第4話 画面の中と外
太陽が目線の先に上がったころ、僕は窓を開けライオンの背中を見つめた。
「時々、自分の人生じゃないみたいな気持ちになるんだ」
ライオンからは何も返ってこない。
吐く息が震えて唾液の輪郭を感じる。
「朝、洗面所に立つと背後には自分のことを俯瞰して見ている、もうひとりの自分がいるんだ。もう一人の自分というか、もう一人の誰か。僕は自分の人生を生きているようで実は、誰かが動かしているゲームのキャラクターみたいだ」
ライオンは動かない。
「こんなこと言っても分からないよね。ごめん変なこと言って」
「わからない」
えっと思わず声が漏れて、顔を上げるとライオンの尻尾が左右にピタピタと揺れていることに気が付いた。
「私にはお前の感覚が分からない。生き物としての形が違うからなのか、お前の言葉が足りないからか。おそらくどちらもだろう。」
そういって首を後ろの方に伸ばした。おそらくあくびをしている。
「洗面所だけじゃなくて、トイレとか電車の中とか突発的に感じる。今日は洗面所で顔を洗うために腰を曲げたときだった」
それから今までの自分の中にしかなかったあの感覚を、初めて言葉に変えて吐き出した。
自分は、実は誰かの操縦の元で動いている感覚。見ている光景はゲーム機のようなデジタルの画面に映し出され、神様やゲームのプレイヤーのようにその画面を見ているもうひとりの気持ちになる。
どこかで見たことがある光景はまるで早送りしたい待ち時間のようだ。
自分はなぜ生きているのか、そもそも生きているのか、洗顔も排泄も食事も学校も仕事もお金も全部、虚構なのか。ふっと息を吹きかければばらばらに吹き飛んでしまうのではないか。
時々、そうやってどうしようもなく、「無」を感じる。
ライオンに話していたのか自分と話していたのか、途中からわからなくなっていたと思う。
一通り言葉に変えた後、ライオンのことを見ると動かなくなっていた。
まるで公園に置かれた遊具の一つのように。
遊具のようだ。
遊具だったか、
また無になってしまったのか。
ソコノシトリン ここのつ @kokono2
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