第23話:励まし
リアを迎えにいった後時間も丁度良かった頃からノアを呼び皆で夕食を食べることになった。
本来ならリア一人だけ来るはずだったのが、見知ぬセリナがいた事に長い間勉強漬けにされていたノアが驚くという事件がありつつも夕食は何もなく進み、気付けば就寝時間に。
「……何してんだルクス?」
だけど、眠れなかった俺は一人裏庭にやってきていて何をする訳でもなく星を見ていた。この世界で見る星は現代に比べて何倍も綺麗で、たまにだがこうやって見るという事をしていたのだが、何故か今日はいつものような綺麗さを感じない。
そんな事を考えていると寝間着姿のノアが傍にやってきて俺の横に腰掛けた。
「ただ星見てただけだよ?」
「……浮かない顔してただろ」
「そんな顔してた?」
「あぁ、してたぞ」
なんでだろう?
今の俺にあんまり悩みなんて……そう思ったが一つだけ心当たりがあった。
セリナの事だ。
俺は彼女をリアの為に守ると決めた……だけど、考えれば考えるほどに不安なのだ。彼女は強い、魔法の展開速度も体術も大人と引けを取らないレベルだし。
本気はどのくらいかは分からないが、最低でも俺が吸血鬼と戦った時と同じぐらいはあると思っていいだろう。
そんな彼女が死ぬ……そんなの想像出来ないが、原作のリアの姿を見るにその未来は絶対だ。夕食の時間にも考えていたけど、龍を狩る程の彼女を殺せる相手が想像出来ない。それにそんな相手に勝てる気が――。
「なあルクス、何悩んでるんだ?」
「……ごめん、言えない」
「そっか、じゃあ無理に言わなくていいぞ」
ノアなら気になったのなら聞いてくると思ったけど、どうやら違うらしい。
それから暫く二人とも黙っていた。
今は冬、あと二ヶ月もすればノアは学園に行き俺達と別れてしまう。こいつも離れるのが不安だろうし、俺の悩みを背負わせる訳にはいかない。
それに、原作知識があることは誰にも言えないし。
尚更こいつに相談なんか出来ないのだ。
「なぁルクス、今から言うことを良く聞けよな」
「……?」
「吸血鬼と戦った時さ、なんでって思ったけど嬉しかったんだ。お前が来てくれて、お前がオレを助けに来てくれて。だからさ自信持てよ。お前はオレを救えたんだぞ? 何を悩んでるか知らないけどさ、お前は好きに生きればいいと思うんだ」
「勝手な事言うね」
「だって、お前頭いいけど結構馬鹿だろ? 難しく考えるより分かりやすい方がいいって絶対」
……やっぱりノアって凄いなぁ、こんな簡単に俺に勇気をくれる。
そして、背中を押してくれる。そっか、難しく考えすぎてたのか……うん、確かにそうだ。
「ありがとね、ノア」
「いいって、あの時はお前が相談乗ってくれただろ? だからこれで相子だ」
「なんだから楽になったよ、俺は部屋に戻るね」
「おう、早く寝ないとリリア姉ぇに怒られるしな」
そこで家族と別れた俺は、先に部屋に戻ってベッドの上で横になった。
近くにはツバキがいて、不安そうにこっちを見てる。なんとなくだけど、その顔は大丈夫かって聞きたいみたい。
だから俺は相棒を安心させるためにも大丈夫だって言って、ツバキに抱きつき撫で回した。
「……ルクス、私だ今は大丈夫か?」
「ん……リリアさん? いいけどどうしたの?」
「お前に話がある」
用事があるらしいリリアさんを部屋に通し、借りたままだった椅子にリリアさんに座って貰い話を聞くことにした。
彼女の手には何かが握られている。
何か分からなかったが、視線に気付いた様子の彼女がそれの正体を教えてくれた。
「これは、リアから預かった手紙だ。この手紙はお前に関係ある物だからな」
「俺に?」
「あぁ、そうだ――そして単刀直入に言わせて貰う、ルクス暫くだがお前は孤児院を出ろ」
「……どういう事?」
暫く出ろ?
言葉的に俺を引き取る人が見つかったという訳じゃないだろうし……でもそれならなんでだ?
「リュートの奴が貴様に魔法を教えたいらしい。この手紙にはお前をグレイシス家で暫く預からせてくれという事が書いてあってな」
リアの父親であるリュートさん。
前の印象から苦手意識あったけど、そんな事をしてくれるなんて思わなかった。
気に入られた……そう思ったが、あの家で過ごしたのは短かったしそこまで気に入られる要素なかったような?
「急だね……リリアさん的にはどうなの?」
「私としてはお前に色んな事を知って欲しいのでな、行って欲しくはある。だが、お前が行きたくないというなら断ろう」
あまりにも急な話だ。
断ってもいいそう言われたから断ろうと思ったけど、リリアさんが行って欲しいなら行かないわけにはいかない。だって彼女には本当に色々恩があるし。
「いつから?」
「リアと一緒に来いとのことだ」
「すぐなんだね」
「あぁ、そうだな」
でも、それだと最後の期間をノアと過ごせない。
あいつの事が心配だし、最後ぐらいは一緒にいたいと思っていたから離れたくない。セリナからの誘いを断ったのもそれが理由だしね。
「ずらす事って出来ないの?」
「……理由はノアか?」
「当たり……彼奴も孤児院離れるし最後は一緒にいたいなって」
リリアさんに隠す必要は無いので俺は正直に話した。
すると彼女は少し難しそうな顔をして、こっちを真っ直ぐとみながらゆっくりと話始めた。
「正直な、今回の誘いはお前にとっていいことだと思っている。お前はノアに対して過保護すぎるところがあるからな、一度離した方がいいと思ってたのだ」
「……否定はしないけど、そんなに酷い?」
「あぁ、それにノアもノアでお前に依存気味だからな。今回はいい機会だと思っている」
確かに俺達はずっと一緒で二人でいるのが当たり前。
俺も俺で、主人公である彼奴に依存してる気もするし……確かに離れるのはいいかもしれない。
「それにな、リュートの計らいで貴様の成長次第ではアルステラ学園に推薦するという事も書いてあった。彼奴と一緒にいたいなら悪い話ではないだろう?」
「そうだね――うん、そうする。俺は一度孤児院を出るよ」
学園に通えるかもしれない。
あの学園はどんなものでも受け入れるが、それには相応の強さや推薦がなければ入れない。ノアは英雄候補という特殊な例だから入れたが、普通は入る事が出来ないのだ。だからこれはいい機会だろう。
あいつを助けるなら一緒に入れる方がいいしね。
「あぁ、それなら返事を書いた手紙を送っておこう」
「うん、お願い……でさ、一つ心配なことあるんだけどさ」
「なんだ?」
心配事、正直これはマジでどういう反応されるか予想できるからなんだが……本当に面倒くさい事になるだろう。最悪拗ねてあの人が引き籠もる。
「メルリ師匠は……どうするの?」
「………………忘れていた。だが上手くやっておく」
あの師匠の事だ。
俺が別の人に師事するとなったら、絶対駄々こねる。
だから聞いたのだが、返ってきたのは微妙な反応……心配になったが、これは多分どうする事も出来ないだろうから今は置くことしか出来なかった。
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