ビートルナイト

素良碧

第1話 地の底から

宇宙には無数の星がある。

幾千の小さな星が集まり、やがて大きな大きな銀河となる。

その銀河の片隅の小さな青い星。

その名前を地球と呼ばれた。


その場所で。

遥かな昔。

地の底より異形の軍勢が現れた。

その異形、地球に住む人々を襲う。

人類、為す術なく滅びゆくものかと思われた。


しかし。

そこに勇者が現れた。

勇者は神より授かりしその力で、異形の軍勢を倒してゆき。

地の底に封印をした。

こうして地球に平和が訪れたのであった。


だがこの伝説を知っているのは自分だけだ。

なぜか他の人たちはこの話を知らない。

それどころかその歴史がなかったことになっている。

一体これはどういうことだろう。

このままではまずいなあ…。

封印が破られるのは今年だというのに。

全滅待ったなしだあ…。




地球。地の国ソコヤミ。

首都ゴクナカ。

辺り一体全てが闇しかないこの国。

あるのはガヤガヤと人の声のみ。

2つの灯りが灯された。

わずかな光のそばにいるのは、2人の人影。

体のあちらこちらが傷だらけ。

一方は腕から黒光りの鋭い爪が出ており。

一方は頭から触覚が出ており。


「全員休めー!」


と怒鳴り声が響き、辺りは静まり返った。


「皆さん、今から大事な大事な話をします」

触覚が出ている者が懐から出したのは。


「これがなにか分かりますか?」


「「「「「ブッコロー!!!」」」」」


人間の顔の写真だった。


「ついに封印が破れ、地上へ繋がる道が開かれる。地上には数多の人間がいる。よいか。男女老人子ども、たとえ赤子であろうと人間ならば殺すのだ!」


「草は根まで抜かないと再び生えてきます。いいですか、一匹でも逃してしまったら奴らは何をしでかすのか分かりません。必ず手や足、頭といった弱点の部分を攻撃するのですよ」


「「「「ブッコロー!!!」」」」


「ダン・ムギ・ロー。前に出てこい」


黒光りの者によって、呼び出されたダン・ムギ・ロー。

この者も同じように腕に黒光り鋭い爪があり。

背中に大きな亀のような甲羅を背負っている。


「お前を人間殲滅作戦の攻撃行動隊長とする」

「ありがたき幸せです。必ず人間たち全員を殺してみせましょう。この体が朽ち果てようとも!」

「うむ、見事な心意気である!」


まわりから拍手喝采が巻き起こる。


「そうだ、1つ渡すものがあります」


触覚の者がまたもや懐から取り出し、それをダン・

ムギ・ローに渡す。

黒くてネバネバしたものであった。


「いいですか、もしなにかあればこれを食べなさい。あなたに特別な力を授けるでしょう」



「これより地上へと侵攻をし、地上にいる全ての人間を殺しに行くのだ。たとえ命尽きようとも一匹でも多くの人間を討ち取れ!」


「「「「ブッコロー!!!」」」」




人の声がなくなり、残っているのは2人の影。

黒光りと触覚の者であった。


「…ついにこの時がきたか」


しわがられた声が現れる。

それは明らかに2人の声ではなかった。

地上へと侵攻する部隊を見送っていた2人は、声のする方へ振り向く。


「「王、なぜここに?」」


「儂が来たことがおかしいか?」


「いえ、滅相もございません」

黒光りの者はあわてて訂正をする。

一度深呼吸をして、再度発言をする。


「改めてまして、なぜここにあなたが。体調が悪いのでは?」

「…体調が少しばかり良くなったのでは。見に来た」

「もしなにかあった時どうするのですか?」

「そん時はそん時じゃ。どうにでよくなれじゃ」

「そんな適当な…」

「そんな事はどうでもいい」


王は触覚の者へと視線をうつす。

触覚の者、視線を移されてどっきり。


「殲滅できるか?」

「まあこの戦力なら大丈夫かと。ですが相手は人間ですからね。どんな事をしてくるか」

「それで我らは敗けたのだ。人間を見くびっていた。だが今度はそうはいかんぞ。同じことを繰り返してはならん」

「はい、そのためにも色々としてきましたから…」


王は白い光が差す道を見る。

それは地上へと続く道。


「人間どもよ、待っていろ。必ず地上へと参るぞ」




やれやれ、これは困ったことになってしまった。

さてどうしたものか。

いずれにせよ、黙って見守ることにしよう。

生きるか、死ぬか。

いつだってそれを決めるのは強い者だけだから。

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ビートルナイト 素良碧 @adgjm1

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