第4話  罪を入力してください

 三田島が気になり見てみたら、足元にいた男がペアのようだ。眼鏡と白衣の男――、密井といったか。


「ペナルティもあるから、大まかに伝えておく」

「大まかはやめて」


 ざわめきの中で聞くことだろうか。しかし細かくは伝えきれないということで、


『とりあえず指示には従え』

『亡者化は禁止』

『過去で知人に認識されてはならない』


 そのみっつが念押しされた。これらはイエローカードとなるらしい。


「知人に会えないとか、課題からして不便すぎん……?」

「レッドカードも出ますから、お気をつけて」


 だから内容。


 俺が視線を突き刺すと、宝塚が咳払いで柳を見た。


「人の生死に関われるのは、ホヤホヤの罪を正す時のみだ。それ以外はレッドカードとなる」


「あと、こちらがレッドカードと判断した時です」


 結局大まか。


(まぁ俺は人の生死には関わってないし、いっか)


 関係なさそうな部分は諦めたものの、そこに手が上がる。


「ペナルティの内容が知りたーい!」


 発言したのは白いロングコートの男で、たしか里居万――。ニヤついていた、もうひとりの男だ。

 ペアである悦巳トウゴは黒のロングコートで、万と似たような印象を受ける。


「くらえばわかる」

 しかし返った答えは、やっぱり雑だった。


「えー、マジで~? 逆に楽しみ~」

「だな」


 なのに、何故だ。笑顔になった二人に、またも困惑する。

 さっきから笑えることなんてひとつもないはずなのに、なんなんだこいつらは。


 それならそれでもっと食いついてほしかったが、またも宝塚が出てきた。


「ホヤホヤのみなさんには、この端末くんをお渡しします。過去の罪と、その修正案を入力して、これで管理してください。ちなみに端末くんは、どんなポケットにも収まりますからね」


 出されたのは、タブレットのようなものだった。普通に機械の感触だが、ためしにポケットに近づけると、本当に縮んでびびった。


「ではでは、遅れてきたペナルティとして、タキくんを例に説明しましょうか」


「は? なんでだよ!」


 何故か白羽の矢が立ってしまう。不満を漏らすと、宝塚の指が得意げに振られた。


「考えようによってはラッキーですよ。己の罪を参照するにはポイントを消費しますが、タキくんにはサービスです。もちろん予想して、自分で入力しても構いません」


「ポイント……?」


 そっちがわからない。しかし宝塚が端末をオンにすると、空間にその画面が投影された。近未来映画のようで、ちょっと感動する。


『直近の罪を表示しますか。最大の罪を表示しますか』


 そして端末からの声。無駄に美声だが、これが端末くんか。


「どうします? 直近を選んだ時に、それが最大の罪と同じだった場合、その罪は飛ばされます」


「ちょ、直近で」


 どういうものが”罪”とされるのかはわからないが、最大の罪をさらされるのには抵抗がある。そして、それが何だか俺にはわかっている。つまり他の罪を教えてもらった方が、お得というものだ。


「それならえーと、つい最近みたいですね」


 手元を覗きながら、宝塚が呟く。すぐ空間にも文字が現れた。


『12月16日、借金を負わせた山元健太が、一家離散』


『12月16日、借金を負わせた田上武志が、会社倒産』


「えぇ!?」


 途端読み上げられた”己の罪”に、俺は目を見開いた。

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全員罪人・全員死人!-誰よりも早く、その罪を正せ- 入口はっぱ @irgc_

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