僕らの世界
パ・ラー・アブラハティ
さようならを僕らへ
僕らの世界はあの日に大きく変わってしまった。異端が普通になって、今までの普通が異端になり、僕は僕と出会った。
姿ひとつ、声色、表情の動かし方、口癖、全てが僕の僕に出会った時は本当に驚いた。簡単に言えばドッペルゲンガーというやつなのだけど、このドッペルゲンガーの僕は見たとしても死ぬことはなかった。それは他の人も同じだった。僕が僕と出会ったように、母さんは母さんと出会って、父さんは父さんと出会っていた。世界中は大騒ぎした。連日このことが取り上げられ、世界人口は爆増した。そして偉い人は言った、食糧危機が必ず起きると。
でもそれは起こらなかった。そう、なぜなら増えた人口を減らすように異形の化け物が現れたんだ。それは本当に意図したかのように起こった。次々に人々は食われ、僕と僕の命もいつなくなるか分からない状況だった。
世界は異形の化け物に立ち向かうべく、同盟を結び立ち向かったが銃弾は効かず、ミサイルは紙を切り裂くかのように撃墜された。核兵器の使用すら視野に入ってきた時、僕の家族の命が異形の化け物に狙われた。
階下から聞こえてくる母たちの悲鳴に僕たちは慌てた。父さんたちが椅子でどうにか食い止めようとしていたが、そんなのでは到底敵わない。父さんたちが食べられそうになり、僕たちは腹の底から叫び、気づいたら走り出していた。
父さんに覆いかぶさり今にでも獲物を捕食しようと、口を開けている異形の化け物に僕たちは体当たりをし吹き飛ばしたんだ。僕たちはそのことに驚いた。世界が団結し立ち向かい、銃弾、ミサイルすら効かなかった化け物を僕たちが吹き飛ばし呻き声をあげさせている。
この瞬間僕たちは自分の力に気付いた。他者とは違う、この特別な力に。いつ備わったのかは分からない。けれど、この世界を救える力があると分かった僕たちは目の前の異形の化け物を打ち倒し、世界を救うことを決意した。
そして現在、世界中に散らばっていた異形の化け物が合体し、世界を覆い尽くさんとしている。僕たちはあと一歩のところまでやってきた。二人で力を合わせ、世界中の異形の化け物を倒してきた。そして、今役目を果たさんとしている。
「ここまで長かった」
「何ヶ月経った?五年?」
「自分で何ヶ月って聞いておいて五年はおかしいだろ。六ヶ月、半年だ」
「本当に長かったな。だけど、こいつをぶっ倒せば全部解決か」
「人生の延長線上にまさかこんなイベントがあるなんてね」
「最高で最低なイベントだよ、全く」
「減らず口はここまでにして終わらせようか。そして救おうか、世界を」
「おう、そうだな」
僕たちは拳と拳を合わせ、ニカッと笑い合い最後の戦いに身を投じ、熾烈を極めた。殴り切られ、壁に打ち付けられ踏まれ、全身はボロ雑巾のようになっていく。
だけど、僕たちの心には絶えず燃える闘志があった。ここで倒れれば愛する者が泣いてしまう、ここで折れてしまえば世界が終わる。強き意志を拳に込め、最大で最後の攻撃を放つ。
「
放たれた拳は異形の化け物を貫き、世界を覆い尽くしていた雲が晴れてゆく。太陽が地球を照らし、新しい時代の幕開けを知らせる。
「やったな、僕」
「あぁ、やったな。けど、僕はここまでみたいだぞ」
「そんな予感はしていた。だってよ、こういうのはラスボスを倒したら他の世界の住人は元の世界に戻る。それがセオリーだろ?」
もう一人の僕の体は光の粒子になり、空へ飛ぼうとしていた。けれど、その顔には涙は浮かんでいなかった。達成感で満たされた幸福の表情が僕と僕にはあった。
「流石。よくわかってるね」
「君は僕で僕も僕だからね分かるさ」
「さようならだな、僕」
「ありがとうだよ、僕」
「そっちの世界でも楽しくやれよ」
「僕だから楽しくやれるに決まってるじゃないか。僕だから分かるだろ?」
「痛いほど分かる」
「だろ?じゃあ、もう行かないと。また逢う日まで!」
「おう、また逢おうな!」
そうして僕は空へ消えていった。ありがとう、僕。そして、さようなら僕。
僕らの世界 パ・ラー・アブラハティ @ra-yu482
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