第3話 厳しい訓練もなんのその
舞の訓練が始まった。
鬼軍曹とあだ名される特殊部隊の教官が舞の前に現れる。
「健康状態は問題が無さそうだな」
彼にそう問われ、舞は「はい」と返事をする。
「お前さんは多分、常人の数倍の力がある。走れば、100キロだって余裕で走れるだろうし、10メートルの壁だって、飛び越えるだろう。だが、それはあくまでもお前に宿る狐の力だ。お前自身が鍛えなければ、いつか、狐の力で体が崩壊するだろう。器としてのお前が力の制御が出来るようにするのが今回の訓練の趣旨だ」
舞は話を聞いて、自分の身体の状態ってまぁまぁ危険なんじゃと実感する。
そして、訓練は過酷を極めた。
体の限界を知るためと称して、朝から車に追われながらの持久走である。時速50キロの車に追われながらの休みなしの20キロ持久走。少しでも休もうとすれば、車に轢かれそうになるのである。
教官曰く「轢かれて死なない」そうだ。
その言葉通り、教官は轢くつもりでハンドルを握っていたと舞は思う。
その後も普通の人間では到底、無理な訓練が続けられる。
10キロの重りを手足に着けられての遠泳。
100キロのバーベルを担いだまま、100段の階段を上る。
身体を酷使するだけのための訓練が続いた。
それとは別に射撃、近接格闘術、車の運転などの技術も教わる。
こうして、地獄の一か月はあっという間に過ぎた。
舞はげっそりと痩せて、皆の前に戻って来た。
「殺されるかと思った」
舞の一言に皆は一様に頷く。
「舞さん、初めまして。不知火です」
そこには最初の日に会えなかった不知火の姿もあった。
確かに緋色の髪をした美少女であった。
「地獄の特訓を終えて、ようやく一人前になったわけだな」
「そうなんですか?」
舞はゲンナリしながら答える。
「肉体作りは大事だぞ?体がバラバラになってもしらないからな」
「なるんですか?」
「強化されたとは言え、所詮、人間だからな」
「そうですか・・・」
すでに死んでいたと身からすれば、贅沢な話だと舞は思った。
そこに冴島が入って来た。
「全員揃ってるな。出席を取るぞ」
点呼を終えて、ミーティングが始まる。
「三日月が訓練から帰って来た。実戦で評価しなければならない」
「評価ですか?」
「そうだ。試験だよ試験。お前が使い物になってるかどうかの」
「試験ですか・・・ダメだったら?」
「また訓練だ。使い物になるまで訓練だ」
「えぇえええええ」
舞はあの地獄のような訓練から解放されたとばかり思っていたので絶望的になった。
「大丈夫や。ちゃんとやれてれば、訓練せぇへんでええんや」
万理華が慰めるように言う。
「どうでも良いけど、評価する為にある作戦に参加する事になった」
「作戦?」
「麻取が大型組織への一斉捜査を画策しているわ。人手が足りないからって打診があったの。それに参加する。相手はただの人だけど、武装をしている可能性もあるから、丁度良いわ」
「丁度良いって・・・相手が銃を持っていたら殺されるかもしれないじゃないですか?」
「その程度で死んじゃうなら、メガネ教団には歯が立たないわよ。あっちは悪魔が宿ってるんだから」
「そうですか・・・。それでそれはいつ始まるんですか?」
「今夜よ」
AG 三八式物書機 @Mpochi
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