第6話
「私顧問なのに私顧問なのに私顧問なのに私顧問なのに私顧問なのに私顧問なのに私顧問なのに私顧問なのに私顧問なのに私顧問なのに私顧問なのに私顧問なのに私顧問なのに私顧問なのに私顧問なのに私顧問なのに私顧問なのに私顧問なのに私顧問なのに」
「みのりん恐いよ?」
私がコート上でぶつぶつ呟いていたら、山瀬さんが声を掛けてきた。
「誰のせいさ!?」
「今からでも止める?どうしても……とは、さすがに言えないや」
そう言ってくれる山瀬さんは残念そうであった。
ユニフォームは汗を吸ってビショビショである。
他のメンバーを見る。肩で息をして呼吸を整えているが私の事を期待の目で見ていたり、相手チームを見据えている。
その様子に私は呟くのを辞めた。
「い、嫌だけど。ホント、すっごい嫌だけど。けど、けど……10分だけだからね?
私、何もできないけど顧問だからね、チームの役に立つよ!」
その言葉に山瀬さんが抱きついた。
「ありがとう、みのりん!すごい助かるよ!」
「でもあだ名で呼ばないで先生って呼んで」
山瀬さんは私から離れると、意地悪そうな笑顔を浮かべる。
「だーめー、コートの上ではみのりんって呼ぶから」
「え、なにそれ!?」
「コートの上で声かけあう時はあだ名か、呼び捨て。OKみのりん?」
「う……わかったよ、その、山瀬?」
山瀬さんは私の呼びかけにニコリと笑う。
「あと、みのりんね。役割あるから」
「え?」
「動かなくていいの。でも一つだけ頼まれて。ボール渡されたら何も考えずゴールに投げて?」
「いやいや、ムリだって。届くかどうかも怪しいんだよ!」
「いいんだって。後はこっちで捌くから。それだけでも随分助かるんだよ。お願い?」
「っ……責任、取れないんだからね?」
「チームメイトに責任なんて求めないってば。でも挑戦してくれるのは嬉しい」
そう言うと山瀬さんは手をグーにして突き出してきた。
「今日はよろしく、みのりん?」
他のメンバーも軽く頷いてグーにした手を突き出す。
「こっちこそ、みんな」
それに私もグーにした手で答える。みんなと軽くコツンコツンと打ち合わせた。
ってまあ、私やっぱり何かするわけじゃないんだけどね?
ただひたすらコートの上で右往左往するのみ。
そもそも若い子たちの動きに付いて行けるはずもなく、人が行ったり来たりするのを見守りながらただひたすらぶつからないように避ける。
うちのチームメイト達は湯野の抜けた後も奮闘を続けて、今も一進一退を繰り返している。
けれどもリードしているのは相手チーム。私たちが同点に追いついたのは、残り時間が2分を切ったあたりだった。
「ここだ!みのりんに!」
チームメイトがボールを奪うと、山瀬が指示を飛ばす。
「みのりん!」
「わ!?」
バシッ
チームメイトからボールを受け取る。相手からしたらまったく意識の外だったのだろう、どフリーだ。
随分距離があるから届くかどうか怪しいけど、言われた通りにゴール目がけて力いっぱいボールを放り投げた!
「あ」
ボールは緩やかな弧を描くとゴールを大きく外れる軌道をとる。
私は落胆したが山瀬は歓喜の声をあげた。
「みのりん、上等っ!」
彼女は相手のゴール下に走り込むと着地点に跳び上がった。
もちろん、一人ではない。敵チームが一緒に跳び上がったがそれを背中でガードし、ボールをキャッチ。
そのまま空中で体を捩じると不安定な態勢でシュートを放つ。
スパン
ボールは気持ちの良い音を立ててゴールの輪を通過した。
ようやく、逆転できた!
残り時間は30秒もない。これはもう勝ち決定じゃない?
「やったね山瀬!」
と、嬉しくなって声を掛けたら
私の横を風が通り抜けた。
パンッ
顔を横に向けたら私の隣りに一人の、小柄な女の子が立っていた。手にはボール。目線はゴール。
一連の動きに澱みのない、綺麗なフォームでシュートを放った。私の不格好な両手投げとは全然違う。
全身のバネと腕の力で放たれたボール。
試合終了のブザーが鳴った。
スパッ
それは綺麗な弧を描いてゴールに吸い込まれていった。
その子は言った。
「ナイスファイトだったよ、先生」
監督のつもりが選手登録された dede @dede2
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