また、一から

零音リオリア

   

誰かが声をかけてくる。


「おやおや、目が覚めたんだね。」


瞼を開けると、そこは様々な色の本が散乱したほかは真っ白な世界。

僕は真っ白な椅子に座っていた。


「ここは…」

「お忘れかい?残念だなぁ。」


声の方を向くと、白髪の女性が立っていた。

服装は第二次世界大戦の軍服のような服装で、

ドイツ将校がかぶっていそうな帽子をかぶっている。


「ここはキミが創り出した空間だというのに、全く残念だよ。」


そう言って、彼女は目の前の、これまた真っ白な椅子に座る。


「さぁ聞かせてよ。」

「聞かせてとは?」

「あちゃ~、これでも思い出さないのか。」


そう言うと彼女はめんどくさそうに立ち上がる。

こちらに歩み寄ってきたと思ったら、ぐいっと僕の顔を覗き込む。


「ほんとに思い出さないのかい?」


真紅と蒼の瞳がじっと僕を見つめる。

その蛇のような瞳に僕は吸い込まれそうになる。


「なにも…」

「はぁ…全く…いったいどうしてしまったんだい?」


彼女はそう溜息をつくと、また椅子に座りなおす。


「それじゃあ特別に教えてあげよう。

ここに転がっている本はすべて君が作り上げた物語だよ。」

「僕が?」

「あぁ、その時の記憶は抜け落ちてしまっているようだけどね。」


残念そうな表情で彼女は語る。


「私は君が話してくれたことをアイデアにする。そしてそれを君が物語に仕立て上げていた。ここはそのための空間。」

「は、はぁ…」

「まぁ思い出すまでゆっくりしていけばいいさ。」


そう言って彼女はどこからともなく出したティーカップを僕に差し出す。

ティーカップには僕の好きな紅茶が注がれていた。


「さすがに自分の好きなものは覚えているようだね。」

「さすがに忘れないよ。」

「私のことは忘れているのに?」

「…現状君は僕にとって赤の他人だよ。」

「…それもそうだね。」


そしてまた静寂が訪れる。

僕は嫌気がさして、落ちていた本を取る。

ちょっと愛が重い幼馴染との物語。


「…下手くそだね。」

「そうだね。実際昔の君も同じことを言っていたよ。感性は同じなんだね。」


続いて、机の上に置いてある本を手に取る。

異種族の女性との恋愛物語だった。


「これは上手だね、ヒロインの性格の作りこみがとても丁寧だ。」

「…昔の君に言ってやりたいよ。」


僕は次々と散らばっている本を読んでいく。


「どうだい?何か思い出したかい?」


紅茶を飲み干した彼女がそう聞いてくる。


「いや、何も…」

「だめかぁ…」

「…でも、想いをつなぐことはできそうだよ。」

「と、いうと?」

「もう一度、一から物語を書くんだ。」

「…はは、全く記憶をなくしても君は君だね。」


そう言うと彼女の姿は軍服からいつの間にか、制服姿に変わっていた。

どこか表情も柔らかくなっている。


「さて、じゃあ聞かせてよ。君が歩んだ物語を」

「そうだね、それじゃあ…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

また、一から 零音リオリア @rioria7475

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る