第3話 伝説の技

その後、高士は夜勤の仕事に出たのだが仕事中ずっとこの武道の神様は高士の横にいた。

高士が感じたのは人が持つ先入観や価値観というものをいっさい感じなかった。

竹を割ったような性格とかよくいうが透き通るようなカラッとした空気は一緒にいて楽しささえ感じた。


お会いしたことはなかったけど、ずいぶん気持ちのよい先生だったんだな… 


さすが武道の神様と呼ばれる先生だなと思った。


先入観が無いからこそ相手の動きに合わせられるし、凝り固まった価値観が無いからこそ相手の攻撃力を見くびることもない。


相手は弱いはずだとか決めつけるのは実戦では油断につながる。


思いのほか速かった。思いのほか強かった。


そうやって先入観を拭い去った瞬間、すでに相手の攻撃を受けている。


人は優越感を持ちたいし、他人より自分が優れてると思いたい。


上からという気持ちを持ってることは武道を嗜む者としてとても危険なことなのだ。


己を知る弱者は強者をどうやれば倒せるか考える。


正々堂々という型にはまらなければ強者を倒す手立てはいくらでもある。


実戦を繰り返してきた達人がいきついた境地がこの空気なのだろう。


高士はそう思わずにいられなかった。


夜勤が終わりその帰路で高士はせっかく武道の神様が近くにいてくれるのだからもっといろいろ聞かないともったいないと思った。


そういえば昔、アメリカの大統領の弟の議員が来日して塩辺剛山先生の道場を訪ねたことがあった。


その議員が自分のボディーガードは心身共に鍛えているからなにか技をかけてみて欲しいと言ってきた。


小柄な塩辺先生は正座し二回り、いや三回り大きなボディーガードに両手をしっかり掴ませ自分が動けないようにさせた。


そした塩辺先生が気合を入れるとなんとそのボディーガードはヘナヘナと身を崩し動けなくなってしまった。


議員も他のボディーガード達もみな目を丸くして驚愕していたものだ。


「あの技どうやるんですか?」


帰宅してもう後は寝るだけだというのに高士は塩辺先生に聞いてみた。

ベッドの上で塩辺先生が正座して両腕を前に軽く出してるイメージが来たので高士もその前に座り塩辺先生の両腕をかつてボディーガードがしたように持ってみた。


数十秒時間が経っただろうか。


高士もさすがに生前の大技をやってほしいというなど無茶ブリだったかと思った。


その瞬間だった。


高士の身体が右の方へ倒れ出した。


え?


眠かったせいかと思いもう一度身を起こした。


すると今度は後方へ身体が倒れる。


「うそでしょ!」


もう一度身を起こすと今度は前に倒された。


まさにアメリカの議員のボディーガードがかけられた状態になった。


こんな…ほんとに?


高士が感じたのは金縛りのような束縛する力ではない。


筋肉で抵抗しようとすればできただろう。


しかし身体になにかのエネルギーが通っている。


それがかつて身体味わったことのない感覚が流れそれを止めたくないという気持ちになる。


これが伝説のあの技か!


感動した高士はその姿勢のまま寝落ちした。

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友霊白書 迷熊違出射 @makemyday

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