夏のある日

藍空 哀

うみのこえ

死のうか。そんな考えが頭をよぎった。七月の半ば久々に外に出たのには訳があった。部屋のクーラーは電気代を払っていないので当然止まって、大家さんには三ヶ月分の家賃を払えと催促された。そんな場所から逃げるように外に出た。ほっといて欲しかった。外に出ても僕の中から焦燥感は消えることは無く、蝉の声は耳の周りで僕を責めるように聞こえた。ふらふらと歩き続け、ふと視線をアスファルトから右に移した。そこには夏の代名詞とも呼べる海が悠々と凪いでいた。


「お母さん!こっち!」


砂浜でまだ小学生になったばかり位の男の子が、母親の手を引いて自分で作った砂のお城を自慢気に見せていた。


『凪見てくれよ』


それを見た瞬間耳の奥で声がした。酷い吐き気が僕を襲う。僕はこの場所に居たくなくて足早にその場から逃げた。


「忘れたと思っていたのに」


まだ、若干の気持ち悪さが胃に残っていた。僕はやはりあの時から一歩も成長していない。体ばかり大人になって今までどうしようもない人生を送ってきた。もう辞めよう。


『死のうか』


うん、そうするよ。

君の笑い声がそれだけが夏の蜃気楼に溶けていった。

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夏のある日 藍空 哀 @aisora_ai

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