第3話
昼の弁当を食べる時間はまだそれなりにあるなと考えながら教室に戻る。教室の近くまで帰ってくると何やら教室が騒がしいが、この学校の教室のドアは前の学校と違って開き戸なので中が見えない。あまりにも騒がしいので不思議に思いながらドアを開けたその瞬間だった。ガシャン!!と大きな音を立てて左側から人が吹っ飛んできて僕のすぐそばの壁にぶつかって落ちる。
「...え?」
吹っ飛んできたのはおそらくクラスメイトの一人だろう。突然壁に叩きつけられたからだろう「きゅぅ」と音を立てて気絶してしまっている。
理解しがたい。まだ先程の襲撃からそんなにたっていないのに一体全体何が起きているっていうんだ。他のクラスメイトは残っているし、襲撃じゃないことは確かなはずだ。
「あぁ転入生。戻ってきたんだな。」
またもや僕が思考を停止させていると横から仁志君が話しかけてきた。
「あ、うんただいま」
一応返事をする。
「きっと学園長から他の仕組みについてだとかを聞くように言われてるんだろう?そんなに工程があるわけでもないし俺が教えてやるよ」
よいしょという掛け声と共に泡を吹いている生徒を背負う仁志君。
「まずだな、」
「うん。ごめんちょっと待って」
流石につっこませてほしい。
「どうした?」
何か変なことでもあったのか?とふしぎそうな顔をしている仁志君。
「なにがどうしてクラスメイトが吹っ飛んでくる事態に?」
襲撃が起きるクラスだとしてもクラスメイトが吹っ飛んでくるクラスとは聞いてない。
「まぁちょっとばかり喧嘩に巻き込まれただけだよ。喧嘩してたやつらは別の場所で続きをやるらしいから気にしなくていいぞ」
もし喧嘩に巻き込まれるのが怖いなら最上結翔って奴にあんまり近づかなければ大丈夫だぞ。と付け加える仁志君。
「最上君ってさっき斧使ってた?」
守ってくれたので、喧嘩しているという事実が意外だったので合っているのか確かめる。
「そうだ。まぁ、よほどキレさせない限りは大丈夫だから安心してくれ」
どこを安心すればいいんだろう。
「ここじゃあ扉の近くで邪魔になるし移動しよう」
そう言って仁志君が歩き出したのでついて行く。
「それで、クラス内の仕組みだが...腕輪は無事もらえたようだな」
僕の付けている腕輪を後ろを少し向いて確認しながら言う。
「まず、このクラスでは転入生が巻き込まれたようにたまに襲撃が起きる。それで、襲撃してくる奴らをできるだけ授業が終わる前に全員壊滅させるのが俺ら護衛生徒。」
仁志君が自分に指をさす。
「で、その襲撃に巻き込まれないように別の教室に逃げてそこで授業をそのまま受けるのが転入生含める非護衛生徒だ。ここまでは大丈夫だな?」
大体わかったので頷く。
「で非護衛生徒の逃げ方だが...見るより実践する方が早いな。転入生、とりあえず席に座ってくれ」
歩いている間に僕の席の近くまで来ていたので言われた通り席に座る。
「それで、そのまま腕輪をつけている方の腕で机の天板裏についてる突起わかるか?」
机の裏を覗き込んでみると確かに何か青い石のような突起がある。触ってみると硬い。
「それを押し込んでみな」
覗き込んだまま、その青い石を押し込むとカチッと音を立てた。ただあまり何か起こった感じはしない。
「何も起こってな」
言いながら顔を上げるとさっきまでいた教室と置いてある物も、席の数も壁の色も自分の机の上に置いたままにしていたシャーペンも何もかも同じなのに先程までいたクラスメイトは1人もいなくなっていて、ただ静まり返っていた。
「え...」
まるで自分だけがどこかに切り離されたような異様な雰囲気に困惑する。
「ちゃんと移動して来れたみたいだな」
いつ来たのか、仁志君が歩いてくる。
「襲撃があったときは今みたいにすればここの避難教室に移動して来れる。ただ遅れると閉められるから早く入るんだぞ。そうじゃないとまた巻き込まれるからな」
それは嫌だろ?と言ってくる。
「いや、巻き込まれるのはもちろん嫌なんだけど、これ一体どういう原理?」
まるで瞬間移動だ。
「あーそれはあれだ企業秘密ってやつだ」
右上を見あげた後にこちらに少しの威圧感をかけて言う仁志君。
「それより帰り方も教えておかないとな」
早くこの話を終わらせたいのだろう。にっこりと笑って話を切り替えてくる。
「うん」
余計なことに首を突っ込むべきではないだろうと思い答える。
「襲撃時の帰るタイミングは大体護衛生徒《こっち》側の都合になってしまうんだが、行く時と違って何か特別なことはする必要ないから安心してほしい。襲撃時ではない時に、ここに来た時の帰り方は簡単。来た時と同じように席に座って突起部分を押し込むだけだ」
やってみなと急かしてくるので天板の突起部分を手だけで探り、今度は周りを注視しながら押し込んでみる。
「っつ」
特に何かが見えることもなく先程と同じように他の人たち《クラスメイト》がいる教室に戻ってきた。
「...」
まだ仁志君はあそこから帰ってきてないらしいのでもう一度スイッチを押し込む。周りの景色がまた同じように一瞬で変わる。
「...」
また押し込み賑やかさが戻ってくる。まるでパノラマ漫画のように景色が変わるので面白くて何回もカチカチと押す。
「おい」
少し困った表情の仁志君に腕を掴まれる。後ろに背負っていたクラスメイトはどこかに置いてきたらしい。
「あ...」
悪戯がバレた時のような緊張が走る。流石に何度も連続で押すべきものじゃなかったようだ。
「あんまり押しすぎるといざって時に壊れるぞ?」
それは困るので、すぐに押すのをやめた。
「このクラスで知っておかなくちゃいけないことは、この逃げ方一つでもう終わりだ。今度は逃げ遅れるなよ?」
頼むからな?と少し困り顔で言われたので頷く。
「よし。それじゃあ俺はもう行くよ。昼食食べ損ないようにな」
「教えてくれてありがとう。」
どういたしまして。と言ったあと自分の席に向かって歩き出す仁志君。その姿をある程度見たあと、忠告通り今朝お母さんの作ってくれた弁当を広げる。
「いただきます」
おかずの卵焼きから手をつける。
(こんな濃厚な時間を過ごしたのにまだ四時間目なんだもんなぁ)
昼ごはんを少々急ぎながら食べ終わり、その後は四時間目の襲撃などなかったように五時間目の数学の授業が始まる。先生が隣の人と解き方について話し合う時間を設けたので隣の金巻 菜さんという女子と、ここはこうで...という話し合いをしていくが、2人とも答えも解き方も同じだったため、周りがまだ話し合っている中僕ら2人だけが話すことがなくなる。少し遠めの席ではほとんど言い争いなんじゃないかとも取れる議論が行われている。
(な、な何か話すべき...?いや、でも何を話せば?)
会話をしなければならないという気持ちはあるが、何せ転入初日なので何か雑談をしようにもネタがない。えーっとあーっとと焦っていると、
「実はさ、湯村君が転入してきてくれ嬉しいんだよね」
唐突に金巻さんがそんなことを言ってくる。
「え?えっ?」
そんなことを初対面の女性に言われたら困惑するしかない。
「あ、いやさ。ここの席になってからさ、隣の人とペア作ってねーってなった時どうしても席の位置的に前の席の2人に入れてもらったりだとか、先生と組まされたりだとか面倒でさ」
確かに毎回それでは少し面倒だろうなと思って頷く。
「だからさ、これから席替えするまでよろしくね!」
「うん。よろしく金巻さん」
揉め事の少なそうなお隣さんに安心したことで緊張が解け、会話をその後も続けることができた。
その後も順調に数学の時間は終了し、6時間目も特に何か起きることもなく転入初日が終わった。
(本当に色々あって騒がしい1日だった...)
玄関から外に出ると雲一つのない快晴が広がっていた。
(一ヶ月か...まぁ何とかなるよね)
というかなってくれないと困る。そう思いながら帰り道への一歩を踏み出した。
どこかの病室のような部屋。1人の少年がベッドの上でパソコンを触っている。
「調子どうだー?」
そこに白いカーテンを手で軽く開けて仁志 未黒がベッドを覗き込んでくる。
「もうだいぶいいよ未黒」
パソコンから目を離して未黒の方を向くベッドの上の少年。
「まさか珍しく上の教室に上がってきたと思ったら、結翔と心咲のじゃれあいに巻き込まれるとは災難だったな」
少し苦笑しながら言う未黒。
「室内なんだからもうちょっと加減ってものを考えてほしい」
少し不満げに口を尖らせるパソコンの少年にそれは俺もそう思うと同意する。
「まぁでも、どうせそれを言い訳にずっと転入生について調べてたんだろ?」
未黒がベッド近くの椅子に腰掛けニヤリと笑いながら語りかける。
「そりゃあね。もうすぐで那留もくるらしいから来たら話すよ。」
そう言ってベッドの上の少年はパソコンに目をもどしてまた作業に戻る。
「〜〜〜〜♪よーっす。調子どうー」
音中 那留が鼻歌まじりにカーテンを開けて入ってくる。
「もう大丈夫。」
今度はパソコンから目を話すことなく答えるベッド上の少年。
「そりゃ良かった。」
積んであった椅子の一つを取り出し、座りながら返答をする音中。
「それじゃあ揃ったことだし、まだ完全に調べ終わったわけじゃないけど、今の段階で分かってる転入生についてを共有させてもらう」
そういったベッド上の少年に対して椅子に座っている2人は軽く返事をする。
「まず家族関係なんだけど、彼のご両親は二人とも何かあるとかでもない普通の日本生まれ、日本育ちの方達だった。職業もお二人ともそっち方面と繋がってるとか繋がってそうな人が関係者にいるとかもなく、特に怪しむべきところはなかった。」
ベッドの上の少年は、パソコンにまとめたのであろう事項を確認しながら椅子に座っている二人に説明する。
「それじゃあ転入生本人が不良と絡んでいたとかか?」
未黒が少年に質問をする。
「いや、それも考えて調べてみたんだけど、そういう輩がいるような場所へ行った形跡もないし携帯の中にそんな感じの連絡先もなかった」
少年はパソコンから目を離さずに答える。
「え、いつの間に転入生のスマホ見たの?」
不思議に思ったのか眼帯の少女が尋ねる。
「...現物あるのにわざわざ面倒くさい手法取りたくなくて、リュックサックの中をちょっと漁らせてもらった」
少年はあまりよろしくない手法だということを理解しているのか、それともその時に吹き飛ばされたことを思い出したのかはわからないが、バツの悪そうな声色で答える。
「なるほど」
納得した様子の那留。
「転入生周りはそんなもんだったんだけど、前の学校についてがあんまり調べられてなくて。そこはこれから調べてくつもり。そこから何か出てくるでしょ」
多分ねと付け加えるベッド上の少年。
「...いや、もう一つ怪しい所あるじゃん?」
含みのある言い方をする眼帯の少女。
「?いやまぁ、習い事とかの可能性もあるけど。あ、家のパソコンとかに他の連絡先隠してるとかも調べても何も出てこなかったからそれはない。単身で作戦立ててる可能性もあるけど、あの様子じゃ心咲のハンマーにでも押し潰されて終わりだと思うけど」
あれは強くない。と確信したように少年は言う。
「まぁ我らが司令官が言うならきっとさほどの強さはないんだろうけどさ。僕が言いたいのは彼本人についてじゃない。僕が言いたいのは学校の中に転入生を中継拠点として情報を抜こうとしているやつがいるんじゃないのかって話だよ」
学校内という言葉に対してピリついた緊張が走る。
「ま、まて。もしそれが本当なら、転入生とその両親が転入先をここに決めるように誘導して、その情報を得るために敵の本拠地《学校》にわざわざ刺客を送り込んでってやらなくちゃいけない訳だろ?前半は上手くいくかもしれないが、この教室に関わるとなったらリスクの方が大きいんじゃないか?」
流石にそこまでやるか?と言う未黒に対して、ベッドの上の少年は考え込む。
「多分、ここの教室に関わらなくてもいいんじゃないかな。あくまで転入生がこの学校で見聞きした情報の中間地点として動く範囲内にいればいいいんだと思う。それなら、ここの教室の先生方に比べれば簡単に侵入できる。確かに。直接関わらなくてもいいのか。なるほど。そこまできたらあれの可能性も...」
ぶつぶつと最後の方がもう独り言のようになっている少年の発言で確かにと、未黒も少し納得がいったようだった。
「ありがとう。ありえないって思ってたけど、そっちの可能性も考えて調べてみる」
礼を言うベッド上の少年。
「まぁ!そこまで入念な作戦立てるような奴らならそう簡単に形跡残さないと思うから引き続き転入生メインに調べた方がいいだろうけどね」
まぁ言わなくても分かってるだろうけどさと続ける那留
「それじゃあプチ会議終わりー」
手をパチンと叩いて、那留は椅子を片付け始める。それに釣られて未黒も椅子を片付け始める。ベッド上の少年はカタカタと新たな情報収集に奔走している。
「それじゃあ。またあとでなー」
椅子に座っていた二人が部屋から出ようと、扉の前に行く。
「二人に限ってないだろうけど、相手が敵かもしれないんだからくれぐれも油断しないでね。」
ベッド上の少年がパソコンから目を離すことなく二人に一応といった感じで忠告する。眼帯の少女と糸目の少年は
「「分かってるさ創」」
と返事して部屋を出ていった。
魔法と武器もつ高校生 灰戸 @yamada_98rou
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