第25話:孤児院からの旅立ち
手紙を書き終えて、それから1日が過ぎ彼女たちが帰る前日の夜になった。
本来なら皆で明日見送る……予定だったのだが、俺がちゃんと家族と離れる為にとリリアさんの提案で今日の夜に出発することになったのだ。
家族に告げず別れるという事になるし、皆驚くだろうが大切なことは大体手紙に書いたので大丈夫だろう。
……あとはメルリ師匠だが、それはリリアさんに全部任せるしかない。
そんなこんなで俺は迎えに来たエイルさんの馬車にリアとセリナと一緒に乗り、出発するのを待っていた。
「……何故、ルクスもいるんだ?」
「えっとね、リュートさんに用事があってさ」
「そうか、だが帰りはどうすんだ?」
「……適当に帰る感じかな?」
まあこれは嘘だ。
本当は暫くどころか、かなりの時間グレイシス家に滞在するが、彼女には言えない理由があるからこう言うしかない。
だってあれじゃん?
俺は彼女の勧誘を断ってるのに王都にいまーすみたいになったら絶対にややこしいことになるし――私の誘いを断ったのになんでいる? みたいになったら面倒くさい。まあ、交流ある二人だからいつかはバレると思うけどその時はサプライズって事で乗り切ろう……見通しが甘いとか言っちゃいけない。
「そうか、それなら少し我が家に寄るといい」
「そっか、大図書館があるんだよね」
「そうだ。国一番とされるほどに本が集まっている場所だぞ。しかもあのメルリ様もよく訪れる」
メルリ様……そう言った瞬間だけめっちゃ目がキラキラしていたセリナ。
それに違和感を覚え彼女に理由を聞いて見たら、セリナはあの師匠の事を尊敬しているらしい。なんでも創造魔法使いなのに英雄になり、数々の偉業を魔法の歴史に刻んだからだとか……俺を襲った時もメルリ師匠と同じ創造魔法使いって事で期待してたからというのもあるそうだ。
「……ねぇリア、俺の師匠がメルリさんって事は」
「言ってない。セリナちゃんメルリ様大好きだから」
「本当にありがとう」
「……なんだ二人して?」
「なんでもない」
「むぅ、私に言えない事か……」
拗ねるセリナを横目に俺は胸をなで下ろす。
これ、メルリ師匠の内面知らないパターンだよね。あと俺が弟子入りしてるって事も。知られていたらもっとなんか言われる事になってただろうし本当によかった。
というか、師匠……多分その大図書館では一言も喋ってないよね?
きっと師匠を見に来るために来る人とかいるだろうけど、愛想笑いしかしてないよね? 簡単に想像出来てしまうその状況、あまりにもしっくりくる光景に俺は苦笑いしてしまった。
「そろそろ出発かな?」
「そうだな……エイル殿の準備もできたであろう。リアは酔わないようにな」
「うん。よろしくねエイルさん」
リアが御者席に座るエイルさんに声をかけ、馬車が動き出す。
道中に何が起こるか分からないけど、大抵の相手と王都までにいる魔物の強さを考えるに俺とセリナがいれば大丈夫だろう。
これから俺はグレイシス家の世話になる。
期間は分からないし、どんな事を学べるか分からない、それに不安もいっぱいだ……だけど楽しみだな。
これから先、俺はどんな人生を歩むのだろう?
人生の目標は裏ボス回避、そして皆のハッピーエンド……その為に少しでも強くなろう。
「……またね、ノア」
―――――――
――――
――
目が覚める。やってくるのはいつもの朝、だけどその日は何故かいつもと違うように感じた。
それはそうだろう、今は孤児院にルクスの友達が来ているのだから。
だけど……なんでだろう? あの二人がいた朝は皆はしゃいでいてうるさいぐらいなのに、今日はやけに孤児院が静かだ。
「……なんだろうな?」
そうやってオレは呟いて用意されているだろう朝食を食べに行くことにした。
ここ数日は客が来ていたから豪華になっていた奮発された食事は美味しかったから今日も楽しみだなと思っていたのだが、食堂に行くとそこには誰の姿もなかった。
確かに自分は孤児院の中で二番目に早起きの方だが、いつもならもうルクスがここで皆を待っているからだ。
「まあ昨日は遅くまで皆で遊んでたしな、しょうがない。起こしてやるか」
何故か頭の中で嫌な予感がするが、それを振り払ってオレはルクスの部屋に行く。
ノックして少し待つ、だけど反応がなかったから部屋に入ってみることにした。
「ルクスー? 早く起きろー!」
簡素なベッドに突撃してみれば、そこには誰の姿もない。おかしいな? そう思ったんだが、水でも汲みに行ってるという事で納得させた。
続いて二日の間で仲良く慣れたセリナを起こしに行くことにした。
彼女もかなり起きるのが早かったし、流石に起きてるだろうと思って。
だけど、彼女が借りてた下手は空き部屋となっていて荷物がなかった。
「……帰ったのか? そういうば昨日の夜馬車の音が聞こえたし」
皆で出迎えようと思ってたのに急に帰るなんて悲しいな。
でも、それだとなんでルクスもいないんだ?
気になった……私は、少し早くなる鼓動を押さえながらまだ仕事をしているだろうリリア姉ぇの元に向かった。
「おはようリリア姉ぇ」
「む? ……一番はやはりお前かノア」
「……一番って?」
「私から説明しても納得はせんだろう、だからこれを渡そう」
リリアさんが渡してきたのは一通の手紙。
私に手紙を書いてくれるやつなんていないはず……だから誰からのか気になり、恐る恐る封を開けた。
「……ルクスから?」
手紙を見て文字で分かったが、これはルクスからのものだ。
内容は……何故か見たくない。
でも見なきゃいけないのは分かる。だから私はゆっくりと手紙の文字に目を通し始めた。
〔ノアへ、急な手紙でごめん。
俺は暫く孤児院を離れてグレイシス家に世話になります。
お前が学園に通うときに一緒にいられなくて本当にごめん、だけど……俺にはどうしてもやりたいことが出来たんだ。
それと約束だ。絶対に俺はお前に会いに行く。だからそれまで頑張れよ。
学園で一人だからって泣くんじゃないぞ。
PS:改まってこういったの書くの苦手で下手な文章だったら悪いんだけど、そこは許してくれると助かる。あ、そうそ女子には気を付けるんだよ。ノアは多分人気出るから。あ、あとさ孤児院から出るから魔物の討伐数とかの勝負はお預け、最後に勝ったの俺だし勝ち逃げさせてもらうね〕
最初手紙を読んで彼奴がいなくなるって事が分かり、泣きそうになった。
だけど、また会うって書いてあり安堵した。
で――問題はその次だ。PS部分の前半はいいだけど後半は?
そっちの方が長いしなんで最後に煽るんだよ……本当に彼奴らしいけどさ――マジでムカつく。
「……はは会いに行くか」
「ん……どうしたノア?」
「なあリリア姉ぇ! 学園に通うまであと三ヶ月ぐらいだよな」
「そうだな春頃からお前は通うことになっているな」
「それまで鍛えてくれないか? ちょっとルクスボコボコにしたい!」
「何を書いたんだあの馬鹿は……まあいい、私への手紙も割とムカつくものだったしな。手伝おう、二人であの馬鹿の度肝を抜こうじゃないか」
決まりだ。
私は学園で一番になる。
それであの馬鹿を――一番大切で大好きな奴を驚かせてやるのだ。
というかさ、彼奴が気付いたら女子だって明かそうとしてたんだけど、最後まであの馬鹿唐変木気付かなかったよな………………。
「なあリリア姉ぇ、お洒落教えて」
「お前が……お洒落?」
「よし、ユリナのとこ行ってくる!」
「私が悪かったから年下を頼るな、惨めだぞ」
……本当に、お洒落も頑張ろう。
こうして私は二つの事を決意してその日から変わることにした。
ルクスの前で私っていうのは恥ずかしいが、なんとか頑張ろう。
敗北予定の裏ボスに転生した俺は、前世からのオタク知識でハズレ魔法を極め最強無敵の英雄へ 鬼怒藍落 @tawasigurimu
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