邪に堕ちし神達の番 〜復讐の焔は、世界をも焼き尽くす。〜

PUNPUN

第1話

何も聞こえない。


何も見えない。


ただ昏く。


遥か闇よりも暗く、手も足も動かす事は叶わず。


ただ独り、届かない希望を願い、深い闇の中で…何処にあるかも分からない空を見上げる。

我が身に刻まれた永遠の痛みを伴いし毒が身体を蝕み続け…死すら赦されない無限に続く地獄の中で。


かつて、この世に統べた誇り高き龍は、無限に続く孤独と無限に続く苦しみの中で、されど死を望まず。

悲しみと絶望の情は既に一万年前に消え去った。


我に遺されたのは、地獄の炎よりも熱く煮え滾る憎悪と怒り。

我を神と讃え崇拝した者達の裏切り、我が力の一端を奪い去りし我が同胞、この世界の神となる為に我らを陥れて邪へと堕とした女神。

ああ、許すまじ…許してなるものか…この痛みも、苦しみも、もう何も感じない…あるのはただ、憎悪。


怨讐の其方達の嘲笑が我が頭に響いて止まぬ。

あの日の地獄は今でも忘れぬ、忘れてなるものか。

信頼せし妹龍に力を奪われ、同胞達に蹂躙され、深い死が眠るこの遺跡に封じられた。

ああ、憎い…何故、裏切った。何故、我を見捨てた。


この報いは必ずや…幾年、幾千、幾万の時を経てようやく我が願い…我が恩讐は果たされるやも知れぬ。

封じられる直前、最後の力を振り絞り構築した召・喚・術・式・。

"神"に名を連ねし者のみに赦されし禁忌の御業…かつて、創世の女神が創りし大魔法。


此処では無い、異界と呼ばれし星々より選りすぐられた魂がこの世界と縁を結び現界する秘技。

この大魔法は、その発動に膨大な魔力を必要とする…海よりも、空よりも大きい魔力を…そして"神"と強力な"魂"…贄を捧げて初めて完成する。

封じられる間際に、殺した同胞達の魂を贄とし…幾万の時を経て集めた我が微量の魔力…そしてこの忌々しきこの遺跡に満ちる魔力を触媒に召喚する。


後は、詠唱を唄えば召喚魔法は発動する。


我が憎悪を背負い、この歴史に咎人として名を残そうと、共に歩み、共に全てを滅ぼす共犯者…

己が力を与えんが為の番を…


龍の唄が始まる。


ーー時は満ちた 術式は此処に完成した。

ーー我が魔力 此処に集いし恩讐の魂を贄として

ーー来たれ 来たれ 来たれ 遥か遠い星々より我が元へ

ーー勇者?否 英雄?否 我が番に誉は不要なり

ーー我が求めるは昏き絶望に包まれし者なり

ーー誓約は此処に結ばれた 


これにて召喚魔法は成った。


この昏き闇に包まれた遺跡に淡い光が広がる。

されど、其処に求めし番いは在らず。

龍は、幾万年振りの絶望を味わった。

己が努力は無駄だった…いや、分かりきっていた事だったのだ。

召喚魔法に刻まれし誓約はもう二つあった…この魔法は世界に大いなる厄災を呼ぶ為の召喚は出来ない。

そしてもう一つ…それは、召・喚・魔・法・は・複・数・同・時・に・発・動・す・る・事・は・不・可・能・で・あ・る・事だ。

不可能とは言っても確かに魔法は発動される…召喚魔法が2つ発動された場合、その権利はより魔力とその魂の強大さによって決まる。

そして稀に、権利を失った召喚者の召喚した人物が権利を得た召喚者の元に現界する事もあるのだ。


それ故に、龍は待つ。


その一筋の奇跡を願い、ただただ待つ事を決めた。



ーー


俺たちは研修旅行中だった。


 鬼龍院学園1年A組。


 今は海沿いの狭い道をバスで移動している。


イビキをかいて寝ている生徒。

スマホいじってる生徒。

親い者同士で静かに会話する生徒。

化粧を始める生徒。


そしてこのクラスで特に目立つのは、後ろの座席に集まってるやつらだ。

この学園でも最も目立ち、カースト上位に君臨する一軍男女。



「あー、オンナできねぇかなぁ」

「葛葉君は少し女の子に対して軽すぎないかい?」


 浦蟻聖也うらありせいや。


 男子が羨むようなイケメン。

 頭も良く、運動も出来る、天才。

 男女平等に優しく、彼の発言には皆が聞き入れる。

 まぁ、勇者タイプだろう。


「聖也君って本当に素敵〜」


一軍のギャルによる黄色い声援が響く。

いつも周りには女の子が居るが、その人当たりの良さから男子からも好かれている。

 このクラスは、彼の存在によって均衡に保たれている。


 そんな聖也の隣でいつも甘い蜜を吸おうと媚びているのは、葛葉末羅くずはまつろ。


見た目からして分かるようなチャラ男。

浦蟻の中学時代からの親友らしい。

顔はまぁまぁイケメン。

見た目通り、素行が悪く女癖も悪いし、口も悪い、すぐに手も出る。

性格も悪く、クズっぷりは誰よりも優れていると思う。


この2人の他にも一軍には注目を集める人達も居る。


「あーしらで良くね?」

「むーり。」

「下がるわ〜」

「ギャルなら、漆原みたいになれや。」

「えー、そりゃ無理ってもんよ〜、」

「……」



 コイツらのテンション感にはついていけない。

 一方、名前を出された一軍ギャル集団の一人。


漆原雲母うるしばらきらり。


少し異質な雰囲気を纏う有名人。


見た目はバリバリのギャルだが、他の有象無象と違って常に静かで他者にはドライで、一匹狼的な立ち位置にも居る。


ギャルだが、優等生。

妖艶な顔立ちと身体。

腰辺りまで伸びた綺麗な金髪にカラーコンタクト。

着崩した制服、ボタンがはち切れそうな程に豊満な胸。

下着が見えそうなミニスカートに薄い黒タイツ。

学力はクラスで二位。

運動能力も優れており、空手の有段者。

スタイルもずば抜けていて、人気爆上がり中のギャル読者モデル。


その隣に座っているのは、姫羅技寧々。

雲母の読者モデル仲間で、ド派手な褐色ギャル。

耳には幾つものピアスを付け、長い髪は桃色。

スタイルも良く、スラリとした長い脚に編みタイツ。

また頭も良く、運動神経も良い。



「いい景色ね。貴女もそう思わない?藍那?寧々?」

「ふぇ!?」

「そっすね〜!」


ふと、チャラ男に名前を出された事も気にも止めずに隣に座っていたこれまた美しい女生徒と褐色ギャル女生徒に声を掛ける。

 

「まじか!?ええ!?、俺が名前出してまさかの無視!?えぐー!」


チャラ男の五月蝿い声がバスの中に響き渡る。

 すると澄んだ声が、車内の空気を震わせた。


「葛葉君、少し静かにして欲しいな。」

「は?」

「私達、静かに過ごしたいの。」


 鬼龍院藍那きりゅういんあいな。


クラス委員長。

絶世の美女で、まるで人形と見間違う程に美しい。

そのあまりの美しさが話題となり、テレビ番組にも出演し都内の他校からも次々と人が集まった。

美しい黒髪姫カット。

色白の肌、長い脚に薄い黒タイツ。

そして鬼龍院グループの令嬢にしてこの学園の理事長の娘でもある。

 文武両道で成績優秀。

学力のクラストップ。

また、武道を幼い頃から教え込まれている。

 正に主人公或いはヒロイン。

一つ欠点があるとするのならば…留年していると言うことだけだ。

コレには事情があるのだが、ここで語る必要も無いだろう。


「あ〜?」


葛葉が少し苛立った様子で鬼龍院を睨む。


「だから私達は静かに過ごしたいの。少しだけ静かにしてくれないかな?」

「はぁ〜??相変わらず冷たいやつだなぁ〜??」


あ〜始まったよ。

葛葉による鬼龍院へのダル絡み。

いつもクラスで見る光景だ。

休み時間から放課後までずっと鬼龍院を口説く事は日常茶飯事。

何度も断られても決して諦めない所は尊敬するが、正直気持ち悪い。


「つぅか、良い加減告白の返事くれよぉ〜?なぁなぁ?」

「それは前に断ると言ったわよね。」

「本当はそんな事言って、好きなんだろぉ??」

「そんな訳ないでしょ。」

「照れんなって!俺と付き合えば楽しいぜぇ?勿論、色んな意味でな?」

「ほんと、キモいわね。」


おいおい。

その発言はクソだろ。

コイツ典型的な勘違い男って奴だな。


「リュー君も何か言ってよ…あっ!」


ここでとんでもないパスが俺に回ってきた。

一瞬、理解できなかったが鬼龍院いや藍那は確かに俺にこの話題をふっかけてきた。

やってくれたな…何を隠そう、俺は鬼龍院と幼馴染である。

ついでに言うと、漆原達とも友人だ。

だが、クラスの奴等には黙っている事を約束していた。

鬼龍院は、自分がやらかした事に気が付いて口を両手で覆う。

 完全にやってしまった。

そうなれば、その矛先は俺へ向く事になるのは当たり前で…まぁこうなったらもう仕方ない。


「葛葉。その発言は訴えられてもおかしくないぞ。」

「え?は?お前、鬼龍院と仲良かったの?」

「そんな事、お前に関係ないだろ。」


そう、俺と鬼龍院の関係がどうだろうと他人が気にする必要はない。

が、コイツに関しては別だろう…何故なら、葛葉ひ鬼龍院が好きなのだから。


「おいおいおい、まさか付き合ってるとかじゃねぇよな!?付き合ってるのか?」

「付き合ってないわよ、龍牙君とは幼馴染なだけ。」


もう言っちゃうんだ…

当然、この事実を知らなかったクラスメイトはざわめき始める。

これまで、バスの車内でタバコを吸いながらこの一連の出来事を静観していた椎名先生も注目する。

この発言が、葛葉の嫉妬心を更に大きくしてしまう。


 


鬼龍院は凄く申し訳なさそうな顔をしてこっちを見てくる。

もう隠す必要もないだろと小声で彼女に伝える。


「で?鬼龍院はコイツの事、好きなん?」

「!は!?何言ってんのよ。」


この反応がダメだった。

いきなりの事に驚いてしまった所為なのか、鬼龍院が動揺した様子を見せてしまった。

珍しいな、普段はあんなに凛として何にも動じないのにな。

可愛い、そう思った。


「おっと〜!?おっとっと〜?その反応は好きなのか??」

「だから違うって!」

「そんなこと言って〜好きなんだろ?」

「ちょっと、良い加減にーー」


堪忍袋の尾が切れた鬼龍院が立ち上がった。

その時、だった。



 なんの前触れもなく――



俺達全員の足元に巨大な魔法陣が現れる。


なん、だ?


何かのイベントが?


そう思った瞬間には、俺達は魔法陣から放たれた光によって飲み込まれてしまった。

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邪に堕ちし神達の番 〜復讐の焔は、世界をも焼き尽くす。〜 PUNPUN @kakaro10

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