第5話

梨愛は息を整えてクミマが2階に上がる音を確認してから鍵をそっと開けドアを開けた。

かちゃりと音がして廊下の様子が見える。

……と思われた。

ドアの先にはクミマがいたのだ。

やっと獲物を追い詰めたクミマは手に持っていた鉈を振り上げた。

その瞬間梨愛がすっと頭を下げて伏せた。

その頭の上を風を切って進むのは弾丸だ。

針状なので弾丸とは言えないが、銃から出てきたものだから弾丸でいいだろう。

その弾丸がクミマに刺さった。

クミマは恨めしそうにこちらを見るとそのまま倒れた。

かぁーんと音を立てて鉈が落ちる。

「鉈は拾わなかったのか?」

「廉くんおんぶしてたもんだから。」

確かに、梨愛の身体が軽いとはいえ、おんぶしながら大きな鉈を運べるほど俺は力が強くないからな。

おっと、2分半しか麻酔は効かないんだっけ。

梨愛はさらりと鉈を拾うと、リビングへ走っていった。俺も着いていく。

「リビングタンス三段目花瓶横…」

タンスにしまわれていた花瓶の横に銀色の金庫を見つけた。

もちろん鍵付き。

「どこでこれ調べる?」

「書斎はどうだ?」

「クミマがそろそろ起きるから無理。」

麻酔は2分半しか効かないんだっけ…

「あ、もう起きてるじゃん」

梨愛のその言葉に驚いた。

「今すぐ鉈もって逃げないとだめじゃねぇか!!」

梨愛に鉈を持たせて全力で二階の梨愛の部屋に向かう。俺は金庫を持つ。

リビングから廊下に出たとき、書斎が見えた。

クミマがのそのそと起き上がり、こちらを見て、鉈のない血まみれの肉球から鋭い爪を出したのを俺は見てしまった。

……まじかよ、鉈なくてもいいのか……。

クミマがこちらへふらふらとした足取りで走ってきて、俺は急いで2階へ向かった。



梨愛は部屋に入ると俺も入ったのを確認してドアをばんっっと閉めた。

鍵も閉めて、ドアと床のしたの隙間に入れる三角形の滑り止めをずるっと入れた。

その間に俺は鉈を持ってダクトに逃げておく。

梨愛はカーテンを引きちぎってダクトに入ってきた。

「おいっ!それ今いるか!?」

明らかに移動に邪魔になっているカーテンを見て俺は思わず声をかけた。

「いいから!交差点まで急いで!!」

2人で必死に匍匐前進をしてダクトの交差点についた。

ダクトには凹凸もないし、一軒家についているものにしては大きい。

下へ向かうダクトには梯子がついているし、まるで人が移動するために作られたようだった。

それを言ってもどうにもならないから俺は梨愛に着いていくしかないんだよなー…

梨愛の次のアクションを待つ。

その視線に気がついたのか梨愛はこちらをむいて、

「鉈貸して」

と短く言った。

言う通りに鉈を手渡すと、ちぎってきたカーテンを鉈にぐるぐると巻き付けた。

「はい、これで危なくないよ。」

「おぉ、ありがとう」

とりあえず感謝しておこうではないか。

「とりあえず金庫調べる?」

「そうだな。」




俺達が持っている鍵は現在クミマの持っていた鍵だけだ。

金庫は鍵がかかっていて開かない。

つまり金庫に鍵をぶち込めばいいのでは!?

がしかしそんなに人生は上手くいかないことを知っている、って梨愛がもう鍵ぶち込んでる……。

がちゃ

開いたよ!?

「開いたねー」

「まじか…」

梨愛とともに金庫の中を恐る恐る覗く。

「……なんもない?」

「なんにもねぇ…?」

そう、中には何もなかったのだ。


銀色の金庫の中には何もなく、ひんやりと冷たい空気だけが入っていた。

いや、違う。

金庫の中には1枚の紙が入っている。

「なに、この紙…」

「なんだろーな…」

恐る恐る手に取り、見てみる。

それは写真。

一人の女性だ。

ある海岸で撮ったのか、逆光で顔は見えないが、恐ろしく美人なのは分かった。

写真でも分かる神々しい雰囲気。

俺たちは黙ることしかできなかった。



「きゅいっっ」

どれくらい時間が経ったのか、ナニカの鳴き声でハッとする。

そのナニカは___

ネズミだった。

ダクトに響いた鳴き声。

直後のことを俺は理解できなかった。

「ぎゅ、ぅいっ、」

ダクトには天井に繋がっているところもあり、そこには格子がある。

格子を突き破って黒く、鈍く光るなにかが飛び込んできて、それがネズミを潰したのだと分かった。

[きゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃぎゃ!!!]

耳に残るクミマの声。

黒く、鈍く光るなにかはクミマの爪だ。

クミマの爪は飛ばす事ができる…?

それを梨愛と理解すると、俺たちに挟まれる格子から離れるように、格子から離れるようにじりじりとさがったのだった。



格子から3メートル程離れてから梨愛とアイコンタクトを取る

『どうする?』

『俺が行く』

短くそう済まして格子付近へ近づく。

そろりと格子から下を覗く。

クミマはいなかった。

梨愛と顔を見合わせてほっ……とするが、

〈こんばんワ〉

……話しかけられた?

〈くすくス。驚かなくてもいいのヨ。〉

梨愛の驚いた顔が見える。

俺の後ろになにかいるということか?

でも俺は梨愛の顔を見て、嫌な予感がした。

おかしなイントネーション。

俺に気付かれずに背後へ来たこと。

俺はそっと後ろをふり返る。

そこにいたのはウサギだった。




あとがき、は今回はなし!!

次回更新は9月上旬を予定しています。

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君に祈りは届かない。 @hoshiame_1445

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