第3話

 ファインダーを覗いて、シャッターを切った。

「何?」

「いや、妙に絵になるなと」

「でしょ」

 黒峰がふんぞり返って、胸を張った。家が揺れる。電車の走行音が響き渡って、僕らの会話は中断した。

 高架下の家は、いつもほんのりと肌寒い。それは太陽が上手く当たらないからで、夏を過ごすのには適していると言えた。ずっと日陰の小屋は人によっては気が滅入るだろうが、僕には適していた。暑いよりは寒い方が大抵の場合良いと思うのだ。

「で、その写真どうするの」

「うーん、いつか現像する」

「一眼……っていうの?そーいうの」

「そう」

「スマホで見れないの?」

「フィルムだから」

「うわっ、やってる」

 軽く引いた顔を黒峰がした。

「何がさ」

「フィルムっていう部分にエモを感じてそう」

「悪いかよ」

「てんけーってかんじ」

「うるさいな。人の勝手だろ」

「人と違うことをしよーとして、なんか同じようなことし始めるやつだよね。まこと君って」

「……言いすぎだろ」

 僕はカメラを置いた。そこまで言われると、気持ちが萎える。

「現像したら見せてね。チェックするから」

「言わなくても見せるよ。チェックって何」

「そりゃあ、許可無しで撮られましたから」

「いいだろ別に」

「良くないなー。勝手に取られて不快だなー」

「はいはい」 

 気分で話されている。そういう気がした。

 

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ドウケツ 現無しくり @Sikuri_Ututuna

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