ちょっと大人バージョン
ロッカーに放置された為、いつしかバットの存在を忘れていた。プロ野球のシーズンは終わり、伊藤もピッチングフォームを披露することが無くなった。
外は雪の舞うほど寒くなり、昼休みのサッカーは体温を上げる為に変わらず行われていた。
夏冬はいいぞ。あまりに暑くとも寒くても女子が室内でお弁当を食べるから駐輪場は使いたい放題だ。自転車をてきとうにどけてミニゲームが出来る。
面々は吹奏楽部ではなく、心はサッカー部だった。顧問が設定した一時間の後の十五分の準備時間もしっかりサッカーに費やした。
汗をかいた男子に女子は嫌な顔をしたが、昼からは大人のいないところであのシュートは良かったと互いのプレイを褒めることも少なくはない。
互いをリスペクトして高め合う大切なことだ。でもほとんどの王者部員はモテない。そこだけがそれぞれに納得がいかない。いくらプレイを褒めても、サッカーボールの整備をしてもモテない。
どんなにクールなプレイをしても、ボレーシュートをきめてもモテない。面々はなぜモテないのかを真摯に考え、もしかして楽器を練習すればモテるのかと考えに至った者がいた。
それを他の面々に進言したら、モテない男子は冷たく「そんなことは分かってる。向こうにつくなら明日からサッカーに来るな」と言い、足抜けをさせなかった。
抜けたいけど抜けたくない。そんなジレンマはサッカーに熱中し出すといつの間にか無くなり、サッカーは最高と脳内に刷り込まれる。
大掃除の日、スペースからバットが出てきた。男子が集まり夏を懐かしがった。それぞれがどんな思いで開発し苦難の道を越えてきたのかを思い出し、これは後世に残すべき遺産と合意をした。
バットの隠し方を考えないといけない。あまりに簡単なところに直すと顧問に見つかる。そうなったら、
そうだ。これを開発する要因となった伊藤に隠させよう。伊藤がどうしようと考えていたある日。
「おい、イトーなにしとん」
目の前にサックスの三年の
「あのバットの隠し場所を」
「ゴミか?」
「これは俺たちの努力の結晶で」
「今、使う?」
「いえ」
「貸してもらうで」
井川の言葉に伊藤はバットを渡してしまった。これは先輩方に申し訳ないことをしたのではと深く反省をしたが、渡してしまったものは仕方ない。
サックスの練習室にモテない方の男子がたむろしだしたのは取り上げられた一週間後だった。
最初はおもちゃとして使っていたサックスの先輩方はサックス唯一の男子部員高橋先輩の背後に近寄り股間のゴルフボールをバットという名のドライバーで振り上げた。
あまりの痛さに崩れ落ちていく高橋先輩、楽しそうに笑う井川先輩。その姿に新たな癖を開発されたモテない方の男子部員。
「お前ら何してるん?」
井川先輩に言われて、チラチラバットを見ながら「高橋に用事があって」と、言い訳をこぼす部員。
「お前、足広げろ」
「は、はい」
一年の石原だった。
みんなの目はお前ずるいという視線、体に力が入る石原。
「えいっ」
悶絶する石原。一日に二人。どんどん変態さが増していく男子部員。サッカーなんてどうでもいい。
一度受けてみたい。そう思っていたゴルフはある時終わりを告げた。
顧問が練習室に抜き打ち検査でやってきて、バットを取り上げてサックスパートが指導された。
バットはバットとして作ったから
バットは処分され、男子部員はサッカーに戻った。
バットはティングボンゴウと名付けられ、伝説となった。
※ティング=男性のスティックとボールを殴り続ける。
※ボンゴウ=こん棒。
ティングボンゴウ-選ばれし王者の杖- ハナビシトモエ @sikasann
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