シャルル七世のプレジャーズ・オブ・ライフ(2)哲学者エピクロス
私はある意図があって、本作の翻訳文「快楽にふける」の後ろに原語「plaisir/plaisirs」を必ず入れるようにした。
英語にすると、Pleasures(プレジャーズ)。
ちょうど1年前、小説『7番目のシャルル』シリーズ休筆中に、ジョン・ラボック著『19世紀の異端科学者はかく語る:The Pleasures of Life』を翻訳していた。第一部は、電子書籍化にともない「序文」を残して削除したが、第二部は引き続き掲載している。
https://kakuyomu.jp/works/16817330651406132578
英語の原題は、プレジャーズ・オブ・ライフ(The Pleasures of Life)。
直訳すると『快楽の人生』だろうか。
内容を読めばすぐにわかるが、いかがわしい意味での「快楽」とは違う。人生を豊かに、より良く生きようする意志・哲学のようなものだ。今風に言い直すなら、ウェルビーイング(well-being)だろうか。
そういえば、本作『歴史家たちのポジショントーク』、
19世紀後半:新しい『フランス史』(1)炎上(https://kakuyomu.jp/works/16818093075033117831/episodes/16818093075878575263)で、シャルル七世はエピクロス主義とまでいわれている。
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シャルル七世の実用的なエピクロス主義(épicuréisme、快楽主義)は、心の痛みから逃れるために、邪悪な出来事からできるだけ距離を置いた……。
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古代ギリシャの哲学者エピクロス。
偶然なのか必然なのか……、ラボックの著書で何度か登場していたおかげで、エピクロス学派の快楽主義がどういうものか、すぐにピンと来た。
手元の辞書から、「シャルル七世の快楽主義」を理解する助けになりそうな部分を抜粋する。
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・実践的哲学論、快楽説を提唱。「人生の目的は、死の恐怖を克服して魂の平安を求めることにある」とする。
・エピクロスのいう「快楽の追求(欲求)」とは、①自然で必要な欲求(友情、健康、食事、衣服、住居)、②自然だが不必要な欲求(大邸宅、豪華な食事、贅沢な生活)、③自然でもなく必要でもない欲求(名声、権力)の三つに分類。このうち自然で必要な欲求だけを追求し、苦痛や恐怖から自由な生活を送ることが良いと主張し、こうして生じる「平静な心」を追求することを善とする。
・後世、エピキュリアン=快楽主義者という意味に転化してしまうが、エピクロス自身は肉体的な快楽とは異なる精神的快楽を重視しており、肉体的快楽をむしろ「苦」と考えた。
・ギリシャ哲学の主流派と対立・迫害されていたが、1417年、イタリアの人文主義者ポッジョ・ブラッチョリーニが写本を発見し、エピクロス主義が再び知られるようになった。
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1417年!
シャルル七世は1403年生まれだから、写本が発見された当時は14歳。ちょうど王太子になった年齢ではないか!
現代と違って情報が広まるには時間がかかるだろうが、読書家で知られるシャルル七世なら数年のうちに写本の複写を手に入れているはずだ。
繊細で早熟な少年〜青年時代、しかも非常に不遇だった時に、エピクロスの快楽主義に感銘を受けた可能性は高いと思う。そして、シャルル七世の心を生涯支えたのだろう。
ラ・イルが残した名言「楽しそうに破滅していく王」も、シャルル七世がエピクロス主義者なら筋が通っている。
【前回の余談の続き】私は自分自身がシャルル七世とは思ってないが、今回の経緯から、シャルル七世とラボックは中身がそっくりだと思うようになった。快楽主義、学者趣味、自然科学主義、温厚で理屈っぽい、実績を積んでも自信が持てない性格、14歳と19歳がターニングポイント、砲兵隊とのかかわり、軍事改革の方向性……。なんだ、君たちは同一人物なのか?w
私は自分自身がかつてシャルル七世やラボックだったとは思わない……が、彼らの行動や「本に書かれた感情・考え方」に、他のどんな偉人・名作よりもはるかに共感するのも事実。
次回、パリのクリュニー美術館で開催している『シャルル七世時代のフランスの芸術展(LES ARTS EN FRANCE SOUS CHARLES VII)』について。
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