隙間風

 「寒……」


 朝目覚めて冬の洗礼を受ける中、ふと思う。扉、ちゃんと閉めたはずだが……


 まあ建て付けが悪いのか少し開いてる日もあるか、目に見える範囲は気になるが昨日は疲れてあまり覚えてないしな……


 布団から出るのが億劫な朝、閉まりきってない扉を言い訳に身体を起こす。このまま準備をしようか。まだ早いが二度寝の誘惑に負けてしまうわけにはいかない。俺は無遅刻無欠席の模範的な学生なんだ。


 いつもの如く朝食の準備諸々を早めに済ませて本でも読もうか、なんてことを考えながら本棚を物色していると頬に一筋の風が吹く。


「む、ここもか」


 本棚近く、押入れの扉も閉まり切っていない。なんたる体たらく。気になるじゃあないか。まあ古い家だしな。戸締り戸締り……押入れの扉に手をかけると何かと目があった。押入れに、目かぁ……。


 「嫌なものを見た。いや、気のせいだ。気のせいということにしよう」


 言葉とは裏腹にやはり気になる。手が勝手に押し入れを開いていた。


「何もいない、な」


 小動物でも迷い込んだかと田舎あるあるを言い訳にしようとしたがこれは──良くない。


 見なかったこと、忘れることにして朝の支度をするがどうも気になる。早起きして時間も余裕あるしなぁ。


 朝食を手早く済ませ、ひとまず水に漬けておく。洗い物の時間を考慮してタイムリミットだ。その間だけ付き合ってやろう──


 家の中を歩き回る。はて、朝起きて窓が閉まり切ってない。ここまで不用心でガサツだっただろうか。


 スッと風が通る感触を頼りに、勢いよく窓を開け手を伸ばす。捕まえた。


「久しぶりだな、冬の風物詩。暇か?」


 一つ目と大きな口、アンバランスな手足、毎年お目にかかるな。


 隙間風。クローゼット、押入れ、窓、扉の下、あらゆる隙間から吹き込む冷気。よくある話だが、冬限定でコイツが悪さをすることもある。覗き目。隙間を作り、冷たい息を吹き入れる。寒さには更なる寒さを、か。


「冷たい風をくれるなら夏に来てくれよな。冬眠とかしないのか?」


 困った顔をする。目と口だけのパーツでそんなに困った顔をするな。こっちが困る。


「隙間風はまあ、あることだから責めはしないが。窓を開けるのはやりすぎだ。いつの間にそんな器用になったのやら。人類代表として言うが、閉鎖空間を開放するのは非常に、良くない。在るところに在るだけにしておけ」


 窓枠に目線を合わせて俺は何をやっているんだ。と言うかコイツ、耳はあるのか。聞こえてなかったらとんだ道化だが──


 ピシャッ!と窓を閉められた。聞こえてるじゃないか。物理的に力があるのも珍しいなぁ……



 言葉が通じたかどうかはともかく、窓を閉めただけ意図は理解しているのだろう。さて、朝から疲れたし珈琲でも……飲む時間は、ないか。


 洗い物を念入りに。溜めると良くないからな。スッキリした気持ちで1日に臨めるものだ。


 さて学校に行こうと家の扉を開け、冬の朝という試練を乗り越えよう。


 目の前に紙が舞う。なんの変哲もないメモ用紙だ。拾い上げるとそこには──


「読めないがまあ、たまにはな、たまにだぞ」


 いつもの一日を少し気持ちよく始めることができそうだ。

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早乙女皐月の日常 @harapekopannakotta

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