第24話

 ――その日の夕方


 神社本庁から帰宅した輝は紫輝と香から今日あった出来事を聞いて愕然とした。


「周囲にバレるのが早すぎないか!?」


「いや~、陛下の才能が想定外でしたからね。それに陛下本人が話さなくても陛下の言動で感が良い人間は察してしまうんです。それが連鎖した感じでバレたというか……」


「でも、近習頭の物部さんにバレたのは完全に紫輝ちゃんの落ち度だけどね」


「それは言わないで下さい……」


 バレたのは自分の所為ではないと輝にアピールする紫輝だが、香にツッコまれてあえなく撃沈される。


「青史郎殿から物部には紫輝の前世の事は伝わるだろう……。もう周囲に隠しておくのは限界だぞ?」


「う~ん、前世の事なんて別に知られても構わないんですが……共産国や合衆国に話しが伝わると復讐しに自分の命を狙って来る輩が現れるかもしれないんで……。もうこれ以上は話しが拡散しないよう制限したいですね」


「お前は皇国にとって救国の英雄だが、共産国の一部の人間や合衆国にとっては憎き敵だからな。先のテロ事件やロゼット皇女の婚約でテロ組織”黒百合”にも目を付けられただろう。紫輝の前世の事は勇希や美琴にも話しておいた方が良さそうだ。あと、優真殿と――総一朗にも」


「父さんには鎧騎の事で協力してもらいたい事があるんで自分から話します」


「紫輝から話すのが筋だからそれは構わないが……鎧騎とは?」


「前世の報奨で希望していた鎧騎の部品や装備が陛下から貰える予定なんです。それに実は……前世で鹵獲した合衆国や連邦国の機体を魔導具の中に保存してあるんですよね」


 紫輝は戦時中に手に入れたそれら鎧騎の入手ルートや方法に関して他者から突っ込まれた時の対策を総一朗に相談するつもりでいた。


「収納箱にか? 鎧騎を保存できるなんて高性能だな。その鹵獲した鎧騎の登録や税金はどうなっているんだ?」


「当時はそんな制度はありませんから登録なんてしてませんし、税金も払っていません。それにその魔導具は自分にしか扱えないように設定してあるんで鎧騎が入ってるなんて誰も知りませんよ」


「今はそういう訳には行かないぞ!」


 仮にも星皇の臣下が税金を払っていないのが周囲に知られたら大問題になる。

 輝は頭を抱えて狼狽えた。


「どうしよう……追徴課税金が怖い……」


「大丈夫! 登録や免許、税金が必要なのは完成品です。全部バラして部品単位にしておけば必要ありません! そもそも、それは死んだ”物部紫輝”の持ち物であって、今の自分とは何も関係ありませんから追徴課税なんて発生しませんよ」


「それもそうか」


 輝は紫輝の言葉に誑かされて開き直った。


「でも姉さん、このまま紫輝ちゃんの護衛が私の式神だけじゃ厳しいわよ」


「一応、陛下から星軍や形祓から護衛を付ける事を打診されている。もうすぐ派遣されて来るだろう」


「護衛なんて堅苦しいですよ……」


 護衛はともすれば監視にもなる。

 周囲に隠れて好き放題できなくなる事を危惧して紫輝は不満を漏らした。


「お前を護るためだ。我慢しろ」


 そこで玄関から帰宅を告げる総一朗の声が聞こえた。


「あっ、父さんが帰って来た」


 総一朗は以前の仕事が忙しかった時期と違い、今は抱えている仕事が少ないので残業もない。

 定時で帰れるので帰宅時間が早かった。

 その帰宅した総一朗を出迎える輝と香、そして紫輝。


「香さん、今日はこっちで夕飯ですか?」


「いえ、今日は家族で外食するので二人が来るのをこちらで待たせて貰っています」


 香は神社の仕事が遅くなると娘と一緒に神薙家で夕食を食べていた。

 そんな二人の会話に紫輝が割って入る。


「父さん、うちの家族に物部紫輝が居たらどう思いますか?」


 いきなり意味不明な質問をされて当惑する総一朗。


「はい? 突然どうしたんだい、紫輝?」


「実は自分、物部紫輝の生まれ変わりなんです」


「へ?」


 紫輝の奇妙な前振りからの告白に間抜けな声を出して思考停止する総一朗。

 しばらく硬直していたが、紫輝の隣にいる輝を見て再起動する。


「大変だ、輝! 紫輝がおかしくなった!」


 総一朗は慌てて輝に訴える。

 その輝は紫輝に対して呆れていた。


「ああ……僕が小さい頃から物部紫輝の話しを聞かせてたから、自分を物部紫輝と思い込んでしまったようだ……」


「紫輝……話しが唐突すぎるぞ。総一朗が混乱しているではないか」


 輝は事情を把握していると判断した総一朗は彼女に問い掛ける。


「え? 何? どういう事なんだ輝?」


「以前話した紫輝の秘密だ。今言った通り、紫輝は”物部紫輝”の生まれ変わり。総一朗、親としてこの事実を受け止めろ」


「紫輝の秘密ってこの事だったのーーーっ!?」


 何気ない日常から非日常へと叩き落されると総一朗。


「まさか我が子が……僕の命の恩人で英雄の生まれ変わりだったなんて……」


 今まで息子と過ごした記憶が脳裏をよぎる。

 その中では自分が物部紫輝に関する知識の数々を自慢気に語って聞かせる姿とそれを微妙な表情で見つめる紫輝の顔が見える。


「はっ!? 紫輝のあの表情はそういう意味だったのか!?」


 紫輝の心情を悟った総一朗は恥ずかしさのあまり両手で顔を覆い隠す。


「穴があったら入りたい……」


「まあまあ……。人間、恥ずかしい事の一つや二つどうってことないですよ。自分なんて、死んだ後に人生が書籍化されて恥ずかしい事がぶっちゃけられたんですから……」


 心が羞恥に染まり、落ち込む総一朗。

 それを慰める紫輝。

 そんな混沌とした状況の中、紫輝の後ろに忍び寄る影が。


「ん?」


 それに気付いて紫輝が振り向くと――そこには姉の沙夜が後ろ手に何かを持って立っていた。


「しまった!? 姉さんに話しを聞かれた!?」


「紫輝……これ、教えて!」


 目を輝かせながら沙夜は”紫輝物語”を突き出して、鈴との恋愛話しに関して紫輝を質問攻めにする。


「いや~~~っ!? だから姉さんには知られたくなかったんだよーーーーーーっ!!!!」


 その後、屋敷中に響く紫輝の絶叫はしばらく絶える事がなかった……

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彼は機械人形とダンスを踊る 真田 貴弘 @soresto

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