第24話:深夜のお話

 俺はリュートさんの屋敷、つまりはグレイシス家に行くと決めた。

 それまでの期間はリアが滞在するあと二日、それまでに色々やることがあるが、まずはノアに手紙でも書こう。


 急な別れになるし、ちゃんと挨拶はしたいが……そうすれば俺はきっと別れを躊躇する。だから手紙を書くことにしたのだ。

 急に別れてゴメンなって、あとはまた会おうという内容の手紙を。


「寝る前にやっておきたいけど、こういうのって……難しいな」


 改まって彼奴に何かを伝えるというのは難しく、書こうとしても何も内容が思いつかない。それに、書こうとしたら恥ずかしくなってきて余計に筆が止まってしまった。


「…………こういうとき、相談できる人がいればいいんだけど」

 

 今の時間的に皆寝てるだろうし、リリアさんには頼めない。

 だからどうするかと頭を悩ませていると、不意に部屋がノックされた。

 言葉はない、誰だろうと開けてみるとそこには朝とは違う服装のリアがいた。


 寝間着だろうか? そう思い、まじまじと見てしまったが、彼女の顔が赤くなっていったのですぐに見るのをやめた。


「ルクス君、こんな遅くにごめんね……」

「いや大丈夫だよ起きてたしね」


 それにしても何の用だろう?

 こんな時間に俺の部屋に来るなんてなんかあったのか? 

 でも丁度いいや、悩んでいたし少し助けて貰おう。

 

「それでリア、どうしたの?」

「寝れないから……少しお話したいなって」

「別にいいよ。でも、ちょっと待ってね椅子用意するから」


 椅子を用意してから部屋に彼女を通して改めて彼女に向き直る。

 リアはかなり緊張しているのか、周りを少し見渡しながらもちょこんと椅子に座っていた。


「ねえ……ルクス君、リリアさんから聞いたんだけど本当に家に来るの?」

「そうだね、その予定」

「そうなんだ…………」


 なんだこの反応?

 もしかして来て欲しくないとかあるのかな?

 それなら普通に断るけど……でも、そういう感じじゃなさそう。


「それって養子になるって事なのかな?」

「多分違うと思うよ、魔法を教えるために預かってくれるって感じだったし」

「……よかった」

「何がよかったの?」

「なんでもない。でも、それだと孤児院はどうするの? 家族と離れるんだよね」


 確かにそうなんだよね。 

 ノアと一時的に別れると決めた以上、それはいいだけど……他の子達が心配だ。

 この孤児院が今預かっている子供達は俺とノアを除いて十人。


 みんな色んな理由でこの孤児院にやってきた子達で、いい子なんだけど結構危ない部分があるから見ていないと心配なのだ。

 俺がこの孤児院で最年長という事もあってずっと世話してきたし、離れるとなると……でも、もう決めたんだよな。

 

 あの学園に通うためにもグレイシス家に行くって。


「心配だけど、大丈夫だよリア。皆強い子だし、それにここにはリリアさんがいるしさ」

「やっぱりルクス君は強いね」

「……強くないよ、割と寂しいしここから離れて暮らすのはあんまり想像出来ないしね」

「ううん、強いよ……本当に凄いと思う」


 そこまで褒めてくれると照れるが、リアは何を悩んでいるんだ?

 何か言いたいようだが、言えずにいる感じがしてなんというかもどかしい。

 だけど、暫くして何かを決めたような表情を浮かべゆっくりと話を始めた。


「わたしね、攻撃魔法を覚えたいの。でもそれが怖くて、一度誰かを傷つける技をもっちゃったらわたしが変わっちゃいそうで……でも、成長したいんだ。これなんか変だよね」

「……成長したい理由はあるの?」

「どうしても強くなりたいんだ。わたしずっとセリナちゃんに守って貰ってたから。今までずっと悩んでたんだ。それで今日はルクス君に聞いて欲しくて……来たのもあるかな?」


 成る程ね。でも、強くなって相手を傷つけるのが怖いと。

 優しいリアらしい理由だ。それはいいことだと思うし、俺がそれを変えろという権利はない。だけど強くなりたいのは本当で、前に進みたいと思ってるのか。


「ならさ、みんなを守るための魔法を覚えればいいんじゃない?」

「守るための魔法?」

「そう、誰かを倒すとか考えないでさ、皆を守る魔法を覚えればいいんだよ」


 原作だと攻撃特化だった彼女だが、そういう道もあってもいいと思う。

 この世界に魔王が復活し混沌の時代が来るのは分かってるし、彼女はノアと一緒に戦う運命にある。


 でも、これから先その仲間に俺も入れるかもしれない。

 だから彼女だけが攻撃を背負う必要は無いのだ。それにセリナも守れたら巻き込んで一緒に戦えばいい。


 強くなりたいなら俺はいくらでも手伝うし、彼女が納得出来る道があるなら一緒に行ってあげたい。


「これから先、俺は一緒に暮らすでしょ? だからさ俺も手伝うよ」

「わたし……どんくさいよ? それに、覚えも悪いし」

「関係ないよ、俺はリアの魔法が好きだからね。欲を言えば君の魔法が見たい。だからさ、一緒に強くなってセリナをびっくりさせちゃおう?」

「……ずるいなぁ、ルクス君」


 なにか小さく呟いたようだが、何をいったのであろうか?

 気になって聞いてみたが、何故か答えてくれないし……でも、悩みが取れたような表情だったし、解決って事でいいのかな?


「あ、そうだノアに手紙書きたいんだけど手伝ってくれない?」

「ノア……君に?」

「うん、別れの手紙」

「それで起きてたんだ」

「まあね、改まって書くってのが難しくてさ」

「分かった。手伝うね、一緒にがんばろ?」


 よろしくお願いします。

 そう伝えて、俺は彼女と一緒に家族への手紙を書くことにした。

 だけど、ノアだけじゃ不公平だし全員分の手紙を書くことになり、その日は朝までずっと一緒にリアと過ごした。

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