終章

甲亜といとのことを伴俐たちに任せ、乙也は街のある店に向かった。

街の路地裏を伝って、甲亜たちが酒場メロス訪ねるとガイは無言で甲亜を抱きしめた。甲亜が気恥ずかしくなって痛い、と呟いてもしばらくそのままだった。

それからガイに護衛されながら軍の寮まで帰った。途中五つか六つの少年少女たちに勘ぐられたが懸念するほどのことではなかった。

乙也は小さな薬師の店に立ち寄った。

馬の縄を近くの柱に括り付け、店の扉のノブにそっと手をかける。そこには前のように幾つもの薬草とそれが入った瓶が並んでいるのだ。いつものように彼が笑いかけてくれる。

少ない唾を飲み込んでから、乙也は戸を開けた。

草木が乾燥した独特の匂い。人の手によって調合された薬の香り。

すり鉢で砕かれている薬草の音。

乙也の心の隙に、いつの間にか入っている優しい声。

「やあ、乙也。君は本当に突然来るね。」

十守は長い白い髪を普段通り一つに束ねて、片眼鏡をし、薄めのカーディガンを羽織ってカウンターに座り込み薬を調合していた。

「しかしそろそろ、来るんじゃないかとも思っていた。」

ああ。乙也は眉間に皺を寄せて目も瞑った。

全てが嘘ならいいと思った。

いとが彼の名前を知っていたことも、水岐との関わりが軍を辞めた後もありそれが私的なものだけでなかったということも。

乙也には全て想像がついていた。根拠がなければ彼の心は楽になる。しかしそうではない。

いとと水岐の言葉が全てを表している。

「訊きたいことがありまして。」

「何かな。薬のこと?軍内部のトラブル?イオフィピネルのことか…ああいやそれとも…」

耳を塞ぎたかった。店の裏で、何かが横切るのが一瞬だけ見えた。

以前も居た、店の手伝いをしている少年だった。そしてその一瞬で、僅かの時間で少年の顔に、

少年の顔に鱗が規則正しい向きで、綺麗に浮かんでいるのを乙也は見た。

ああ。やはり、

「それとも、獣人の作り方かな?」

やはりこの人物こそが獣人を作り、それを利用し世界の基盤に手をつけている人間なのだ。

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甲亜 亀屋モナカ @kameyamonaka

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