まぜこぜの色
高黄森哉
まぜこぜの色
さて、ここに新入生がいる。 彼女の心の色はグレーだ。だから、話しかけられないでいる。誰かと会話があっても、どこか上の空で、つかみどころのない感じ。そういう人なんだろう。
彼女は、窓の外を眺めている。アンニュイな感じで眺めている。机にはカフェオレと、スマートフォンを置いて、耳に無線のイヤフォンを挿して、クラスからそっぽを向いて、窓の外を眺めている。
白の制服はまだ以前のもので、デザインが僕たちとは全く違っている。本当は、制服を持っているのかもしれないけれど、あえて、孤高を選んでいるのかもしれない。彼女は一人でいたいのだろう。
本当にそうなのかな。
心にある灰色の色彩は、どうやって出来たのだろう。生まれたときから、灰色な人間なんていない。人間は必ず、彩度を持って生まれてくる。例えば、僕の心は薄緑だ。生まれつきこうなのである。
生まれつき薄緑で、だから落ち着いていて、そして穏やかなのだ。もし黄色ならば活発で、赤色ならば野心的で、紫はやや感情的、ピンクは曖昧、空色は甘ったるく、ミントグリーンはドライ。
そうでない彼女の色は、後天的な変化によるものである。そして、おそらくそれは、引っ越しに関連するのだろう。それは果たして、いい変身なのだろうか。空を眺める彼女の表情は、憂鬱に、澄ましているようだ。
人の色は感情によって変わる。悲しいことを経験すると、明度が下がったりする。ただし、明度がどれだけ下がっても、元の色が消えることはない。元の色が消えて見えるほど明度は低くなりうるが、灰色なので、該当しない。
では、経験はどうだろう。経験によって、色相が変わることはありうる。例えば、黄色から赤とか、赤から緑とか。隣のクラスの山田は、赤だったのだが、高校デビュー時に青色へと変化した。
しかし、灰色は色相にはない。色相の延長線上ではないのだ。灰色を作るには、彩度を最低にしてから、明度を調整する必要がある。だから、どの色でも、灰色は作れると言える。彼女はもともと、どんな色だったのだろう。
もしかしたら。
僕はもう一つ、色を変化させる外的要因に思い至った。それは、人と触れ合うことだ。僕は、たいてい、同じ色彩の人としか交流しないから、生まれたままの色なのけども、オレンジの人と交流すると抹茶色になる場合がある。色は混ざる。
でもこれは、結構、深い関係でのみ生じる反応で、その交流は友達同士のそれとは、質も量も違い過ぎる。だけど、灰色を作り出すには、その方法しかないのである。どれだけの色を混ぜれば、灰色になるのだろう。
全部だ。
全部の色を混ぜればようやく、心の場合、白になる。そして、白からちょっと憂鬱になって灰色になるのだ。なら、彼女は今は素っ気ないが、本来は、社交的な人間だったのだろう。
一見すると孤独な色。皆も、彼女に、そういう評価である。だけど、実に豊かな色彩だと、僕は気が付いた。孤独の対極にある色合いだ。だから、勇気を出して、話しかけてみようと思う。
あの制服が、僕たちと同じに変わる日。
まぜこぜの色 高黄森哉 @kamikawa2001
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます