第21話:来訪の理由

 リリアさんのおかげで一先ず収集がつき、俺はセリナの視線を受けながらも孤児院に二人を案内した。

 孤児院に入った途端に俺の家族に囲まれる二人、大勢の子供に囲まれる経験が二人はなかったのか驚いていたが、比較的に女子が多いおかげかすぐに慣れたようだ。


「とりあえずようこそ俺達の孤児院へ……歓迎するよ二人とも」


 セリナとのファーストコンタクトが最悪とはいえ、一応は来てくれた客人だ。

 だからそれだけは行った方がいいだろう。

 それに、彼女が何でこの家に来たのかも気になる。

 ……理由を聞きたいからちゃんと話せればいいんだけど、さっきから視線が痛いんだよな。

 で、本当は客間で話したかったんだけど、リアに流されるままに俺の部屋で話す事になり、気付けば俺は二人を連れて自室にやってきていた。


「……ちょっと汚いけどごめんね」

 

 人を自分の部屋に呼ぶってのはあまりしないし、俺の部屋は本で埋まってる。

 だからこの部屋に、特に大貴族の少女二人を案内することはしたくなかったが、リアがどうしてもというのでこうなった。


 とりあえず、この孤児院の中にある椅子を借りて二人に座ってもらい、俺はベッドに腰掛けた。


「そういえばさ、どうして急にリアは遊びに来たの?」


 今回の来訪はあまりにも急なもの。

 理由が気になっていた俺はリアにそう聞いた。。

 すると彼女は少し言い淀みながらも、しっかり俺を見つめながら口を開き始める。


「手紙に書いたとおり、ルクス君の家族を見たかったのと……あとね、リリアさんに用事があるんだ」

「リリアさんに?」

「うん、お父様が手紙を渡してきてくれって」


 ……手紙?

 というかあの人とリリアさん交流あるの?

 あと態々手紙を渡しにリアを送るなんて、よっぽど大事な手紙なのか? だってあの人超過保護だし……一人で孤児院に送るなんて。

 

「あ、それなら早く渡してきた方がいいかも。今日リリアさん用事あるし」

「……そうなの? じゃあ、ちょっと行ってくるね。どこにいるかな?」

「多分この時間なら自分の部屋かな? 入り口の傍にあるけど案内しよっか?」

「大丈夫だよ。あ、そうだセリナちゃん。わたしは行ってくるけど、ちゃんとルクス君に謝ってね」


 それだけ伝えて部屋から出て行くリア。

 部屋には俺とセリナが残され、しばしの無言が続き……沈黙に耐えられなかった俺は一つ尋ねた。


「一つ聞きたいんだけどさ、セリナは何で来たの?」

 

 さっきの事も気になっていたけど、正直に言えば本題はこれだ。

 リア一人だけ来ると思っていたし、何より彼女は初対面。


 ……俺に会いに来た口ぶりだったけど、どうして急に来たのだろう? それに会った瞬間合図はくれたとはいえ、襲いかかってきたし。


「……前々から貴様の話をリアから聞いていてな、会ってみたかったので今回リアの護衛として一緒に来た」

「そうなんだ。でさ、どうして会った瞬間に勝負仕掛けたのかな」


 ――炎獅子、セリナ・イグニス。

 そんな二つ名を持っている彼女は、本編開始時点で故人である。

 性格的には本編のリア曰く友達思いの乙女であり、前世でいう所の少女漫画を好んで読んでいるとされていた人物。


 リアの過去語りで戦闘能力だけ明らかになってる人物で、聞く話によると龍を狩ったとかなんとか……。


 初見の印象だとノアとは違うバーサーカーなんだけど、そんな彼女が乙女だとは俺は思えない。名前が同じだし、別人だとは思わないが……ゲームとは性格が違うのだろうか?


「それはな、強いと聞いて戦いたかったのだ」

「……それだけ?」


 えぇ、そんな理由で俺襲われたの?

 まあ戦闘狂な子なら分かるけどさ……せめてもうちょっと知り合ってから戦おうよ、俺としては炎魔法の展開速度とか参考になったから感謝してるけど流石に驚いたし。


「あとは…………リアに相応しいか試したかった」

「え?」


 

 そんな理由? ……と、思ったが彼女はかなり友達思いな事を俺は知っている。

 それに俺は普通に接しているが、リアはグレイシス家の少女なのだ。

 下心を持って近付いてくる奴も多いだろうし、加えてあの容姿……確かに男の影があれば心配するだろう。特にセリナなら。

 過保護だとは思うが、命を懸けられる程の仲の相手に知らない奴がついたら心配するか。


「……だが、すまなかった。急に襲って」

「別にいいよ? 理由はなんとなく分かるしね」

 

 俺は苦笑いを浮かべながら俺はノアの事を思い返す。

 俺もあいつの事が心配だし、大事な奴に新しい友達? が出来たならちょっとは気になるから。

 まあ、襲うのは分からないけど……そこは彼女の個性だろう。


「そうなのか?」

「俺にも大切な家族がいるしね。気持ちは分かるよ」

「ありがとう……それと礼を忘れていた」

「……えっと、なんの礼?」


 心当たりはない。

 何度も言うが彼女とは初対面で、セリナからしてはリアから話を聞いているだけでの関係だ。まぁ、俺は原作知識で彼女の事を知っているが、それは例外なので置いておくとするが……。


「リアを助けてくれて本当にありがとう。私は知らない所で親友を失うところだった」


 椅子から立ち上がり頭を下げて感謝を伝えてくるセリナ。

 その様子に本当に大切に思っているんだなと分かったのだが、俺はすぐにでも止めて欲しかった。

 だって相手は大貴族の少女だ。

 頭を下げさせたなんて分かれば首が飛ぶ。


「頭上げてよ、偶然助けられただけだから」

「それでもだ。貴様の偶然が私を救ってくれた」

「分かっただから頭を上げて、受け取るからさ」

「あぁ、そうしてくれ」


 そうやって感謝を伝えられ、それを受け取った俺は少し気恥ずかしくなってしまいまた黙ってしまう。

 改めて思うが、この子は綺麗だ。


 それもリアとかリリアさんとは違うタイプの凜とした感じで初めて会うタイプである。というか今更だけど、二人きりなのやばい。

 普通に緊張してきた。


「……なぁ、ルクス。貴様王都に来て私に雇われないか?」


 そんな緊張していた俺に彼女はそう言い放ったのだ。

 

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