ達が夜勤をする必要は無い。
「それより、ハカモリをどうしよう?部屋に返すタイミングを見失って、それからずっと気配をしているんだけど……」
1日中話せる程の話題も無く、会話が途切れてからひたすらに気配を消していた。それが、サラ達が戻って騒ぎ始めたことで、全力で空気になろうとしている。
「特に用がないのであれば、部屋に返しても良いかと思います」
「そもそも、用もなく一緒にいたんだけど……」
ハカモリが居るのは、見張りの意味合いが強い。むしろ、それ以外にない。
「ハカモリは、何かある?やりたいこととか……?」
「いや。何も……」
無いのだろう。
「じゃあ、後は寝るだけ?」
「…………そうだね。風呂入って寝るぐらい」
「ああ、風呂か。それじゃあ、お風呂と着替えの準備してもらわないとね。自分でメイドに言える?」
彼は人見知りだから心配だ。
「ええーっと……」
ハカモリが視線を逸らす。逸らした視線の先には、見慣れないメイドが……。
「あっ、そういえば、姉上のメイドも来てるんだったね。言うまでもないか」
話を聞いていた姉上のメイドに準備を頼んだ。準備ついでに、ハカモリを部屋に案内してもらう。今帰さないと、また部屋に帰すタイミングを逃しそうだからね。
「さて、僕もお風呂に入ろうかな。準備してくれる?」
この国に、お風呂の文化は無い。いや、文化というか習慣がないのか。お風呂自体はある。
冷めた体を温めたり、行事の前に香油を入れた風呂に浸かって匂い付けをしたりする。端的に言うと、医療行為か匂い消しとして使われている。
体が頑丈な貴族は、基本的に匂い消しとしてしか使わない。
「やはり、夜のお勤めをご所望ですか?」
「どうしてそうなるの?」
「え?夜にお風呂に入るのは、そういうことでしょう?体を洗うのは魔法で十分ですし、匂いを付けるしか意味はありません。そして、夜に匂いを付けるということは、男女で愛し合うという――」
「――違うから!1回黙って!」
カジュの教育に悪い。
それにしても、あのいい匂いのお風呂にそんな理由があったんだなぁ。昔、夜に母上の部屋に行った時、一緒に入ったことあるけど、そんな理由だったのか……。
え?じゃあ、あの後、母上は父上と……。これ以上考えるのはやめよう。親の情事は精神的にキツイ。
「僕が風呂に入るのは体調管理だよ!医療行為!」
「医療行為ですか……。坊ちゃまは湯冷めされるから、入浴を避けていると伺っているのですが?」
そう。病弱体質を改善しようと、薬湯に入っていた時期があったのだ。その結果、湯冷めで体調崩してドクターストップがかかってる。それで、ハカモリが言うまで風呂の存在を忘れていた。
「湯冷めしなければいいだけだよ」
「湯冷めしなければいいって……どうなさるのですか?」
「別にどうもしないよ。しっかり温まって体を乾かせば大丈夫だよ。たぶん」
「たぶんって……確証はないんですね……」
前世では湯冷めを知らなかったからね。対処法なんて知らない。
「サラは湯冷めすることある?」
「そもそも、お風呂は入りません。魔法で十分です」
「それもそうか……。まあ、それはともかく、湯冷めしない人のマネをすれば、湯冷めしないはずだから、多分大丈夫だよ」
「なら、いいのですが……誰をマネするんですか?」
「ハカモリ」
「ああ……アレですか……」
「一応、姉上のお婿さん候補だから、アレって言わない」
「はいはい」
「はいはい」って、適当な返事だな……。絶対、態度を改める気がないじゃん。なんで、そんなにハカモリを毛嫌いしているんだろう?さっきまで、そんな素振りなかったのに……。
それはともかく、サラはお風呂の準備をしてくれた。魔法で浴槽にお湯を張るだけだから、すぐに終わる。
「お風呂の準備ができました。歩くのはお辛いでしょうから、私が抱っこしますね」
「いや、自分で歩くよ」
精神年齢大人だから、女性に抱っこされるのは恥ずかしい。
「遠慮なさらないでください」
「いや、遠慮じゃないから」
「まあまあまあ」
上手く体に力が入らない僕は、為す術もなくサラにお姫様抱っこされた。そう、体に力が入らなかったから、不可抗力だ。
八歳の今なら、おねショタができるとか頭を過ぎったけど、羞恥心の方が勝ってたし、邪な理由で大人しく抱っこされたんじゃない。
そんな言い訳を頭の中で繰り返しながら、サラの温もりにも意識を向ける。僕も男の子だ。女の子の柔らかさと匂いには抗えない。
サラから、お菓子のような甘い匂いがする。子供が大好きなお菓子の匂いなのだから、ついつい嗅いでしまうのは不可抗力だ。変態とか言わないでください。お願いします。
そして、片腕には柔らかな感触。サラが歩く度に、押し付けるようにグニグニと腕が沈む。…………ていうか、これ、サラがわざと押し付けてるね。不自然に肩と腕が横に動いてる。だんだん、大胆になってる感じもする。
どういうつもりだと、顔を上げてサラを見る。まあ、邪な気持ちしかないだろうが……。
顔を上げれば、サラの綺麗な横顔に言葉を失った。綺麗な鼻のライン。キメ細かい肌。バランスの良い、目鼻口の配置。正面から見るのとでは全く違う魅力。正面からは見えない耳と、耳にかけられた横髪が見えるのも新鮮だ。
サラの横顔に見とれていると、視線に気づいたサラが顔をこちらに向ける。
「どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもない……」
見惚れてた、なんて恥ずかしくて言えない。
「そうですか」
そう言って、サラが微笑んだ。ガチ恋距離で。
胸がキュンとなって、慌てて顔を下げる。恥ずかしくて、顔を上げていられない。
そして、顔を下げて気づく。サラが歩いてないのに、体が揺れている。その度に、腕に柔らかい感触が押し付けられて…………。
コイツ、やってんな。確信犯だ。「当ててんのよ」どころじゃない。「擦り付けてんのよ」状態だ。しかも、さっきより大胆になってる気がする。
ここまで変態行為をされると、純愛的なドキドキが消えるというか、なんというか……残念だ。あの笑顔にドキドキした僕が馬鹿だった。
もはや腕に当たる感触に何も感じず、虚無っている状態でお風呂に運ばれた。変態にお風呂に連れ込まれるとか、身の危険を感じるね。ハハハ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます