ep5

 エナを見てからへたりこんでしまい、本人に汗を拭かせ水を飲まさせたという事実にさらに顔が赤くなる。

エナは墨名が何かの発作を起こしているのではないかと心配し、内心焦り始めた。

「マネージャーさんと連絡取れますか?迎えに来てもらいましょう」

墨名はやっとの思いで寧々に発信した。エナはその携帯を受け取り事情の説明をした。

「はい、分かりました、では駐車場で待っています」

電話を切り、墨名の胸ポケットに差し込む。

「墨名さん、寒くないですか?駐車場までしばらくかかりますから、しばらくこれ着ててください」

自身のジャケットを脱ぎ墨名にかける。そのままぐったりとした墨名をお姫様だっこした。なるべく人目につかないよう、楽屋に近い出入り口から抜け外の空気に触れる。駐車場で寧々の車を待つ間、エナは墨名の脈をとっていた。


(激しい運動のあとと同じ脈拍だ、マネージャーさん早く来てくれ……!)


墨名の意識は朦朧としながらも、指先はいつも抱えているルトリのグッズ、エナのクッションを探していた。ぬくもりをとらえ、それを優しく包み込む。すこし安心し、脈も安定し始めた。

ヘッドライトがついた車が二人に向かって進んでくる。運転している寧々とアイコンタクトを取り後部座席に墨名を下ろした。

「お待たせしました、エナさんありがとうございます」

「あれ……」

「どうかしましたか?」

寧々が後部座席を振り返ると、墨名がエナの上腕二頭筋をしっかりとホールドしており振りほどくに振りほどけない状態になっていた。

「俺も乗っていいでしょうか」

「え?いえ、そんなことしてもらうわけにはいきませんよ」

「墨名さん、ようやく落ち着いたところなのでできるだけ体勢を変えない方がいいかと思います」

「エナさんのお仕事の方は……?」

「明日出発なので今日は予定ありません」

「では、お言葉に甘えます。どうもありがとうございます」

寧々が車を発進させる。深夜の車内で、月明かりに照らされる墨名がなんとも美しく見えた。

「エナさんのマネージャーさんにも伝えてください」

「連絡済みです。あの、墨名さんは何か発作を起こしてしまったのでしょうか……?」

「うーん、墨名さん、エナさんにお会いするのとても楽しみにしていましたから。緊張したんだと思います」

え、と呼吸が漏れた後、エナの頬がすこし赤くなった。なんといっても、今のエナがあるのは、今彼の腕の中で眠っているその人のおかげだからだ。  



 デビュー当初からエナは作曲も手掛けていた。ダンスパフォーマンスと重心の安定した歌唱には定評があったが、世間は若いオールラウンダーを信用しない。ファンはエナの創作活動を喜んでくれるが、世間の懐疑的な目から新規ファンの取り込みが難しくなっている原因は自分の作曲活動なのではないかと思い悩んでいた時期があった。

 そんな中事務所によりエナの作曲家としてのソロ活動が開始された。正体を明かさず、クリエイター「ENA」を新たに所属させると発表された。不安の中で日々を過ごしていた。あの日練習室の隅で、リーダーがもってきてくれたインタビュー記事に救われたのだ。


『墨名さんのお気に入りのアーティストはどなたですか?』

『ENAさんの作品がとても好きです。アップテンポでも重低音でも、なぜか安心してしまうんです。』


「ヒョン……」

「お、どうした?」

「俺この人に会いたい」

リーダーはエナの頭をぽんぽんとはたいた。

「この人は有名な人だから、俺たちももっと有名になれば会えるかもな」

エナの目が輝き、いきなり立ち上がってアップを始めた。その日からエナはより一層活動的になった。その熱量を微笑ましく受け止めてくれたリーダーにもずっと感謝している。



「まだ覚えていてくれたんですね」

エナは腕の中の墨名の前髪をかき分け、やさしいまなざしで見つめた。寧々はルームミラーで後部座席を確認し、墨名の呼吸が止まらないかどうかハラハラしていた。

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テディオルカ 背尾 @llxxxxxll

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