この世は舞台、人はみな役者
落合君が作ったパラパラの炒飯を食べ終わり、少し休憩しているとソウマが話しかけてきた。
「……これからキミはどうするの?」
「………………わからない。とりあえず、死ぬ前にできなかったことをやろうと思ってる」
「死ぬ前に、できなかったこと?」
「誰かの苦しみに寄り添える作品を作るんだ」
といっても、具体的な案はぼんやりとしていて、完成するのは相当先になるだろう。
「……あー、ならさ!あの劇の続編を考えたら?」
「あの劇って……もしかして、人形がやってたやつか?」
たしか、ソウマとヒナタの2人が作った劇。
全てを見たわけではないが、悲惨な終わり方をしたのは覚えている。
「あれはね、ヒナタの記憶を参考にして作ったものなんだ」
「あー!だから浴槽で死んだことをお揃いって……」
何かの冗談だと思っていたが、まさか本当のことを言っているとは思わなかった。
だとすると、ヒナタは本当に苦しい人生を送ったんだな……。
「でも!この劇、ヒナタの人生を忠実に作りすぎて、何かが足りないんだよ……」
初めて見た時、俺も同じことを思った。あの劇には、何かが足りていない。
フィクションの話だと思っていたから、どこか物足りなさはあった。
けれど、ノンフィクションの人生なら納得できる。
「なら、ヒナタに
「幸せな結末って言われても……例えば、どんなのがあるのさ?」
「え?そうだな……死後の世界では両親と別れることはなく、幸せに過ごした。とか?」
「ここに迷い込むんじゃなくて、別の世界で……か。まぁ悪くはなさそうだね」
「それか俺たちも登場させて、幸せな生活を送る話とかは……どう?」
ソウマは驚いた顔で、こちらを見ている。
「……なんだよ、豆鉄砲でも食らったか?」
「う、ううん。なんでもない。ただ、キミが思ったより乗り気で驚いてるんだよ」
「なんだそれ。提案したのはソウマだろ?」
どんどんと、着想が湧いてくる。
「落合君や俺の話もいれよう!生前の記憶を糧にして、後悔や苦しみを――」
「そんなにやる気なら、キミに任せるよ。でもそうだな……」
ソウマはしばらく唸り、ハッと閃いた顔をした。
どうやら面白いことを思いついたようだ。
「……せっかくなら、キミ視点の話にしてみたらどうだい?」
「…………俺視点?」
「そう!ボクと出会った時から、その作品を作るまでの話!」
確かに、俺の経験してきたことや感じたことを書くだけなら、面白く書けるかもしれない。
けど……
「そしたら、キミの優しさも伝わって、誰かのためになるかもしれない」
「でも、そしたらあの劇の続編じゃ――」
「いや、十分続編さ。だって、成長したヒナタも出てくるし、それに……」
「……それに?」
「主人公が変わるって、なんだか続編らしいと思わない!?」
確かに、前作の主人公が大人になって次の世代が出てくるのは、続編らしいが……。
「まぁまぁ、気楽に考えてみてよ。時間はたっぷりあるからさ!」
「わかった。皆が喜ぶような、幸せな結末を用意するから待っててくれ」
「じゃあボクは、ちょっと席を外すから。また後で見にくるよ〜」
そういうとソウマは満面の笑みを浮かべ、手を振りながら外へ出て行った。
誰もいなくなった空間で幸せになれる物語を考える。
1人になった時に感じていた寒気は、もうしない。
*
題名はそうだな……
死んだ後の世界で生きている話だから、『召されたまま』にしよう。
落合君には、安心できる居場所を。
ソウマには、同じ志を持った仲間を。
ヒナタには、これから先の未来を。
そして、これからやってくるみんなにも幸せな結末を。
それが俺の役割。俺がここにいる理由だと思う。
ここからずっと出ようと思っていたが、今はこの物語を作らないと。
そして完成したら、物語の主役を演じ、観客による鳴り止まない拍手を浴びる。
それで俺は、報われるだろうか。いや、報われてくれないと困る。
「……よし。この物語が、誰かのためになれば…………いいな」
完
召されたまま のなめ @noname118
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