天使の化石

藤泉都理

天使の化石




 人間の歴史より前の生き物の遺骸や生活の痕跡などが地層中に保存されたものを化石と呼ぶのであって、必ずしも石(鉱物)と化している必要はないらしい。

 例えば、冷凍マンモスの骨や毛も、化石と呼ぶのだそうだ。


 福井県立恐竜博物館のホームページ、恐竜・古生物 Q&A「化石ってなに?冷凍マンモスは化石なの?」の頁より参照。











「………何だこれ?」


 地獄の修羅道にて。

 痛めつけるだけが罰ではない、癒しとなる植物に触れて己の罪と向かい合うのも罰である。

 新しい閻魔大王による大革命が行われて、鬼たちがてんやわんやで、癒し区画に認定された膨大な土地の硬い地面を耕す中。

 せっせと石を運んでいた一本角の青の小鬼は、発見したのだ。

 透き通るような空色の羽を。

 地獄に唯一居る地獄鳥はどす黒い紅の羽であるし、とても硬く重たかったが、この透き通るような空色の羽は、とてもやわらかく軽かった。


「う~ん~」


 一本角の青の小鬼はしゃがみ込んで考えた。

 見知らぬ物には触れるなと鬼たちから言われているのだ。

 けれど、小鬼も鬼も、みんな忙しく走り回っていて、どう対処したらいいかわからなかった。


「う~ん~」

「おや。これは。天使の羽ではござらぬか?」

「侍のおっちゃん」


 一本角の青の小鬼は話しかけて来た侍を座り込んだまま見上げた。


「天使って何?」

「神に仕え、神と人間とを仲介し、人間の守護にあたる事もある霊的存在でござる。まあ、簡単に言えば、そなたたちと相反する存在でござるが。よもや、遥か昔の天使は地獄にも来て、罪人ばかりか鬼たちも守護しようと考えていたのではなかろうか」

「え~~~。おいら、その天使ってのに守られなくてもへっちゃらだい!いっぱい修行して、いっぱい強くなって、すんごい鬼になるんだい!」

「むふふふ。ああ。つようなれ。けれど、殺してはならぬぞ。決して。どのような大義があってもだ。殺してはならぬ。拙者みたいになるゆえに」

「うん!殺さないよ!おいらたちは殺しちゃだめだって、新しい閻魔大魔王様が言ってたんだ!本当は痛めつけるのも止めたいって言ってたけど。痛めつけないとわからない罪人が居るから止められないって言ってた」

「そうか。そうだな。おのが罪を理解できぬ者も確かに居るからな。そういう輩に罪を理解させる役割を担っておるのが、そなたたち鬼であるが」


 侍は腰を下ろして、一本角の青の小鬼の、小さな、けれどとても硬い手をそっと握った。


「おっちゃん?」

「いやなに。拙者の強さをそなたに授けようと思ってな」

「えーいーらーなーいーよー」

「そう言うでない。もらっておいてくれ」

「いーらーなーいー」

「頑固なやつだ。それならば」


 侍は一本角の青の小鬼から手を離して、天使の羽を手にとっては、両の手で挟んで力を注ぎ込んだ。


「もしも、そなたが力を欲した時、この羽を強く握りしめるのだ。すれば、そなたに、天使と拙者の力が注ぎ込まれる。むふふふふ。力強いお守りであろう。大事に取っておくのだ」

「………もーしょーがないなー。そんなにもらってほしいの?」

「うむ。もらってほしい」

「もーしょうがないなー」


 一本角の青の小鬼は侍から天使の羽を受け取った。


「おいらの力で乗り切れるけど。侍のおっちゃんがどうしてもって言うからもらったんだからな。絶対においらの力で乗り切れるけど!」

「むふふふふ。わかっておる。そなたは強い子じゃ」

「ふふん!そうだよ!おいらは強いんだい!」


 一本角の青の小鬼は胸を張って、作業に戻らないと言っては、石運びを再開させたのであった。






「天使よ。誠に存在するのならば、どうか、あの純粋無垢な小鬼を守ってくれ。極悪非道な罪人に相対する内に、心を壊して残虐無比な鬼へと変わらぬように。どうか」


 大きく手を振る一本角の青の小鬼に大きく手を振り返してのち、侍は背を向けて歩き出したのであった。











(2024.4.7)



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天使の化石 藤泉都理 @fujitori

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