第34話 最初の人生計画
「これからの行動について相談したいと思う」
僕がいかに成り上がるか、計画を立てる必要がある。何を成すにも、計画は大事だよね。
「最終目標は、僕が戦力になること。お荷物にはなりたくないからね」
政治でも、武力でも、戦力になれれば良いけど、僕は体も頭も弱い。それを改善しないといけない。
「そのために、いくつか目標を立てたんだ。1つ目は、健康な体を手に入れること。2つ目は、傭兵団をつくること。3つ目は、サポート系の魔道具を作ること。4つ目は、実践的な魔法の開発……というか、強くなることだね。とりあえず、このくらい」
半分くらいは他力本願。僕に力が無くても、僕の力になってくれる人に頼めば、兄上たちの力になれるはずだ。
「まず1つ目、健康な体。これは今年中に達成したい。君はどう思う?できるかな?」
「そんなの分からないって。医者じゃないし……」
「だよね……」
相談する相手を間違えたかもしれない。でも、医者に相談するのもな……。なんとかできるなら、とっくに健康になってるだろうし……。
「まあ、とりあえず、一番最初に取り掛かろうと思う。それで大丈夫かな?」
「うん。いいんじゃない?」
な、なんか頼りない……。まあ、いいか。次だ。
「健康な体を手に入れる合間に、他のこともしようと思うんだ。何をすればいいと思う?僕は、傭兵団を立ち上げるのが無難だと思うけど……」
「勉強もしてみたらどう?今までとは違うやり方にすれば、上手くいくかも」
「あー……そうだね。勉強もいいね。傭兵に勉強してもらおう」
「いや、勉強するのはフィルくんなんだけど……」
「うん。それは分かってる。でも、違うやり方で勉強っていうのは想像できなくて……」
教師に教えてもらう。本を読む。ノートに書き写す。パッと思いつく勉強の仕方は失敗した。他のやり方と言われても、全く思いつかない。
「誰かに教えるとか……内容を覚えずに、本を何回も読み返すとか……」
「なるほど!それ良いね!」
教えようとすると、自然と頭が整理される。その時に覚えるのだ。結構、ベタなやり方なのに思いつかなかったな……。
教えられる側だと思ってたから、教えることを考えなかったのかな?
それと読書。1回で内容を覚えることは難しい。覚えたいなら、短い期間に何回か読み返す必要がある。
そして、何回も読み返していると、内容を理解できるようになってくる。予習・復習みたいなものだ。
内容を理解してなくても、気にせず続きを読むのがポイント。熟読じゃなくて速読って感じ。
「ちなみに、傭兵団はどう思う?もう始めていいかな?20歳までに形にしたいから、あまり時間がないんだ」
貴族が仕事をするようになるのは、学園を卒業する20歳から。僕もその頃に仕事ができるようになりたい。
20歳まで、あと12年。12年で強い傭兵団を作るのは、少し厳しいように思う。
強い人を雇うならすぐにでも形になるけど、僕がやりたいのはそれじゃない。最初から強いなら、わざわざ傭兵団を作るより軍に入れた方が確実だろう。
僕がやりたいのは育成。前世の知識を使えば上手くいくかもしれない。その実験を兼ねた傭兵団だ。
「傭兵を雇うのにはお金がいるよね?それはどうするの?」
「あ……。どうしよう……」
お金ないの忘れてた。
街でお買い物くらいなら家が出すけど、人を雇うなら継続的にお金を払わないといけないし、さすがに許可を取らないと……。
「は、母上に相談してみよう。ダメだったら、他の方法を考える」
他の方法といえば、奴隷に戦闘訓練をさせることかな?彼女には、好きなことをしてもらいたいけど…………軽く戦闘訓練するぐらいなら良いかな?
「それで、他の2つなんだけど……魔力を使うから、貧魔になってる今の状態では無理があるんだよね。遅くとも、10歳には取り掛かりたいけど……」
「そんなに同時進行して大丈夫?」
「結構被ってるから、できると思うんだよね。傭兵団を育てながら僕も一緒に訓練したり、傭兵団を強くするための魔道具を作ったり……」
「それなら…………大丈夫……かな?」
想像できてなさそう。まあ、問題があれば、修正すればいいか。
「じゃあ、今年中に健康な体を手に入れる。今年から傭兵団を作って、20歳までに形にする。遅くとも10歳から魔道具開発と自己強化をする。ということで」
決まったら早速行動だ!まず、健康な体……は、置いといて、傭兵団!
「母上にお願いに行かないと……」
お願い聞いてくれたらいいな……。
…………………………………………………………………………
僕は、ハカモリにおんぶして貰って母上の部屋に突撃した。アポなんて取ってない。
「母上。今、お時間よろしいでしょうか?」
「ええ。大丈夫よ。どうしたのかしら?」
僕はソファーに下ろされ、腰を落ち着けて要件を言う。
「実は、傭兵団を作ろうと思ってまして、人を1人雇いたいのです」
「それなら、奴隷が居るじゃない?」
母上が、奴隷に視線を向ける。その奴隷は、すまし顔で言った。
「わたくしがご主人様の剣となりましょう」
…………奴隷が難しいこと言ってる!?
朝まで子供らしい喋り方だったのに……。よく見たら、佇まいも一流のメイド。いったい、どうしたんだろう?
「彼女、とても優秀よ。戦わせても良いんじゃないかしら?」
女の子に戦わせたくないな……。あ、でも、傭兵団の活動は12年後の予定だし、別にいいかな?この世界、戦闘力に男女の優劣ないから、女性も普通に戦うんだよね。だから、奴隷を傭兵にするのに抵抗は無い。ただ、問題がひとつ。
「君の好きなことは何?」
どんなことであっても、好きじゃないと続かない。渇望、欲望、執念。強い感情が向上心を高めて、成長の原動力になる。
ちなみに、ハカモリにはそんな感情がない。惰性で働いてたから成長が少なかった。惰性だがら、努力しようとすら思っていなかった。その弱さを、僕はよく知っている。
だから、奴隷に努力できる何かがないなら断らないといけない。生死に関わるしね。
「わたくしは、ご主人様の道具です。好き嫌いはございません。なんなりとご命令ください」
…………うん。これはヤバいね。好き嫌いが無いとか、人間性の消失だよ。
「母上。いったい、どんな教育をしたのですか?」
「まだ、立ち居振る舞いと言葉の使い方しか教えてないわ。今のはこの子の素よ」
「素か……」
素で好き嫌いが無いのか……子供なのに……。
そういえば、最初から好きなことは無いって言ってたな。うん。忘れてた。
「えっと……好きなことがないなら、仕事は任せられません。母上、違う人を雇ってはいけませんか?」
「フィル、仕事に私情を挟んではダメよ。好き嫌いをする人にこそ、仕事を任せてはいけないわ」
「嫌いだからやらない」って言われたら困るもんね。母上の言ってることは分かる。でも、引けない。
「やる気、士気も大事ではないでしょうか?感情の無い道具では、押し負けるかと思います」
やっぱり気持ちは大事だと思うんだよね。
「母上。欲望に忠実に努力したら強くなれると思いませんか?」
「………………」
あれ?母上が可哀想なものを見る目をしている。え?もしかして、『欲望に忠実に努力したら最強になれる』説って無い?…………無いか。
「サラがフィルに吹き込んだのかしら?」
あっ。犯人探しが始まった。
「いいえ、私は何も。おそらく、ハカモリかと……」
「ハカモリ」
「………………」
母上が目で問いかけている。お前がやったのかと。
ハカモリは答えない。言葉でしっかり質問しないと答えないタイプだ。余計なこと言って状況を悪くしない処世術。
「お前がフィルに教えたの?ハッキリおっしゃいなさい」
「えっと……言っては、無い、ですね」
「含みがある言い方ね?」
母上の鋭い眼光。
「あはは……」
これには、ハカモリも笑うしかない。しかし、それを母上は許さない。
「笑ってないでハッキリ答えなさい」
「私の、記憶を、持っているので……教えたと言うよりは……知っている……ですね。はい」
圧に耐えきれず、ハカモリがゲロった。まあ、責められるような事でもないし、最初からゲロった方が楽だったと思うけど……。
この話をしていてもしょうがない。マナーは悪いけど、母上の会話に割り込んで、傭兵団の話を進めよう。
「母上、ハカモリの件は不可抗力なのでこの辺で……。それで、傭兵団なのですが、一人目は実力よりも性格を重視したいと思っています。試してみたいこともありますので、どうか、わがままを聞いていただきたく」
「……いいでしょう。貴族なら奴隷が二人や三人いてもおかしくないわ。体調が良い日に買いに行きましょう」
「ありがとうございます」
僕は胸を撫で下ろした。
何とか、傭兵団の計画が進められそうだ。
「ところで、フィル」
「はい。なんでしょうか?母上」
「まだ奴隷に名前を付けないのかしら?」
あれ?僕が名前つけるの?
「名前は無いのですか?」
「無いわよ。まさか、名前を聞いてないのかしら?」
「はい。名前を呼ぶ機会は無いので……」
「名前を呼ばないとしても、名前は聞きなさい。上に立つものとして重要なことよ」
「はい。以後、気をつけます」
これまで、名前を聞く機会なんてなかったんだけど……そういえば、メイドは自分から名乗ってたね。奴隷は、名前が無いから名乗らなかったのかな?
「それで、名前はどうするの?」
「そうですね……」
アニメキャラの名前にしたいけど……それはさすがにダメかな?理由までちゃんと考えて……。理由は……どんな人になって欲しい、とかかな?
うーん。やっぱ、元気に育って欲しいよね。それで、幸せになって欲しい。
元気と言えば、ガジュマルかな?生命力が強くて、花言葉が「健康」と「幸せ」だったと思う。
懐かしいな〜。ハカモリの心が荒んで酷かった時期に、打開策として「部屋の緑を増やそう」とガジュマル買ったんだ。
買った時は、なんだか嬉しい気分になって、水を沢山あげて…………水をあげすぎて、枯れんだよね……。それで、余計に心が荒んで……。あっ、古傷が痛む……。
ま、まあいい。過去は振り返らない。奴隷には、ガジュマルから名前を取って、「カジュ」と名付けよう。
「カジュはどうですか?」
母上に聞けば、母上は奴隷に目を向ける。決めるのは、奴隷ってことかな?
僕は奴隷に近づこうと立ち上がって――フラついた。
「坊ちゃま!」
すかさずサラが駆け寄って、支えてくれた。奴隷も、サラの隣まで来ている。なにもできないで、あわあわしてるけど、年相応の反応で安心する。
「貴族なんだから、呼びつけなさい。わざわざ奴隷の下に足を運ぶ必要なんてないわ」
母の注意が入った。奴隷もこくこく頷いて同意を示している。もう、メイドの振る舞いは頭から抜けているらしい。
「自分から足を運ぶほど大切にしているということで……」
「身分の高い人に、わざわざ足を運ばれると恐れ多いでしょう?身分差を考えなさい。まったく、あの人に似たんだから……」
珍しく、母上が感情を表に出している。愚痴ってるけど、ちょっと嬉しそう。
でもなんだか、いたたまれない空気で……。
「と、とりあえず、奴隷、おいで」
僕はソファーに座り、奴隷は僕の前に立った。背筋を伸ばしてメイドモードの奴隷を見上げて……あ、跪いた。頭も下げている。今度は騎士かな?
まあ、いい。僕は、奴隷のつむじを見ながら、口を開く。
「君の名前をカジュと名付けようと思うんだけど、どうかな?」
「ご主人様からお名前を頂けること、至上の喜びでございます」
堅苦しくて、本当に嬉しく思っているのか分からない――いや、尻尾パタパタ振ってるし、見るからに喜んでいるね。
それに、なんか、角度的に服を着た犬がお座りしているように見えてきた。あまりにも犬っぽくて、つい頭を撫でてしまう。
「よろしくね〜。カジュ〜」
頭を撫でると、尻尾の振りが激しくなる。本当に犬みたいで、更に魔が差した。
「よ〜しよしよしよし!」
「くううううううん♡」
激しく頭を撫でると、カジュから犬が甘えるような声が出る。可愛い。
「坊ちゃま。どうか、私にも名づけと頭なでなでを……」
「ごめん。今忙しいから」
「そんな……!?」
「サラの教育期間は引き伸ばしね」
「そんなあああああ!?」
サラは安定して残念らしい。
何はともあれ、僕の人生再スタートだ。
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