第18話 二つの杖
「あー、彼らは怪しい者では無くて」
胡散臭さナンバーワンの史部さんが弁明を始める。
「私の仲間で」
「我らの聖地に勝手に入り込んでいるなど言語道断! 命をもって償わせてやる」
「待て!」
落ち込んでいても、フィリウス王子は優秀な指揮官だった。
「待て。彼らが何者かはこれから答えてもらうとして、彼等がいなければ我らは死んでいた。まずは礼を言いたい 」
そう言って「ありがとう」と頭を下げた。
「女性もいらっしゃるのですか? こんなに過酷な任務に」
鏡子さんと柊さんに目を向けると、驚きと労いの表情を見せた。
おお、紳士だ! 凄え格好いい。
「ご配慮ありがとうございます。でも、私達は特殊な訓練を受けていますので大丈夫です。それに、彼女は治療に長けていますし」
鏡子さんの言葉に柊さんが力強く頷いたので、王子も納得したようだった。
「確かに。あんな術は見たことがありません。その上、我々に気配を感じさせずにここまで来るなんて。皆さん、お二人の仲間なのですね」
史部さんと一緒にうんうんと肯定するも、副官以下戦士達の切っ先はそのまま動かない。
「お疑いはごもっともですが、我々はあなた方の敵ではありません。それより、急がなくては。五日後の聖誕祭までに
鏡子さんはそう言うと、片膝付いて恭順の姿勢を見せる。俺達も続いて頭を垂れた。
名付けて『詳しいことはうやむやにしよう作戦』ってところかな。
「そんな言葉では騙されないぞ」
ごもっともで······
「わかった」
え!
副官は不満そうだけど、フィリウス王子の合図で剣を収めた。
うわぁ! フィリウス王子ってお人好し。
王族で戦士なのに、こんなに真っ直ぐな性格で、良く今まで生き残ってこれたな。
でも、そこでふとアイレス王を思い出した。
いや、反対か。
この性格だから生き残ってこれたんだな。
でなければ、とっくに粛清されていたはず。アイレス王は抜け目無さそうだもんね。
「今は無用な争いは避けなければ。それに難問の答えがわからない。
「恐れながら申し上げます。我らは始めて
「ああ、生贄の儀式の際には、大抵、彼女は影から覗き見ていた。その姿が何とも言えず美しくて悲しげで······」
副官に答えたフィリウス王子。またもや頬を紅潮させ瞳が潤み始める。
「流石。フィリウス王子様は違う」
戦士達は勝手に盛り上がっているけど、肝心のプレゼントに関しては、誰も良い案が浮かばないようだ。
まあ、そうだよね。
命以上の価値あるものなんてみんな持ってないし、わかんないよね。俺も全然わかんないよ。
なんで
何か意図があるんだろうな。それが分かればいいんだけど······
「史部さん、何か歴史として遺されている物は無いんですか?」
コソッと尋ねるも渋い顔をしている。
歴史オタクの史部さんでもわからないのか。前途多難だね。
あ、『パイロエレフの杖』なら交換価値が高いはず! でも、抱えた遺体は未だ見つからず、情報も特に無しだったな。
結局振り出しか。
いや、ここで見つければ一石二鳥じゃん!
よし、彼らにもリサーチだ。
「あの······フィリウスおう」
「ああ、どうしたら彼女に伝わるんだ!
俺の気持ち、どうしたら信じてもらえる」
あ? そっち。
てっきり、角を貰うにはどうしたら良いか、必死に考えているのかと思ったのに。
この王子、恋愛モードになるとポンコツに拍車がかかるな。
「あの、フィリウス王子。この国に伝わる伝説の宝物みたいな物って、ありますか?」
「伝説の宝物」
「はい。青龍が欲しい物って、そんなスペシャルレアな宝物じゃないのかな~と」
「ス、スペシャルレアな宝物······」
フィリウス王子の顔がますます赤くなる。
んーー? 様子が変だぞ。
「そ、そう言う意味なのか? それは私も望むところだが」
「?」
屈強な筋肉まで赤くして悶えている。
史部さんが後ろで「ふっ」と笑った。
「飛鳥君、言うねぇ」
「え、俺何かやらかしましたか?」
焦って尋ねると、クツクツと笑いながらチョーカーを指差す。
「風花と天華のヤツ。欲求不満か」
「???」
ますます意味が分からなくて見上げれば「『スペシャルレアな宝物』の変換、『男のシンボル』ってなってるんだよ」と囁かれた。
「!」
え、何それ、そんなつもりじゃないのに。
すっかり失念していたよ。俺達がサルファロスの民と普通に会話できているのは、風花さんと天華さんの作ってくれたチョーカーとイヤフォンに仕込まれた翻訳魔法のお陰。
その中味を信用しすぎていた······
史部さんはサルファロス語も学んでいたんだね。だから違いに気づけたのかな。
うお、あっぶねぇ。
「えっと、フィリウス王子。俺が言いたかったのは伝説の方で」
「いや、そんなのは当たり前過ぎて贈り物とは言えない。もっともっと価値のある物でなければ」
ふうーっ。なんか自己完結してくれて、とりあえず軌道が戻ったみたいで良かった。これ以上の発言は控えよう。
「価値って、誰にとっての価値ですか?」
珍しく柊さんが声を上げた。
「それはもちろん、
「そう、そうですよね。良かった」
心から安堵したような微笑みは、まさに巫女。慈愛に満ちている。神である青龍の気持ちを第一に思いやる姿勢も流石巫女。
毒味して恍惚としていた女性と同一人物とは思えないな。
「青龍様は、その巨大なお力故に、きっと孤独なんですよ。だからずーっとそばにいるって、言ってくれるのを待ってると思うんです」
あれぇ? また恋愛モードになっちゃうよ。ポンコツ王子に引き戻しちゃ駄目ですよ、柊さん。
「そ、それはつまり」
「はい。プロポーズです。結婚の証です! 病める時も健やかなる時も、青龍に寄り添う誓いの品です」
これ、柊さんの本心なのかな。神様のお嫁さんになりたいとか、結婚して巫女やめたいとか。
でも、神と人の結婚って······あ、神話とかにいっぱいあるか。
何を隠そう、
そうか! 神と人の結婚話って、珍しくも無いんだね。
そして、これは新たな権力の誕生を意味する。サイファロス国が王国となるために、手っ取り早いのは、神との結婚伝説だ。
あれ、でもそうすると青龍の結婚相手はアイレス王にならないと意味ないのかな。
そう言えば、現世のカルナ国には一角龍の角でできたと言われている、神器『ユニオピスの杖』があったな。
一角龍の角!
それって、
そう仮定すれば、歴史的には、青龍は自分の角をアイレス王に差し出したことになる。
フィリウス王子の贈り物の対価として。
もしも、贈り物が『パイロエレフの杖』だとしたら······
火葬骨の人物は、目の前のフィリウス王子かもしれないんだ!
レリック・ハンター 考古学資料室の裏稼業 涼月 @piyotama
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