第17話 チョコミントはおあずけ

 九月も半ばになると、あれだけうるさかった蝉の声もすっかり落ち着いてなんだか寂しい。



「はーやくー」



 先に部屋を出たあおいが駐車場から手を振ってくる。



「はいはい」



 部屋の鍵を閉めてアパートの階段を降りる。車の扉を開けるとむわっと熱気がただよってきた。蝉の声は落ち着いたが、まだまだ暑い。あおいは一瞬嫌そうに眉をひそめたが「お願いしまーす」と言って大人しく助手席に乗り込んだ。



「途中でコンビニ寄っていい?」

「いいよー。アイス買うの?」

「ああ。まだ食ってないやつがあるんだよ」



 そう、俺はまだコンビニアイスを制覇できていないのだ。今年の夏はこれでもかというほどコンビニに通ったが、まだチョコミントアイスだけ食べれていない。元々売り切れていることも多く、その上時期で仕入れを変えているのか、お盆過ぎからはめっきり見かけなくなってしまった。



 車を発進させてコンビニに向かう。涼しい店内に入りアイスコーナーに行くと、チョコミントアイスが一つだけ残っていた。



「お、やっと見つけ」

「俺これ!」



 二人で同時に手を伸ばし、はっと顔を見合わせる。



「え、けいちゃん、もしかして」

「ああそうか、確かにこうなるわな」



 あおいと一緒に来るということはあおいがチョコミントアイスを食べるということだ。思い返せば、そうやって食べ損ねることの方が多かった――最後の一つをあおいが買ってしまうこともあれば、あおいがチョコミントアイスを買うのでなんとなく別の物を選ぶこともあった。



「いいよ。けいちゃんにあげるよ」

「いや、まあ別に」



 思案する。ちらっとあおいに視線をやると、柔らかそうな整った唇が目に入った。



「いいや。あおいが食べて」

「えー、ほんとに?」

「いいのいいの。後でちゃんともらうから」



 あおいは首を傾げながらアイスを持ってレジに向かった。普通よりも何百倍も甘いであろうチョコミントアイスの味を想像しながら、俺はその後をついていく。



 足が軽い。つい鼻歌を歌ってしまう。我ながら浮かれているのが面白くて、自然と口元が緩んだ。





          <『チョコミントはおあずけ』 了>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

チョコミントはおあずけ 瀬名那奈世 @obobtf

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ