第20話 対談と

「……思ったよりびっくりされてますね」


 先日、エキュスでエキシビションマッチの告知を行ったところ、大きな反響があった。

 その多くは困惑。

 だがやらねば危ないと感じたし、それ以上に試合で勝利しなければ気が収まらなかった。


 そして秋季シーズンが始まる前日。

 団体が運営しているチャンネルに出演することになった。


 対談形式のようだった。


 場には進行役の天の声と、陰山、さぬき、そしてもう一人、かつてのスター選手がそこにはいた。

 第二段階ながらも若かりし頃の陰山に三度土をつけた『永遠の二番手』と呼ばれた闘士の少女(?)だった。

 容姿は10代であるが、実年齢はおそらく40を超えている。

 そして、さぬきと違って実年齢を言われることに非常にコンプレックスを覚えているのでとりあえず少女扱いしておくのが無難だった。

 ……この容姿の若さは異能によるチカラとかいうわけではなく、若く見られるための努力と医療にじゃぶじゃぶ金を注ぎ込んだ結果によるものだろうから。


 さぬきにとっては昔ファンだった選手でもある。

 陰山が人気を引き上げてから見始めたわけではあるが、それでも闘士として惹かれたのはどちらかというと間違いなくこの少女の方だった。


「まさかあの久遠さんまで来てくれるなんて思いませんでしたよ。……あとでサインもらえませんか?その……さぬきちゃんへ、って感じで……えへへ」

  

 人間として好きになったわけではない。心を許したわけでもない。だが、スター選手に憧れる感情というのはやはり持ち合わせていた。

 かつてはとあるプロ野球選手をめちゃくちゃ推していたのだが、トリプルショックをきっかけに結構長い間ボールを見るのも嫌になった時期があり、その間この団体の試合をよく見ていた。


 かつて好きだった選手に注がれていた熱量はそのままこの少女……久遠(くおん)澪(みお)に注がれるようになった。


 今は前より素直に人を愛せるようになってきているから、余計に憧れが再加熱しやすくなっていた。

 

「そっかー。陰山ちゃんより私のファンでいてくれるのかあ。見てる人は見てるもんだね。サイングッズ、いろいろ上げちゃう!うんうん、嬉しいなぁ」


 上機嫌な二人に対し、陰山は露骨に不機嫌そうにしていた。

 本人的には隠そうとしているのだが、そういうのは苦手だった。


「あ、天霧さん……ボクもサインならいくらでも書きますよ……?」


「それはとてもうれしいです♥それなら私も……と言いたいところですけど、大スター二人相手に私のサインなんて意味ないですよね。ううむ……」


「ぼ、ボクは欲しいです……。異能研究の動画とかすっごく勉強になりますし、なによりいつもすっごくかわいいので……へへ」


「そうそう。それに第四段階といったら私たちの中ではそれこそカミサマなんだからね?キミを羨んだりファンになったりしてる闘士は多いんだよ?可愛さもそりゃもちろんすごいけど、第四段階ってことを忘れちゃいけないね。私にキミほどのチカラがあったらって何度想像したことか……」


 褒めちぎられまくってさぬきは非常に気持ちよくなっていた。

 二人へのサインの他に、希望している闘士へのサインを書く約束もしながら話は続いていく。


 内容は共通の話題……異能のことだった。

 中でもその使い方。

 ESP.Ωにおける現状の使い方や、戦法。

 そして異能者の頂点であり、研究者の端くれでもあるさぬきの目線から提言する戦い方。

 そもそも戦える人材が極端に少ないこともあって、競技人口自体が少ないのだ。

 だから、競技レベルの上がり方の速度も早くはない。


 だからこそ、さぬきの提言は意外なほどに興味深く聞かれていた。

 真面目に取り入れようとしているようだった。

 

 それからちょっとした雑談を挟んで、撮影は終了した。


「天霧さんってそんな進んだ戦い方まで考えてるんですね……本職であるボクなんかよりずっとすごい……!!!やっぱりボクなんて……」


「でも、負ける気はないんでしょう?」


「も、もちろん。ボクは人類最強ですから……いくら天霧さんが相手だとしても勝てなければ意味がありません。……そ、それに、勝った時すっごく気持ちいいんだろうなと思うと……へへへへ」


 気持ちの悪い笑みを浮かべていたが、顔が良すぎるせいでそれはそれで可愛らしく映ることに対して少し理不尽感を覚えながらも、自分も昔から似たようなものだったと思い出して猛省する。


「この子、変わってるでしょ?」


「まあ……はい。かなり変わっているとは思いますね」


「ひ、ひどい……」


「まあまあ。気弱なくせにものすごく負けず嫌いで、折れることがないんだよね。キミに勝とうとしてる時点で頭おかしいと思うもん。小学生がヒグマに勝つようなものだよ。不可能だ。でも、できると信じている。……これ、凄いと思わない?」


「……私は一度、プロ野球選手の道を諦めましたからね。よくわかりますよ。凄いという言葉では形容できません。だからこそ勝つ。徹底的に潰します。心まで折るつもりはありませんし、陰山さんの心を潰すなんて芸当が私にできるとすら思えませんが、それでも完全勝利を収めたいと思っていますよ」


「……ねぇ、聞いた?さぬきちゃんってば七離ちゃんのこと相当意識してるみたいだよ?」


「え……?う、嘘……へへ」


「否定はしません。自分より強い者に打ち勝つという気持ちは互いに同じですから、その天秤がどちらに傾くかという話です」


「ボ、ボクなんて天霧さんに比べればずっと弱いですよ……もちろん、勝つのはボクですけど」


「ふふふ、いい勝負にしましょうね♥」


 勝負の日は迫っていた。

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無職厨二不老メスガキTS娘による配信道! 小弓あずさ @redeiku

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