第32話 新ヒロインと修羅場
「ヤバッ!?」
「アゲハさん、声出しちゃダメだって!?」
ハッとしてアゲハが口を塞ぐ。
「ッ!? やっぱり誰かいるのね! こんな所でなにをしてるの! 開けなさい!」
ガチャガチャと少女が乱暴に扉を揺らす。
「どどどど、どうしよう!?」
「落ち着いて! とりあえず服直そ!」
アゲハに言われ大慌てで乱れた体操服を直す。
「でもアゲハさん、こんな所見られたら……」
「大丈夫! 奥の窓から逃げられるから! こっち!」
アゲハを追って奥に向かうが、窓には真新しい柵が設置してある。
「嘘!? なんで塞がってんの!?」
「……そう言えば、不良事件で学校側が防犯体制を強化するとか言ってなかった?」
「……言ってたかも」
二人が付き合っているのは周知の事実だ。
その上アゲハは元ビッチ。
そんな二人が放課後の体育倉庫に鍵を掛けて籠っていたらエッチな事をしていましたと言っているような物である。
最低でも停学、下手をしたら退学もあり得る。
不良達のレイプ未遂についても、アゲハの訴えを疑問視する声が上がるかもしれない。
根がネガティブな九朗である。
今後訪れる可能性のあるリスクが次々頭に浮かび上がる。
とにかくアゲハだけは守らなければ!
その為には何が出来る?
「アゲハさんを跳び箱の中に隠して俺が囮になってる隙に逃がす? ……ダメだ。アゲハさんが居る事はもうバレちゃってるし……。なら逆は……でも、もしバレたら余計に不味い事になるだろうし……。そうだ! 俺が無理やりアゲハさんを連れ込んだ事にすればアゲハさんは助かるかも!」
「却下! そんなの嬉しくないし! ていうか絶対イヤだし!」
「でもこのままじゃ二人とも……」
「だったらその役あ~しがやるべきじゃん! 言い出しっぺはあ~しなんだし!」
「それはダメだよ! アゲハさんに押し付けて俺だけ逃げるなんて絶対イヤだ!」
「あ~しだって同じだから! 助かるなら二人一緒に! てかここはあ~しがなんとかするから!」
頬を叩いて覚悟を決めると、アゲハは入口の方に歩いていく。
「なんとかって、どうするつもり!?」
「誤魔化すの! 大丈夫! こーいうの慣れてるから。竿谷君は適当に口裏合わせて!」
「誤魔化すって、この状況から!? 無茶だよ!?」
「信じて! はーい! 今空けまーす!」
引き止めようとする九朗を無視してアゲハが鍵を開ける。
扉の向こうに立っていたのは見覚えのある顏だった。
「真島先輩!?」
聞き覚えのある声だと思ったら
二年三組の
黒髪ロングにスラリとした身体つき(でも巨乳)のクール系美少女である。
お堅そうな見た目通り、吹雪は風紀部員である。
ゲーム内ではお邪魔キャラとして登場し、校内で他のヒロインといちゃついていると彼女に見つかるイベントが発生する事がある。
お説教でヒロインとのエッチイベントをキャンセルされたり(野外イベントに派生するだけだが)、先生に言いつけられて
典型的なエッチな事に厳しいムッツリスケベヒロインである。
九朗としてはアゲハ同様シコりまくった相手なのだが、向こうにとっては初対面である。
「あなたは……竿谷君? 私の事知ってるの?」
怪訝な顔で聞いてくる。
アゲハもジト目で睨んできた。
「……誰この女。竿谷君の知り合い?」
自分の物だと主張するように、わざとらしアゲハが腕を絡めてくる。
そんな事をしている状況ではないのだが、それを言える空気でもない。
「まさか!? 全然!? 有名人だから知ってただけ! 聞いた事ない? 風紀部の氷の女王って呼ばれてる人なんだけど……」
アゲハも名前くらいは聞いた事があるはずなのだが。
「……知らな~い。てかなにそのあだ名? 高校生にもなって氷の女王とか、超~寒いんですけどぉ」
本能的に相手が
アゲハは知らないふりをすると、小馬鹿にするように言った。
「あ、アゲハさんっ!?」
完堕ち後の
凍てついた表情でアゲハを睨むと。
「あなたと同じで周りが勝手に呼んでるだけよ。人食いマンホールの二子玉アゲハさん」
「はぁ? そんなあだ名聞いた事ないし! てかよくわかんないけど氷の女王よりはかっこいいじゃん!」
「……あなた、バカでしょ」
「はぁ!? バカじゃないし! バカって言った方がバカなんだし! バーカバーカ!」
ムキになって言い返すと、アゲハがこっそり聞いてくる。
「ねぇ竿谷君、人食いマンホールってどういう意味?」
「えっと、知らない方がいいんじゃないかと……」
「気になるじゃん!?」
「そんな事よりあなた達! 体育倉庫に鍵をかけて何をしていたの!」
「なんだっていいじゃん! 真島先輩には関係ないっしょ!」
「あるから言ってるのよ! 私は風紀委員よ? 誰かさんが校内で淫らな問題を起こしたせいで取り締まりを強化する事になっているの!」
「誰だしそいつ! ちょ~迷惑なんですけど!」
「あなたよ! あ、な、た!」
「あ~し!?」
胸元に指をグリグリされてアゲハが驚く。
「学校内で集団レイプ未遂が起きたのよ! 問題にならないわけないでしょうが! だから私達風紀委員は再犯防止の為に怪しい場所を見回りしているの。それなのに、当のあなたが下の口も乾かない内に体育倉庫に男連れ込んで淫行しようとするなんて! そんなんだからレイプされそうになるんでしょう!」
「待ってください! 確かにアゲハさんの素行には問題ありましたけど、レイプ未遂はアゲハさんのせいじゃないでしょう!? アゲハさんは無理やり連れ込まれた被害者なんです! あの事件でアゲハさんも反省して、真面目になろうと頑張ってるんです! そんな言い方はやめてください!」
「体育倉庫で淫行してた男に言われても説得力がないのだけど?」
「そ、それは……」
それを言われるとぐぅの音も出ない。
「クラスメイトの女子を助ける為に反社モドキの問題児共を一人でやっつけたって聞いた時は大したものだと思ったけれど。結局あなたもエロ目的の破廉恥人間だったのね。見損なったわよ、竿谷君」
「うぅ……」
格好つけた所で吹雪の言う通りなので言い返せない。
それはそれとして九朗はちょっと興奮した。
基本ドMの吹雪だが、M男っぽい選択肢で嗜虐心を煽る事によりドSキャラに育てる事も可能である。
こちらもかなり人気があり、後になってDLCで
別売り音源でもS島先輩に罵倒されるカウントダウン射精管理ASMRは大変な人気である。
九朗も前世ではかなりお世話になっており、彼女に罵倒されると条件反射でムラついてしまう。
(し、仕方ないだろ!? だって俺、ドMなんだぞ!?)
誰にともなく言い訳をする。
ふと殺気を感じて隣を見ると、アゲハがハイライトの消えた目でこちらを凝視していた。
「なんでちょっと嬉しそうなの」
「え!? き、気のせいだよ!? 気の強そうなムッツリスケベの先輩にキツイ事言われて興奮するとかそんな変態みたいな性癖持ってないから!?」
「そこまで言ってないし。ふーん。そう。そうなんだ。竿谷君ってそういう系がいいんだ。……キンモッ」
吐き捨てるように言われて背筋が凍る。
それなのに、ちょっと興奮している自分もいる。
アゲハも基本Mなのだが、選択肢によっては以下略。
勿論ビッチなギャルに罵倒されるカウントダウン射精管理ASMRは以下略。
同じヒロインでもルートによって幅広い楽しみ方があるのがマスオナの魅力である。
(ど、どうしよう。アゲハさんに嫌われた……)
涙目になる九朗をブタを見るような目で眺めると、アゲハはそっと耳打ちした。
「……竿谷君の好みなら、あーしだってこういう事出来るんだから」
顔を離すと、アゲハは恥ずかしそうに俯いた。
「……だから、あーし以外の女に興奮しちゃダメなんだし……」
「……はひ」
好きすぎて九朗の頭はクラクラした。
なんだ今の台詞。
エロゲかよ!?
……エロゲだった。
「ちょっとぉ!? なに人の事無視してイチャイチャしてるのよ! ていうか、誰がムッツリスケベよ!? 私は面目で如何わしい事なんかこれっぽっちも興味がないんだから! むしろ嫌いなくらいだわ!」
「いやいや先輩、それはないっしょ(笑)。女だって性欲あるし? あ~しら高校生だよ? エッチな事だ~い好き、興味津々のお年頃じゃんか」
「あなたみたいに男と見れば誰にでも股を開く脳みそドピンク淫乱おビッチさんと一緒にしないでちょうだい!」
「そういうのもう卒業したんで! 今のあ~しは彼ピ一筋! ね~?」
引き寄せるように腕を組み、アゲハがぐりぐりと二の腕に頭を擦りつける。
「えっと、まぁ(照)」
「だぁあああああかぁあああらぁあああああ!? イチャイチャすんなって言ってんでしょうが!?」
スカートがめくれるのも気にせず、吹雪がゲシゲシと地団駄を踏む。
(純白!? それもリボン付き!?)
「竿谷君?」
「見てません! あんな子供っぽいパンツ趣味じゃないし!」
「……絶対嘘。いーもん。あ~しもああいう奴履いてくるから」
膨れて拗ねるアゲハは途方もなく可愛らしい。
黒髪三つ編み伊達眼鏡のムッチリ巨乳黒ギャルにリボン付きの白パンツ。
そんなの性癖の次郎ラーメンだ。
「やめなさいってば!? あぁもう! あったまきた! なんであんたみたいな淫乱ビッチにこんなイケメンの彼氏が出来て真面目に生きてる私が非モテなのよ! おかしいでしょ!? しかも白昼堂々学校の体育倉庫でパコパコしようだなんて絶対に許せない! 決めたわ! こうなったら先生に言いつけて退学させてやるんだから! ざまぁ味噌漬けたくわんポリポリよ!」
吹雪がモテないのには近寄りがたい雰囲気のせいなのだが。
それはそれとして非モテを拗らせたムッツリスケベである。
淫行カップルに目の前でイチャつかれて完全にキレてしまったらしい。
このままでは二人仲良く退学ルート、涼子にも怒られてアゲハと別れさせられるかもしれない。
「待ってください真島先輩! これは……誤解なんです!?」
「待ちません! な~にが誤解よ! 男と女が体育倉庫に鍵をかけてやる事なんか一つしかないじゃない! 百パーセックス! エッチしてたに決まっているんだから!」
エッチじゃなくて二人でズリネタ撮影会をしてる途中に盛り上がって相互オナしそうになってただけなんですなんて言えるわけがない。
「違います!」
自信満々に言い切ったのはアゲハだった。
「あ~し達、エッチなんかしてません! 結婚するまでエッチしないって竿谷君のママとも約束してるし! だよね? 竿谷君!」
「ぇ、ぁ、ぅん……」
「そんなの知らないし聞いてないし信用できないし絶対嘘に決まってるでしょ!」
「嘘じゃないし本当だし!」
「じゃあ何をしてたのよ! 男と、女が! 放課後の体育倉庫に! 鍵までかけて! いったい何をしてたって言うの! エッチしてないって言うのなら、納得出来る理由を言ってみなさいよ!」
「でんぐり返しの練習だし!」
(……アゲハさん。いくら何でもそれは無理だよ……)
遠くでカラスがカァーと鳴いた。
エロゲの竿役に転生した俺は今度こそ真っ当な人生を歩みたいのに、攻略対象が俺を見逃してくれない件。 斜偲泳(ななしの えい) @74NOA
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