第20話:セリナ・イグニス
「わっちょ――まっ――て!」
「私の攻撃をそこまで避けるか!」
踏み込み、距離を詰めて放たれる拳の連打。
炎を纏ったその攻撃は当たれば大怪我するだろう。
だから極力当たらないように避けるのだけど、避けるほどに早くなっていくのが辛かった。
こっちはあまりの情報量に混乱している。
だから一旦整理したい……そう思うが、目の前の彼女は休ませてくれない。
「とにかく一旦落ち着いてくれない!?」
「なんでだ? 楽しもうじゃないか!」
「せめて自己紹介! 一回話し合おう!?」
とりあえず対話を試みよう。
一回落ち着いて話し合えばきっとなんとかなる――そんな淡い期待を込めて提案したんだけど……。
「したではないか! セリナ・イグニスと名乗ったであろう? ……それだけで不満なら、趣味でも語るか?」
「それでいこう、だから一旦拳を収め――」
「趣味は戦いと魔法鍛錬、以上だ!」
そのまま殴ってきやがったよこいつ。
全部今のところ避けてるけど、危なすぎる――こっち当たったら大火傷だぞ? 手加減してくれよ。
とりあえず、剣の腹で拳をいなしながらも俺はこの猛獣を落ち着かせるために頑張ることにした。
「悪く思わないでよ、氷縛!」
「氷魔法か! だがそれは悪手だぞ」
「いや、甘く見ない方がいいよ」
「む?」
人に対して使う魔法じゃないけど、俺が使える魔法で一番殺傷能力がないのを選び、俺は彼女の動きを止めることにした。
とりあえず炎属性使いであろう彼女には相性が悪いのは分かってるから、いつもの三倍以上の魔力を込めたし大丈夫であろう。
「私の炎でも溶けないか! 聞いたとおり強いな貴様」
「……とりあえず、落ち着いた?」
「いや、暖まってきたところだ――滾れ、烈火」
そう言い、詠唱魔法を使いより強力な炎を腕に纏うセリナ。
近付いてもいないのに空気が熱くなっていくのを感じ、魔法が完全に溶されたところで、俺は決めた。
「――それならバテるまで付き合ってあげるよ」
「ふっ望むところだ」
この子は見る限り……というか、この数分の戦闘で分かったけど感覚派の魔法使い。だから魔法の構築速度は俺より早いと思っていい。
分が悪いのは分かるし、使える魔法的に相性も悪いけど……それならそれでやりようはある。
「これで、どうだ! レオ・イグニス!」
原作でもあった炎の魔法。
後にノアの仲間になるこの子の弟の得意な魔法である炎の獅子が迫ってくるが俺はそれを氷縛を壁として使い防ぐ。
魔法同士が相殺し、氷が溶けたことでかなりの水蒸気が周りを包む。
それに身を隠し俺は彼女へと接近し――。
「何処だ?」
「後ろだよ、ちょっと暴れすぎ」
「むっ!?」
組技。
前世でもあった日本の格闘術。
彼女を押さえ込むつもりで俺は組み付いて、地面に一緒に倒れ込んだ。
「これで、負けを認めてくれると嬉しいな」
「…………ッ」
「何まだ負けを認めないつもり?」
ちょっと見づらいけど顔を見れば、なんか赤い気がするがそれを今は気にしてられない。だってこれ以上は草原に被害が及ぶし、何よりそろそろリア来るし。
「きさ、貴様ッ――離せ」
「じゃあ認める?」
「――分かった今回は私の負けでいいから離せ!」
「うん、じゃあ離すよ」
負けを認めてくれたことで俺は彼女を解放し、炎が解かれた事で戦意がなくなったことを感じた。よし、これでいいやと思ったのも束の間――俺は気付く。
目の前の彼女がめっちゃ涙目なことに……。
「――初めて、初めて異性に触られた」
「え、ちょっと?」
「しかも、押し倒された――それに負けたのも」
確かに地面に押さえつけたけど、それは君が仕掛けてきてそれしか手段がなかったからであって――ってそれより不味くない? この子今にでも爆発しそうなくらいに顔が真っ赤なんだけど。
「許さないぞ貴様、私の初めてを奪ってただで済むと思うな」
「誤解あるってその言い方!? やめよう俺の負けでいいからさ、泣くの止めて落ち着こう?」
「そんなの認めれるわけないだろうぶっ飛ばしてやる! もう一戦だ!」
拳を再び構え羞恥からか色々雑になっているセリナ。
そんな彼女にどうしていいか分からない俺は、慌てることしか出来ない。
どうしよう……これ収集つかないし、もう一回戦わないとこの子本気で泣きそうだし、何より女の子泣かせたってリリアさんにバレたら――。
「助けてノアぁ」
こういうのって君に起こるべき修羅場だよね?
そう思った俺は今頃部屋で勉強漬けの家族に助けを求めながらも泣きたくなっていた。だって君って原作でモテたし色々修羅場経験するよね? そういうのは君の役目だと思うんだ。だから変わって、出来れば早くというか来てよ。
「はっ――はぁ……セリナちゃん、はやい――よ」
だけどそんな場所には救世主が現れた。
息を切らしながら現れたのは水色の髪をした少女、よほど疲れているのか肩で息をする彼女は俺達を見て困惑したような顔をした。
「えぇ――どういう状況なの?」
「リアぁ、こいつが私の初めてを――」
「やめよう? それ誤解」
「……本当に何があったの?」
リアにまで冷たい目で見られるという珍事態まで起こり、この場にはカオスだけが展開された。その後俺はリアにする必要も無い言い訳をする事になり過去一胃を痛めたのであった。
そしてそれはリリアさんが騒ぎに気付いてやってくるまで続き、その間俺は生きた心地がしなかった。
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