第2章 魔法の才能と戦闘の才能
第13話
アメリアに続いて、皆も一礼して入る。ダンジョン内はとても静かで、それが返って不気味な空間を作り出している。少し奥に進むと、そこには大きな扉が見える。間違いなく扉に刻まれているのはダイヤモンド帝国で見たものと殆ど同じである。あの時は暗くて全貌が良く見えていなかったが、よく見るとこれは魔法陣のような物に見える。魔法陣は詠唱魔法と違って、詠唱することではなく、書くことで発動できる魔法だ。実戦では書く時間等与えられない為、使い物にはならないが、このような大掛かりな魔道具には魔石だけでは作れない為、魔石を魔法陣の形に加工して魔法を発動させることが多い。
「魔法陣か?」
「これは、ダイヤモンド帝国で見た扉とほぼ同じに見えるのじゃ」
確か、将吾が聞いた話によると、近づくだけで転移魔法が作動するらしい。私たちは一斉に扉の近くへと一歩踏み出した。その瞬間、扉に刻まれた魔法陣が光り出す。話通りで助かる。しっかりと転移魔法が起動している。
「ここが、ホワイトドラゴンのいる場所ってことか」
広さはドーム一個分と表されるくらいの広さに加えて、天井も相当高い。ホワイトドラゴンが動き回れるように広い空間が作られている。
「奥の方にいるのじゃ、あれがホワイトドラゴンじゃ」
アメリアも、龍の姿で応戦できるように構えている。ホワイトドラゴンはこちらに気づいたのか、かなりの殺気をこちらに向けている。ここまで好戦的なタイプではなかったはずだが、本当に私の知っているホワイトドラゴンなのだろうか?
「ぐおおおおおおっ」
「ホワイトドラゴン、我じゃ!紫龍じゃ!」
アメリアがホワイトドラゴンに近づこうとする。私達も散らばる。そこには複数の骸が転がっていた。冒険者だろうか。顔は踏みつぶされたのか、顔とは判別できない状態であった。
「行動不能魔法を掛ける!」
将吾はそう言って、ホワイトドラゴンに対して魔法を放つ。そして晴人たちが一斉に魔法を放つ。この作戦に異を唱えることは不可能だ。相手が魔族である以上、勇者はそれを掃うのが仕事。それは心では分かっているが。
「くそっ、無効化しやがる!防御結界か!?」
「っ。そうみたいじゃな」
ホワイトドラゴンは、魔法をすべて無効化しているようだ。
皆がホワイトドラゴンと対峙している中、私は、ホワイトドラゴンが何故ここまで狂暴化してしまったのか探るべく、ダンジョン内を見渡す。
ホワイトドラゴンは、ものすごいスピードでアメリアに接近し、片手に剣を持って戦い始めた。アメリアには防御結界をしているが、物理攻撃にはそこまで強くない。そもそも魔法というのは魔法で返すのが主流。この世界での物理攻撃とは、魔法を詠唱している間の防御にすぎないのだ。
「くっ」
アメリアは一方的に押されている状態で、全く歯が立っていない。このままではアメリアに掛けた防御結界は破られてしまう。その前に、このダンジョンで感じる違和感の正体を突き止める必要がある。
ダンジョンの壁はしっかりとした石造りの壁で、壁全体に何やら絵が刻まれている。この壁全体が魔法陣であるとでもいうのか?生憎、魔法陣の知識は殆どない。この魔法陣が何の効果を持っているのかは、ホワイトドラゴンの動きを見るしか無いようだ。
「ダメだ、魔法が全然効かない」
魔法が効かないということは、私が使っている防御結界に似たような効果を持つ魔法が使われているのだろうか。それとも、その魔法自体を発動できないようにデバフが掛けられているとか。
私の防御結界内では魔法は使えているように見える。つまりこのダンジョン全域に掛けられた魔法は、私の知る魔法ということか。デバフの類の魔法と仮定すると、そのデバフを解除してやれば、この場で魔法を使うことが出来る。
この広域デバフを解除するには、相当な魔力の浄化が必要であろう。私は、夏帆に言い放つ。
「夏帆、浄化魔法を使って!ここのダンジョンは広域のデバフ魔法が掛けられている」
「うん!」
私は、なるべくバレないようにホワイトドラゴンを救う手立てを考えていた。この状況下、私がホワイトドラゴンに何もしていないのはおかしいだろう。『ここのダンジョンの性質を調べている』という仕事をすることで、私の動きが不自然なものではなくなる。さらに、男子二人に遅れを取っている夏帆に重役を任せ、パーティー全体の成長を促す。我ながら完璧な計画だ。
「浄化魔法だね……!」
夏帆は、私の指示通りに浄化魔法を掛ける。この魔法陣がデバフ系の魔法を示しているのであれば、浄化魔法でデバフは消えるはずである。夏帆は魔法を一気に展開し、ダンジョン全体を包み込むように魔法を発動させた。
「なんじゃ!この光は……!」
「ぐぅうう……!?」
ホワイトドラゴンも何かに気付いたのか、アメリアから距離を取る。魔道具を壊すことでも魔道具の効果は消える。しかし、迂闊に魔道具を壊そうとすると、逆に自分にダメージが降り掛かる場合がある。私は、敢えて魔道具の効果を打ち消す魔法を掛けてその魔法を解く方法を選択した。見事に魔法を封じ込めるデバフ系魔法を解除したのはいいが、ホワイトドラゴンからはまだ魔法の気配を感じる。
「今がチャンスだ!」
晴人の声と共に、将吾は魔法を放つが、それは虚しくもホワイトドラゴンには当たらない。ホワイトドラゴンは一瞬で人の姿へと成り変わったのだ。大きな身体であるが故、避けられないと踏んだのだろう。その姿は、私の知っているホワイトドラゴンと同一であった。銀髪に黄色い瞳、スラっとした身体。忘れるわけがない。
「魔族……だとしても人になられると……」
将吾は少し躊躇う。目の前にいるのは人の形をした魔族だ。だが、人の形というのが相手の心を揺さぶり、攻撃のストッパーになっている。
「別の魔法がさらに掛けられているように見えるのじゃ!」
「呪い……みたいだね」
将吾はそう言った。鑑定魔法でホワイトドラゴンに掛けられている魔法を見たようだ。剣を握るホワイトドラゴンと距離を取りながら。
剣を握るドラゴン族など普通は考えられないだろう。私の知る、ホワイトドラゴンは魔法を全て見切り、そして剣術で圧倒する。正直言って、魔法しか鍛えていないこの世界では、剣術で勝てるはずがない。
「呪いなんて聞いたことないのじゃ、魔法とは別の類か?」
「呪いっていうのは魔道具と同じ。魔法石を加工して対象を指定することで発動する」
私は、我を忘れてアメリアにそう言った。あとで文献を読んだとでも言っておこう。呪いは魔法ではあるが、何故か詠唱魔法では存在していない。普通、魔道具というのは魔法の代替品である。しかしこうした魔法の代替品ではない魔法が幾つか存在しているのも事実である。
「どうすれば解除できるのじゃ!」
「光属性の治癒魔法の類にあると思うんだけど、夏帆はもう魔力量が……」
「大丈夫、まだ、魔法使えるから」
夏帆はそう言っているが、顔色はあまり良くない。このダンジョン全域に浄化魔法を掛けさせたのだ。流石に勇者の才があったとしても魔力切れは時間の問題だ。
「とりあえず、俺と晴人とアメリアで時間を稼ぐ。優香は何か打開策を考えてくれ」
ホワイトドラゴンに魔法は当たらないと踏んだ将吾は、剣を握った。アメリアは、大分魔力を消費しているようで天使草を取り出す。
「あれは、もう我の知っているホワイトドラゴンじゃないのじゃ、元に戻って欲しいのじゃ!」
ホワイトドラゴンは、アメリアの魔力がもう底をつき始めていることに気付いているのか、将吾の方に近付き、一気に剣を振り下ろす。将吾は超反応で剣を交わすが、交わされることをまるで読んでいたように、ホワイトドラゴンの蹴りが将吾の横腹の突き刺さる。
「ゴホッ」
「ホワイトドラゴン!我が相手なのじゃ!」
アメリアは天使草で幾らか魔力が回復したようだが、当たり前のように魔法を回避される。
「優香、どう?」
「魔石らしきものは見つからない。どうしたら……」
将吾は横腹を抱えて倒れている。晴人は、将吾に近づけさせないように土属性の魔法で壁を作っている。アメリアは天使草で何度も復活しているだけで、ホワイトドラゴンの動きを止めることすら出来ていない。流石、ホワイトドラゴンと言うべきか。
「優香……ごめん……」
そして私の前で夏帆が魔力切れで倒れ込む。ずっと浄化魔法を掛けていたのだろう。一度掛けたところで、魔道具を壊していない故、魔法は復活する。
そういえば、このダンジョンは扉が開けられないようになっていた。扉を開ける前にここに転移するように作られているから。つまり、扉らしきものは扉に見せかけた壁であると仮定する。この空間自体が魔道具で出来ているとしたら、この場からホワイトドラゴンを抜け出させれば、魔法陣や呪いも消えるのではないだろうか。
「……っ」
私は、その場で転移魔法を発動させる。最初に偽造した属性が風属性で助かった。私が転移魔法を使えてもおかしくはない。整合性は取れている。その場にいた全員を近くの森まで転移させる。
「天使草……もう一個しかないのじゃ……って!?」
「他の三人は魔力切れや痛みで気を失っているだけだ。ホワイトドラゴンは……」
私は、すぐにホワイトドラゴンの方へと駆け寄る。そして鑑定魔法で掛けられている魔法を確認する。やはり呪いは解除されている。あのダンジョンこそが魔道具であったのだ。だが、出口がないダンジョンだなんて、ホワイトドラゴンは閉じ込められていたという表現も出来る。
「ま……魔王様……」
ホワイトドラゴンは、そのまま気を失った。いつからダンジョンにいたのかは分からないが、呪いにずっと曝されていればこうなるのも無理はない。
「傷は回復させておくけど、これからどうするかだよね」
「優香、ありがとうなのじゃ」
「ううん。ホワイトドラゴンを助けるためだから。それに、成り変わるための魔道具、ずっと同じの使ってくれたんだって……」
アメリアは、私が知っている姿では無かった。人に成り変われる魔道具は、一度決めた姿に成り変われる。アメリアはネックレス型の魔道具を何本か持ち、色々な姿になっていた。だから、八十年も経てば成り変わる姿も違うものになっていると思った。ホワイトドラゴンも同様に変わっていると思い込んでいたが、昔のままでずっと同じ魔道具を使っている証拠だ。
「そういえば、ホワイトドラゴンはネックレス型じゃないのじゃな」
「ネックレスが主流だもんね。基本的に魔力量を底上げするバフが付与されているやつ」
「魔王城の近くに売っていたのはそれじゃな」
私は、ホワイトドラゴンに近付き、足に付けられたアンクレットを指差す。そのアンクレットは革で作られており、真ん中にダイヤモンドが埋め込まれており、そのダイヤモンドの両脇に魔石が埋め込まれている。
「珍しい形じゃな」
「付与されたものは、俊敏に動けるようにするというもの」
「?」
アメリアは不思議そうな顔で私の方を見た。私はは、そんなアメリアに笑って返した。
とりあえず適当に森の中に転移させたが、ここは失敗だったかもしれない。魔族領の森、皆が眠る中、アメリアと私は魔族に囲まれていた。ゴブリンにオークか。
「優香、ここは我に任せるのじゃ」
アメリアは龍の姿へと変化する。流石にこれを見れば勝てる相手ではないと思うだろう。ゴブリンもオークも大人しくアメリアから離れていった。アメリアが逃げたせいで紫龍という種は廃れたという話だったが、名誉だけで強さは何も変わっていない。
「んっ……傷が治ってる!?」
将吾が目を覚ますと横腹に手を当てる。アメリアは天使草を見せる。正直全員分の天使草は無かったので、私が全て治癒したのだが、これは内緒だ。将吾が目を覚したのを皮切りに晴人や夏帆が目を覚ます。ホワイトドラゴンは未だに目を覚していないが、私はキョトンとしている三人に説明した。
「あのダンジョン全体が魔道具なんじゃないかなって思って、転移魔法使ってみたんだ。まぁ、魔力は殆ど使っちゃったけど」
流石に無理があるか?と思いつつも笑って誤魔化す。
「ナイスだよ、討伐も大事だけど、まずは生きて帰ることだよな」
「ああ、将吾、鑑定魔法でちとホワイトドラゴンを鑑定して欲しいのじゃ。呪いが解除されているか知りたい」
「分かった」
横になっているホワイトドラゴンに対して、将吾は鑑定魔法をする。そして笑顔で返した。
「呪いが消えている。よかった」
「良かったのじゃ。ホワイトドラゴンからは聞きたいこともあるのじゃ、このまま起きるのを待つのじゃ」
辺りはすっかり陽が落ちている。晴人はそこら辺に落ちている木を拾い、火を魔法でつけた。帰宅できる体力を皆持ち合わせていない以上、今日はここで野宿だろう。
「テントをマジックバッグに入れてあるのじゃ」
「なんだかいいね、野宿」
マジックバッグからテントを三つ出すと、テントを設営する。なんだかキャンプをしているようだ。ご飯もマジックバッグに入れてあった食材で何とかなりそうだ。
「星が綺麗……」
「そうだな、都会では滅多にこういう景色には出会えねえ」
火を見ていると、不思議と心が安らいでくる。この世界に召喚されたのもきっと何か縁があったから。またかつての仲間と出会えたのも……。
「皆魔力を回復するのじゃ、もう寝るのじゃ!」
アメリアはそう言ってテントの中に入る。テントは、一応男子、女子、魔族となった。別に誰でもいいのだが、アメリアが真っ先に提案し、皆異論なしでそれに従った。
「優香、今日はありがとね」
「ううん」
夏帆はそう言うとすぐに眠りについた。魔力切れの影響だろう。明日には回復していると思うが、今はゆっくり眠っていて欲しい。夜も深まった所で、私は何やら音がしてテントから外へと出る。
「将吾どうしたの?」
「優香……か。なんだか寝付けなくてな」
前世は魔王でした、今世は地球で女子高生やってました。 亜麻色ひかげ @Amairo_hikage
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。前世は魔王でした、今世は地球で女子高生やってました。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます