第2話

 酷く暑い。大教室の空調は、今日も効きすぎるくらいに稼働していた。反面、外の大気は熱で揺らいでいて、アスファルトが溶けて揮発しているような感覚さえ覚える程だった。まだ初夏だと言うのに、暮らし辛さは極まっている。

 始業ギリギリに、僕は学生証を機械にかざして、1番後ろの席に座る。人気の無い授業。落単という訳ではないけれど、それほど難しくもない必修科目。僕はぱらりと教科書を開いて、天井に吊るされたモニターをぼうっと眺めていた。

 後ろの扉が小さく開く音がした。隙間からそおっと、女が入ってきた。初めて見る女だった。授業も六割出席しないと落単である。今は確か4回目。ギリギリ……。急いできたような。

「ごめん、今日の紙、見せてくんない」

1つ席を開けて座った女が、小さくこちらに語りかけた。断る理由もない。僕はレジュメと教科書を、見やすいように広げておく。

「教科書も……見ます?」

「マジ?ありがと」

「いえ」

「助かる~。感謝感謝」

 そう言って彼女は、スマホのカメラでレジュメと教科書を撮り始めた。無音にしているだけ偉いけれども、そういうのって大抵使わないよなと、僕は無粋なことを考えている。

 授業が進んでいって、気がつくと彼女は隣で眠っていた。机に突っ伏して、小さな寝息をかいている。僕は彼女に声をかけた。

「……授業終わった?」

「はい。終わりました」

「そーなんだ……あのさー、このあと時間ある?」

「昼休みですし……そりゃ」

「じゃあ食堂。一緒に行こ。お礼に奢るから」

 単刀直入に言うと、この後食われた。情緒もクソもなく、昼から飲み屋に連れていかれ、酒を飲まされ……断れず、絞られていた。

「はーっ。やっぱ初物だと思った」

「う……う……」

「初々しくて可愛いねー。よしよし」

「なんですか、どういうつもりで」

「いや、たまには童貞がいいなーと思ったから」

「最低でしょ」

「わかる」

 彼女はケラケラ笑いながら、タバコに火をつけた。その姿は何故か妙に男らしかった。



 



 


 


 

 

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