Graetful Bloodline〜世界を変える唯一の方法

津城しおり

第1話 はじまりは牢獄から

僕は死んだ。

だけど今この世界にいる。

いわゆる異世界転生というやつだ。

なんで死んだかって?

ああ、それはただの事故さ、交通事故。

死ぬまでにドラマなんてない、死は唐突に訪れたんだ。


僕は車に轢かれた。


あ、でも、引きずられたわけではないよ、血がいっぱい出たんだ。

薄れてゆく意識の中で僕がわかったのはそれぐらいさ。


で、気づいたらこの世界に来てたってわけさ。

第二の生も唐突に訪れるんだね。

神の気まぐれにはこりごりだよ。


ふうん。

なんか祭りしてたんだよね。

僕が転生したのは屋台と屋台が向き合った道の真ん中くらいだよ。

それで、なんかうろうろしてたんだよ。


結構面白かったなあ。

見た?獣の顔した人間もいたし、二足歩行した獣もいた。

それに、エルフも、色んな髪の人もいた。

色んなのがいたなあ。



それで、そんな感じでうろうろしてたら、兵士みたいなのに声をかけられたんだ。

どうやら、僕たまたま立ち入り禁止の場所に侵入しようとしてたんだよね。なんか神社っぽい、特別な場所だったよ。


『すみません。関係者でしょうか?』


僕はびっくりしたよ。

だって、この世界の人が日本語を喋ってたからね。いや、僕がそう感じるだけで、この世界の人はこの世界の言語を喋ってらだけかもしれないね。


『手の甲を見せていただけますでしょうか?』


それで、僕は彼に手の甲を見せた。そして、手の甲を見るなり、血相を変えたんだよ。


『どうして、おまえここにいる?』


それは僕にもわからなくて、

『は?』

って言っちゃった。

それで、なんか連れてこられてたんだ。




ここ牢獄にね。





§1


「私も大体そんな感じかなあ……。あっ、そういえばあなたの名前は?」


「名乗ってなかったね。僕は鉈木レグ。珍しいでしょ?君の名前は?」


「天川遊子美」


「へえ。ゆずみねえ。どんな漢字?」


「遊ぶに子どもの子と美しいの美で遊子美です」


「へえ、君も結構珍しいね。年齢は?僕は16」


「私は18…もうちょっとで19になる」


「年上じゃん。てっきり年下かと思ったよ中学生ぐらいだとね。ていうか、ここに来て何日経つ?僕はさっき連れてこられてきたわけだけど」


「日光が刺してこないから正確にはわからないけど、たぶん三日か四日は経ってるね」


「メシとかでるの?」


「まあ出るは出るけどまずいね。不衛生って感じではないけど普通にまずいって感じ」


「うげぇ。いつからここ出れるんだろうな。はは、一生ここだったりして」


「なんでそんなに余裕なの?不法入国とかで処刑されるかもしんないんだよ?」


「え?不法入国?」


「そう。兵士は手の甲を強引に見たわけでしょ?」


「まあね」


「これは私の考えだけど。ここの国の人には全員何かの印がつけられてるんじゃないかな」


「だとしても、印がなくて急に牢屋にぶちこむかい?違う国の人が観光しに来てる可能性もあるかもしれないじゃんか」


「じゃあ、この世界の人は全員印があるって考えるとどう?」


「じゃあ、なぜ印があるかどうかを確認するんだ?やっぱり印がない人もいるんじゃないか?」


「印にもいくつか種類があるんじゃないかな?」


「というと?」


「君は神社みたいな特別なところに入ろうとしたんだよね?そこで、手の甲を確認された。じゃあ、つまり特定の人にしかない印があるんじゃないかな。それで、兵士はそれを確認しようとしたけど、印自体がなかったから牢屋に入れられた」


「なるほどね。それだと辻褄が合う。そういえば、君はどのような経緯でここに来たんの?」


「私も大体君と同じかな。神社みたいなところには入ろうとしてないけどね」


「そっちの方は何か聞いてない?」


「ん。別に。何もわからないよ」


「ふうん。特定の場所に侵入しようとしてなくても捕まるってことね・・・・・・。あっ・・・もしかして、罪人には印がないとかじゃないのかな?あの兵士は何の戸惑いもなく、僕を捕まえたわけだけど、この世界の全員が印を必ず持ってたらまずは戸惑うんじゃないのかな」


「確かにそうだね。もしそうなら生まれつき手に印があるわけではないということだね」


「そういうことになるね。そもそもどうして、手に印をつけるんだろうな」


「さあね。そういう宗教なんじゃない?」


コツコツと靴の音が聞こえる。

重なったその音から人数はおそらく二人だ。


「誰か来てるねえ」


やがて、その音が近づいて扉の前でその音が止むと鍵が開かれ、扉が開く。

廊下から差し込む光がこの牢屋を照らした。


「・・・・・・あれ?だれも死んでないだね。この言語で通じるかな…?」


肌が白人のように白く、耳が長い女が部屋に入ってくるなりそう言った。


「あ、え?・・・に・・・・・・日本語がな・・・何で喋れるんですか?」


「あっー、通じるんだ。よかった、通じなかったらちょっとばかりヤバかったわ」

そういうと女は隣に兵士に日本語以外の言語で会話をし、それが終わると牢屋にいる一人一人の顔をまじまじと見つめ再び口を開いた。


「あなた方三人を今から保護します。ただし、条件があります。これから衣食住を確約する代わりにあなた方には少々研究対象になってもらいます。いいですね?これは決定事項なので拒否権はありません。それでも嫌というなら、殺します」

女は急にロボットみたいに単調になった。

どうやら、マニュアル通りに事を進めているのだろう。


「ここ殺すって言ったよこの人!きっと僕らをモルモットにする気だ!」


「モルモット?死体のことですか?」


「モルモット知らないんですか?モルモットはですね…」


「そんなことはどうでもいい。とりあえず、俺は保護してもらう。こんなところで死ぬのは嫌だしな。君らもそうだろ?」

俺の問いかけに二人は頷く。


「君喋れたんだねえ。てっきり、心が壊れてるんじゃないかと思ったよ」


「では、あなた達を今からリリス公領へ護送致します」


「リリス公領ってなんですか?ていうかあなた何者ですか?」


「失礼しました。私はリリス家第十四女のラートです。あなた方の世界でいうといわゆる貴族っていうやつです」


「貴族!?」

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