第22話:勧誘
彼女は王都に来ないかと誘ってきた。
その言葉を告げた時の瞳はいたって真剣で、一切の迷いがない。
「えっと、急に言われても困るんだけど」
「貴様は強い、だが孤児である以上色々制限があり、仕事も限られるはずだ。貴様が何を目指しているかは知らぬが、悪い話ではないはずだ。それに貴様が来ればリアも喜ぶ」
理由は分かった。
それに彼女は善意で今の言葉を言っている事も。
確かにこの世界結構身分差が激しくて、孤児というのは色々制限がある。
将来のことを考えれば大貴族である彼女に雇われることは、いいことだろう……だけど、俺はノアがここから離れるまで孤児院を出るつもりはない。
彼奴が学園に通うまでの時間は家族として一緒に過ごしたいという我が儘があったのだ。
「いい話だと思うよ、だけど今はいいかな?」
そう言い、納得させるために家族と今は離れてくないからと理由を伝えれば彼女は挑発的な笑みを浮かべてこう言った。
「気が変わるかも知らないぞ?」
「それはないでしょ」
この子凄い真っ直ぐだし、一度言った言葉は曲げなそう。
少し一緒にいただけだけど、あんなに真っ直ぐ戦って感謝を伝えてくる子がこう言う言葉を改める事はないと思う。
まぁ、それを言ったら諦め悪そうなんだけど。
「そうか、断るか。貴様はあまり欲がないのだな」
「いや、あるよ? 魔法とかはめっちゃ覚えたいし」
「それなら尚更来るといい、私の家には大図書館がある。魔法の書物も山程あるぞ」
「………………釣られないよ?」
今の言葉で一瞬揺らいだが、俺とノアの絆はその程度は破れない。
それに男が一度最後まで一緒に過ごすと決めたんだから曲げることはしたくない。
「ふ、そうか。確かに貴様は、私を初めて負かした男だ。その程度では釣れないか」
どうやら、揺れた心は見透かされなかったらしい、それはいいけど……なんか話がややこしい方向に向かってる気がするな。
「それに貴様はかなりの努力家であろう。不遇そしてハズレとされる創造魔法をあれほど使いこなす上に、そして体術も素晴らしい」
めっちゃ褒められ悪い気はしない。
だけど、俺は行かないと決めたのだ……どれだけいい条件を出されても今は断ると。
「本音をいえば私は貴様に勝ちたい。負けっぱなしは嫌なのだ。だから私に雇われて相手になってくれ」
「えぇ……もしかして仕事内容って」
「無論、私専属の家庭教師兼戦闘相手だが?」
「……あとでも無理かも」
「もう遅い、時間が経てばいいのだろう? 言質は取ったぞ」
――教訓、何か喋る前に一度ちゃんと考えよう。
俺前も師匠の弟子になるときに似たような事があったよね。
それから何も学んでないのかな? ……変な所で将来の道が舗装されている気がするけど、まあ悪い話ではないし道が増えるのはいいことだから前向きに行こう。
「で、いつから雇われてくれるんだ?」
「……最短で三ヶ月、ノアが学園に行くのがそのぐらいだかね」
「ノアというのは英雄候補か、そうかそういう話もリアはしていたな」
「よかったらノアに会う? 今頃勉強漬けで死にかけてると思うけど」
「そうだな、後にアルステラ学園に通う仲間として挨拶はしておきたい」
……まって聞き捨てならない言葉会ったんだけど、この子もあの学園に通うの?
でも,原作では彼女は学園にいなかった。
つまり、彼女が死ぬのは……ここ一年以内という事になる。そしてリアが冷たくなってしまうのは彼女が死んでからと言っていた。
どういう事件かは詳細には語られていなかったが、何かが起こるのは確実だろう。
「どうしたルクス、顔が青いぞ?」
「いや、なんでもない……そうだちょっとリアを呼んできてよ迷ってるかもしれないし」
「任された。だが私もあまり道は分からぬぞ?」
「それもそうだね、俺も行くよ」
今は考えないようにするためにリアを探しに二人で部屋を出たんだけど、案外近くに彼女はいた。
何が起こってたかといえば、孤児院の子供達にせがまれて魔法を見せていたらしい。彼女がいた広間には氷の華がいくつか咲いていて、家族の皆が綺麗だとはしゃいでいる。
「やっぱりリアの魔法は綺麗だね」
『アルカディア・ファンタジー』で氷雪と呼ばれる程に彼女は氷の攻撃魔法を得意としていた。
だが、それは今の彼女のイメージからは想像が出来ない。だって、彼女の魔法は誰かを傷つけたくないという思いで出来ているからだ。
原作で彼女がいたからこそ倒せたボスの存在を思い出すと、彼女には攻撃魔法を覚えて欲しいが、そのきっかけはセリナの死。
リアが親友を失うという、絶対に起こって欲しくない未来が必要なのだ。
「そうだな、私もそう思う。出来ればリアにはあのままでいて欲しい」
「本当に……そう思うよ」
俺は未来を知っている。
即ち彼女が死ぬことを知っている。
だけどさ、俺は裏ボスにならないと決めたのだ。その過程で原作も変えるとも。
俺は皆にはハッピーエンドを迎えて欲しいと思っている――だから俺は、彼女をセリナも救いたい。
リアの為ってのもあるけど、自分がこの世界で生き抜いたって胸を張るために、裏ボスルートを歩まないためにも。彼女を守って俺は未来を変えれるって証明したいのだ。
「ねえセリナ、もしもさ君が危険なときは俺が守るよ」
「急になんだ!?」
「いいや、なんでもないよ」
決意するためにそう言ったが、俺は不安が拭えなかった。
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