聴こえてくるよ、今日も。

なにものでもない。

第1話 不思議な体験、始まるよ。

鹿敷俊哉は19歳の大学生。

離島で中学まで過ごして高校は県内の普通校に行ったが

とても、勉強ができたので先生に関西に行くか?と言われて関西某県の大学を推薦で受けたら通ってしまった。

関西に行くことなく。

初めて都会に部屋探しに行ったら、勿論両親はついてきたがその音に驚いた。

喧騒が楽しい、テレビの中の関西弁は本物だったと自覚し、そして部屋は担任の先生の従兄がやっている不動産屋さんに紹介を頼んだ。


「鹿敷君ね、いやあ、たもっちゃんが頼むくらいだから相当勉強できるんだろうね。いやあ、関東じゃなくて関西でええよ。ここには地の文化があるからね。

 ま、ご両親もお座りくださいな。そうですねえ、大学に近いところでここなんか家賃も安いし家主も面倒見がいいですわ。他にも何件かありますがとりあえず回ってみましょう。」

担任の従兄の人はとても柔らかい物腰で三件連れて行ってくれた。

両親は地元以外を知っているが関西は初めてである。俊哉は下に妹がいるが妹は地元で介護の仕事に就くことを昔から決めていた。

俊哉は二件目が気になった。音、がいいのである。裏には墓場があるがその近くの木がいい音を出していた。

「父さん母さん、二件目でいいかな?うちはここがいいと思う。周辺の環境が気に入ったんだ。どうかな?」

両親はお上りさん状態で俊哉に従った。


そして、大学新年生。関西では一回生という。

入学式前にバイトも決めた。総菜屋でのバイトである。俊哉は昔から、料理が好きだった。母親は安心していた。自炊が好きな子だからそれを生かせることをするということを。

入学式前に二回、シフトに入って覚えのいい彼はすぐに慣れてきた。要は揚げ物をあげるだけである。彼には鍛えた腕があった。接客はしない。


バイト先のおばちゃんたちはガタイのいい俊哉を可愛がった。

「こりゃ太らせがいがあると。」

俊哉は中学、高校は卓球部だったがあんまりうまくはなかった。でも温泉卓球レベルの人には負けない。

ガタイがいいのは母親の料理が美味いからだ。妹は胸、尻とも大きいが陸上部の為に同級生男子からは凄くモテていた。妹の早紀は中学三年生だが、

家がそんなに金持ちでない事を早くから知っていたから兄の俊哉が公立の大学に入ったことで気合いが入り、

商業高校に入って、バイトをして介護の専門学校には自腹で入ると両親に告げていた。

頼もしい兄妹である。


俊哉はそんなにおんぼろでないが人気のないアパートの三人の住人の一人となった。そこには8名住めるのだが、裏の墓場を嫌ってあまり寄り付かない。


俊哉はそこの音、別に彼は超能力者ではないがもともと自然を愛する心の強いところがあるからそこの土地の気持ちよさに気付いた。


大学の寮ではない。大学には徒歩で十分。近くにはバイト先とコンビニが一軒。

それ以外は古い家が多い。地域猫も多い。


俊哉は二階の奥の部屋だった。

一階に二人、若い女性と年金暮らしの女性がすんでいる。

大家は墓場、墓地を管理するお寺の檀家であった。この辺ではそれなりの土地の人であったがざっくばらんな性格の為に皆から好かれている。


一階の女性、若い女性は仏教大学の職員でここが気にっている。名前は奥寺智子、28歳。

年金暮らしの女性は68歳で、とてもそうは見えないくらい若いが足が不自由でリハビリの為に毎日朝の四時半に散歩に行く。杖をついて。


68歳の女性は友綱ゆり子、息子が二人いるが海外で結婚して、本人は外国語が嫌いだから結婚は認めたが海外には結婚式の時以外はいかなかった。少し折り合いが悪いので息子からの援助を断り自分が働いてきて得た賃金で貰える年金で住めるここを選んだのだ。

シングルマザーで二人の息子を育て上げたのだからそれだけでも立派なのだが夫は二人目を出産した後に登山中の事故でいまだに行方不明だ。

あの時に側にいてくれたら子供たちを見れたのにと、今でも夜に涙で目覚める時がある。働きすぎで足を悪くして、65歳で定年退職した。仕事は工員であった。

職場は十分な退職金もくれたし、仲のいい人も多かったからこのアパートには彼女に会いに来る人が多い。


奥寺智子もゆり子とは仲が良かったし、俊哉がガタイがいいのでボディガードになるわ、と喜んで三人で酒盛りをした。未成年だけどね。俊哉も14歳から飲んでいる。


そうやって大学生活が始まり俊哉は自分でカリキュラムを組んでどの講義をとるかと考えていたがすぐに元卓球部員の為に大学の卓球部に勧誘されるまま入り、

先輩たちにどの講義が単位がとりやすいとか、教えてもらった。

地元の高校からは俊哉だけだった。

周囲は知らない人ばかりだがもともと人付き合いが好きな俊哉は同期にもすぐに友達が出来て、キャンパスライフを楽しみだした。


ここの、音は気持ちいい。彼の自然な感情だった。


ある日、地元の同性の友達がアパートに泊まって智子とゆり子の洗礼を受けてすっかりアパートが気にってしまい、周辺の人達は騒がしいのが好きだから大学生たちが溜まるのが嬉しかった。


墓場の木が風に揺れる夜、俊哉は気が付いたら木の、樹木の前にいた。裸足でパジャマ姿だった。

夢遊病かと思ったがそっと木に手を当ててみた。

優しい、穏やかな感情だった。

「聴こえる、聴こえる?」

俊哉は聴いた、二十代くらいの男性の声だ。

「聴こえるんだ。ゆり子の夫の俊夫なんだ。今から言う場所を覚えてすぐでなくていいからゆり子とそこへ訪れてほしい。できれば智子さんとも。」

俊哉を誘ったのはこの感情だったのだ。


初夏の陽気、ゆり子、智子、俊哉は信州の山へ来ていた。

真剣に話す俊哉を智子もゆり子も信じた。

三人はその場所を探した。


そして、見つけた。


42年前に行方不明になった俊夫の遺体を。智子は多少霊感があり仏門の家の子であったから簡単なお経をあげてから山を下りた。


残された二人はしばらく無言。ゆり子は俊哉を信じてよかったと感謝しているが涙が止まらなかった。遺体には彼女が贈った腕輪があったのだ。間違えるはずがない。


暫く泣いた後、ゆり子は、

「俊哉君、あんたがあのアパートに来たのはあたしにとって運命やったんやろうね。ほんとに感謝しかないわ、ありがとう、ありがとう。」

俊哉は空気の奇麗な山の姿に圧倒されていた。

そして、山から聴こえた。

「ありがとうね。」

智子が数時間後にその場所に警察官と山岳隊を連れてきてくれた。

三人は簡単な事情聴取を受けて、ゆり子はその場に残った。


智子はこの山に来てから恐ろしいほど俊哉に色気を感じていた。


自分が9歳下の男性に惚れるとは思ってなかったのだ。実は彼女は一目ぼれしていたのだ。俊哉に。


智子は地味な容姿に似通って恋愛関係が凄く奥手だった。つまり、処女であった。


二人で山を下りた後、同じホテルに泊まったが智子はここでいわなければ、

「ねえ、街に行って飲もうよ。」

と誘った。

悪い気なんかしない俊哉は勿論オッケーした。


そしてそこそこ飲んだ後に二人は結ばれた。


大学卒業時には一歳の子供のパパであった俊哉は頑張ってせっかく大好きな研究職の一歩を踏み出したのだから気合を入れた。


研究は植物学、彼はやはり、植物の声が聴こえる自分を大切にした。


妻の智子は産休中。大学は全然大丈夫だった。


可愛い娘の写真を持ち、俊哉は慰霊20年目の御巣鷹山へ研究調査の為の助手として登るのだ。


インターネットが普及し始めていたが彼は疎かった。


携帯電話には慣れたから山では繋がらなくなる前に電話をすると言って二人を関西の、あのアパートに残して出かけた。


ゆり子は安心しきって長男の家に行くために海外へ渡航した。


大家が、アパートごと買わないかと言われたときにはびっくりしたが更に驚いたのがその金額の安さである。


アパートは二階は1DKだが一階は2LDK、造りが少しいびつだったが都会で家を一軒買うのの半額以下だったので智子の貯金で頭金を払ってそれで7割がたは払い終えてしまった。


そこからは残りの6件は貸し出して、なぜか彼らが所有したらすぐに埋まってしまった。


大家はお寺に出家するために子供もいないし、もう一人だからと言って愛する妻の墓のあるこの寺に出家した。


78歳の出家である。


売った金は寺にお布施として納めた。他にも土地をいくつか所有していたがそれもすべて手放し、身も心も軽くなりもともと穏やかだった顔はまさに仏顔になった。


住職は全て歓迎してそのお金は地域猫の世話のお金のために使った。


他にも檀家はいるからだ。


俊哉は、山に入る時、聴こえた。

「毎年ありがとう。優しいね。」

身体は一回り大きくなったが体力は10倍ついた。


聴こえても、もののねを受け入れる。それが俊哉の生き方だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

聴こえてくるよ、今日も。 なにものでもない。 @kikiuzake001

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ