第19話:出迎え

リアが遊びに来ると決まってから四日が経った。

 王都からこの村の距離を考えるとそろそろ着くだろうから、出迎える準備をしたかったのだけど……俺には今そんな余裕がなかった。


「新しい魔法を覚えろって……めっちゃ急に無茶な事頼むじゃん師匠」


 理由としては今は帰っている師匠からの課題。

 急に水晶で出来た小鳥を送ってきたかと思えばそれにメッセージを込めてきた。

 そこには次に会うときまでに魔法覚えてね……みたいなことが保存されており、やらなければ拗ねるだろうから俺は今頑張るしかなかったのだ。


「……といってもさ、俺の今の実力で再現できる前世のサブカル技あんまりないんだよなぁ」


 ここはシンプルにこの世界の既存の技を再現&改良して使ってもいいが、それじゃあつまらないと言われてやり直しを要求される可能性があるし……。

 改めて思うけどうちの師匠面倒くさいな。

 まあ慣れたし、成長に繋がるからいいけどさ……。


「でも、どうしよ。まったくイメージつかない」


 俺が今使える魔法は、風の魔法である風神弾と風渦、そしてそれを合わせた風神渦。あとは身体強化に氷縛……あとは簡単な火と雷を起こす魔法なんだけど――。

 

「そして俺がやってない属性は……水・木・地の三つと、使える気がしない魔の属性」


 水は氷が使えるようになったから頑張れば色々出来るだろうけど……水の魔法は自由すぎて形を作るのが大変だし、木と地は似たようで違うから難しい。


 それに魔属性は……あまりにも色が特殊らしく、聖より再現が難しくメルリ師匠でも苦労するって言ってた。

 それらを考えると……別の特殊魔法を元になんか作るしかないよなー。


「その場合の問題が、特殊魔法を知らなきゃいけないし……手詰まりだなこれ」


 もういいや、今日は迎えに行こう。

 早く行かないと来ちゃうし、大貴族の少女を待たせるとか後が怖い。


「ノアもリアが来るの楽しみにしてたし、今頃待ってるのかな?」


 ……いや、確か昨日ノアは鍛錬のしすぎで怒られて部屋にいるんだっけ?

 可哀想だけど、それについては俺も妥当だと思う。

 だって、最近のノアはいくら何でも強くなる為に頑張りすぎている。どういう心境の変化かは分からないけど、普通に心配なんだよな。


「この先の原作のことを考えると、いくら強くなっても足りないと思うから頑張ることはいいんだけど……」


 原作はアルステラ学園から始まり、最初にリアを仲間にして進んで行く。

 最初は学園に通う英雄候補だったノア(九歳)が学園で色々個性的な仲間と共に成長していき、十四になる頃に魔物の動きが活発になり、どんどん話が進んでいくって感じだったけど。


「俺のせいでノアとリアがもう出会ってる――」

 

 これの影響でどう原作が変わるか分からない。

 だけど、二人はもう友達だしその出会いが間違いだったとは言いたくない。

 それに、覚悟……とまではいかないけど、俺は裏ボスにならないって誓ったんだ。だから、原作を変える事は分かっていた。

 

「だから、これは今更だ」


 それに、出来るなら皆にはハッピーエンドを迎えて欲しい。

 その為なら俺はどこまでも頑張れる……それに、魔法を覚えるのは楽しいしね。少なくともこの世界で生きてるんだから楽しんで生きてみたい。


「ルクス、そろそろ来るんじゃないか?」


 改めて俺が決意を固めていると、部屋がノックされリリアさんが声をかけてきた。

 それを聞いて俺は立ち上がり、部屋を出て迎えに行くために草原に足を運ぶ、いつ来るかなと思いながら、暇な時間だったし魔法の練習をしていると……不意に誰かが声をかけてきたのだ。


「――貴様がルクス・アルカディアか?」

  

 何故か感じる熱と、少し低めの少女の声。

 振り返るとそこには紅い髪をした少女がいた。

 俺が今までイメージしていた紅色の髪より鮮やかな長髪を持った綺麗な少女。

 炎を感じさせる初めて見るタイプのその子に目を奪われながらも、俺はどうしてかこの紅髪に既視感があった事を思った。


「うん、俺がルクスだけど……君は?」


 それに違和感を覚えながらも、返事を返せばその子は獰猛な笑みを浮かべた。

 見つけたと言わんばかりの得物を見定める獅子の視線。

 そんな事を思ってしまい、体が一瞬震えてしまう。


「そうか。会いたかったぞ、ルクス」

「……なんで?」

「寝ても覚めても貴様の事を考えていた――あぁ、ようやく会えたのだな」


 ちょっと怖いこの子に震えながらもそう聞けば、より怖い返事が戻ってきた。

 初対面だよね? なんで、この子こんな事を言ってくるの? 

 まじで怖いんだけど、師匠の初対面との時と別種でかなり怖いんだけど……獰猛な笑みを浮かべて、笑う少女。


 それはあまりに恐ろしく、何を考えてるのか分からない。

 彼女に抱いたイメージ通りの情熱的な言葉を向けられるが、ときめき……とかじゃなくて恐怖しかない。


「じゃあ、始めようか構えるがいい」

「えっと何を?」

「そんなの――決まってるだろう? 貴様が持っている杖をだ」


 さっきから疑問しか浮かべてないけど仕方ないよね、だって何が起こってるのか分からないんだもん。というか何を始めるの? 杖を構えろってどういう事?


「我が名はセリナ・イグニス、さあ存分に戦おうか!」


 開始の合図はセリナと名乗った少女からの炎の拳。

 そしてその瞬間、頭に過る原作設定――イグニス家それは、ノアの仲間になる大貴族の少年の炎を冠する家名。


 そしてセリナという名は、故人のものであったと記憶してる。

 それも、リアの過去語りで登場した――彼女の大切な友人だったと。

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