かわいそうなんて言わせない
秋色
ぼくのストーカーが現れた!?
金曜日の体育の
いちばん
だからぼくも負けずに思い切りけ飛ばすつもりが、ボールに足を
みんなは大笑い。
その後で野口君が、
教室に戻ってもぼくは、みんなにからかい続けられた。帰りのホームルームが終わって、さっさと帰り
「うん」
「新田んちでみんなで、ゲームするって言ってるぜ。家、確か、さくら町の方だったよな」
「ぼくはいいかな」
ぼくは、ゲームは付き合い
それなのに、なぜか今日にかぎって話しかけてくるのは、さっきの体育の
「さっきの事なんか気にするな」、「ドンマイ」
そんなふうに言われたら、きっとぼくの心はズタズタになる。向こうは、
これがプライドってやつだ。
だからぼくは、「じゃ」とそっけなく言って、教室を出た。
帰りにおじいちゃんの家に
それにさくら町の
庭の手入れをしていたおじいちゃんに、門を開けてもらうと、おじいちゃんの
ぼくとミルミルは大の仲良しで、今日みたいにイヤなことがあった日には、まるでミルミルにもそれが分かっているかのように、お菓子も持っていないぼくの手のひらをペロッとなめ、なぐさめてくれる。
「ミルミルはいいな。優しいおじいちゃんの側に一日中いられて、庭で遊んでればいいんたから」
そんなミルミルに言っても仕方のないグチが、ついこぼれてしまう。
そして二日後の日曜日。今日は妹の菜々といっしょにおじいちゃんの家へ。これは日曜日のルーティン。
宿題や勉強道具を抱えておじいちゃんの家へ行き、大きなテーブルでまず勉強を片づける。日曜日にはママの妹、つまりぼくらの
その後は妹やミルミルと庭で遊んだり、ミルミルを連れて近くを探検したり。
おじいちゃんの家の近くには、丘があって、そこからは町全体が
その朝、菜々とおじいちゃんちに向かう最後の曲がり角を曲がる時、ふと
もしかしたら野口君の友達か
まさか、「金曜日の事なんか気にするな」とか、「ドンマイ」とぼくに言うために?
いやいや、そんな事は、いくらなんでも、ありえない。それじゃストーカーだ。
第一、あの遠くに見えた白いパーカー姿が野口君だという確かな
ぼくはひたすら目の前の計算問題に集中した。
するとしばらくして、まぁちゃんが部屋にやって来て、「ヒロキ、あんたにお客さんが来てるけど」と言う。
「え? なんでここへ? だれ?」とぼくは
「何だろう?」
まぁちゃんが、「友だちになりたいと言ってるみたい」と言う。
え? じゃあやっぱり野口君でなくて、他の
妹の菜々は、「ヒロ
広い
それにしても野口君なら、ますますわけが分からない。新学年でクラス替えがあったばかりの時期ならまだしも、十一月の今になって友だちになりたいなんてふつう言うかな?
空気を読まない菜々が、「このお兄ちゃんが、ヒロ
「だから……」とぼくは一人あせっていた。
「いや、スポーツがすごく得意でさ」とわけのわからない野口君の
するとおじいちゃんが菜々の言葉を
「いや、ここにいる野口君が 友達になりたがってるのは、ミルミルの方だよ」
菜々が
ぼくも
「いや、
「そっか」と菜々は
大体、なんで妹がアニキのことに口出しするんだよと突っ込みたい気分をぼくは
でも心の中で、野口君の説明に安心していた。
「でもなぜ、ミルミルのことを知ったの?」とぼく。
「何日か前、親の車に乗ってファミレスに行く途中、この前の道を通ったんだ。そしたら、渡辺君がきれいな
「そうだったのか」とぼく。
うなずくおじいちゃん。
「それでミルミルと友達になりたいわけ? それならかんたん。ミルミルは誰にでもなつくんだから」
「本当に?」野口君がうれしそうにきく。
おじいちゃんがぼくに言った。「ヒロキ、今日は、お友達といっしょにミルミルの散歩に行きなさい」
「あたしも行っていい?」菜々がきくと、おじいちゃんは「菜々は家にいなさい」と言う。
「え〜」と不満そうな菜々をあとにして、ぼくは、ミルミルにリードを付けた。「こっちに来て」と野口君に言い、ミルミルに紹介する。こわごわ
いくつかのコースがあるけど、今日は丘の上に行くコースにしよう。
丘の上に着くと広がるいつものまぶしい風景。どこかの小学校で運動会が開かれているみたいで、誰かの手を放した赤い風船が風に飛ばされ、青い空をどんどん
「わあ、こんなに町全体が見えるのかー。すげー」野口君は感激していた。
ぼくはふときいてみた。
「犬が好きなら、家で犬を飼ったりしてないの?」
「うちはマンションなんで、飼えないんだ」
「そっか」
「渡辺君はいいな。犬とか可愛い妹とか」
「犬は、ホントはおじいちゃんが飼ってるから。それに妹はちっとも可愛くない!」
「いや、オレ、下に兄弟がいないから、うらやましい」
「下にいないなら、上にいるの?」
「うん。アニキがいる。でも、高校生でスポーツのためちょっと離れたとこの高校に行ってるんだ。その高校の
それはさびしいだろうなと思ったけど、そんなふうに言うと、何だか上からものを言ってるみたいで、ちょっと失礼かなと感じた。かわいそうなんて言われたくないと思ったのは、自分の方のクセに。
だからプラス
「でもさ、冬休みには帰ってくるんだろ?」
「ああ、帰って来る。楽しみなんだ」
「そっか、楽しみなんだ」
「ほら、あの山の向こうを通ってる鉄道があるだろ? その鉄道を通る電車に乗って帰って来るんだ。だから最近、マンションの窓から山を見るのが楽しいんだ」
「へえ。マンションの窓からでも山が見えるんだ」
「ああ。マンションも悪いことばっかりじゃないよ」
今日はいつもより、山のエメラルドグリーンの色が
「あのさー」ぼくが沈黙を破る。
「なに?」
「今度ボールを
「なんだ。そんなことか。いいよ」
ぼくはつまらないプライドを、秋風の中に捨てた。空を飛んでいく風船みたいに。
こうして野口君は僕達の日曜日のルーティンの新メンバーとなった。
いつもミルミルに会うたび、顔がほころんでいる。
そして日曜日は、ぼくと菜々のスポーツ全般の先生役もこなすんだ。今のところ、ぼくより、アスリートを目指す菜々の
🙂
――おわり――
かわいそうなんて言わせない 秋色 @autumn-hue
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